あらすじ
『哲学者の密室』の“悲劇”再び
矢吹駆シリーズ最新作!
間違われた誘拐
連鎖する誘拐
前人未到、永久不滅の誘拐ミステリ
1978年の秋、矢吹駆とナディアは“三重密室事件”の記憶を持つダッソー家での晩餐会に招待され、アイヒマン裁判の傍聴記で知られるユダヤ人女性哲学者と議論する。
晩餐会の夜、運転手の娘・サラがダッソー家の一人娘・ソフィーと間違えて誘拐される。さらに運搬役に指名されたのはナディアだった。
同夜、カトリック系私立校の聖ジュヌヴィエーヴ学院で女性学院長の射殺体が発見された。
「誘拐」と「殺人」。混迷する二つの事件を繋ぐ驚愕の真実を矢吹駆が射抜く。
感情タグBEST3
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ふたつの概念がぶつかりあっているとき
そこにあるのはひとつの対立だ
つまり、第三者の視点から見ることで
ふたつがひとつになったわけだ
これが弁証法
あるいは構造主義
もちろんそんなこと言って別に対立がなくなるわけじゃない
2人の力士がひとつの土俵で取組をやってる
…みたいな話でしかない
ところがその外部に第三者の存在を置くことで
相撲というビジネスが生まれるだろう
土俵のなかに生じる2重化とズレ…
すなわち取組と勝敗をうまいこと利用して
第三者たちはそれぞれの力士から
なにかしらの甘い汁を吸っているわけだ
ここまで見ると世の中は、ある対立構造を中心として
エネルギー循環しているのだとわかる
このような社会構造を分析していくにあたっては
目線をメタ領域に持っていかねばならない
すると分析者は自然と見下ろす格好になる
ここに社会学の
鼻持ちのならなさが生じる
社会学徒は、自分たちが特権的な存在であると
無意識のうちにせよ思い上がる
この思い上がりを合理化するために
しばしば「弱さ」なる属性が持ち出された
女であること
ユダヤ人であること
このふたつの属性をもったハンナ・カウフマンの政治思想は
本人も気付かぬうちに大衆を疎外していた
そのこと自体が必ずしも悪いというわけではない
だけどもし、悪しき存在が「弱さ」を伴って現れたとき
おそらく彼女はそれを批判しえないだろう
社会が煮崩れていくのはそういうところからだ
そして矢吹駆はなにもしない
それこそ人間の善性を信じる者のスタンスではあるのだが
Posted by ブクログ
矢吹駆シリーズ、初挑戦。フランス篇第八段で、ハンナ・アーレントをモデルにしたユダヤ人女性と議論する。この議論がなかなか難解で読むのに時間がかかった。誘拐事件と絡み合う殺人事件の裏に、パースチナ問題と絡み合うのは、70年代の話でありながら、現代に通じており、ミステリーでありながら、色々と勉強になりました。
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世界史の悲劇的な哲学を学び直せた。
そして、真犯人は……。
大変、読み応えのある長編でこれだけ長ければソレをソウもできるね、などと皮肉めいた事も思ったりして。
Posted by ブクログ
前作でストーリーテリングにおいては一皮剥けた感があった笠井御大、真犯人は割と早い段階で予想がつくとはいえ、今作にていよいよミステリとしてもギアが一段上がった気がする。
ミステリ作家って他ジャンルへの転向を除けばアイデア的に先細りするかパターン化して量産するしかないある意味因果な商売なわけだが、まさか還暦過ぎてシリーズ過去作を上回ってくるとは。
しかし、にしてもナディアよ。
前作の一本釣りもそうだが、お前さんの考える物理トリックは………喰ってかかるのをやめただけで、ちっとも大人になっていやしないぞ……。
以下雑感(軽いネタバレ注意。てか笠井御大の評論ってネタバレしまくりだし)。
今回の思想的論敵モデルはハンナ・アレント。
"AとBが計画したCとDの交換殺人の裏には、Aを殺害しBを殺人者に仕立てあげるEの復讐計画が隠されていた"←つまりはこういう真相
終盤、かのワトソン博士やヴァン・ダイン弁護士と自らを比肩するナディア。
だからそういうとこだぞ!
初出は2010年のメフィストか。
15年前。
結構経ってるのね。
あと初版のせいか誤字が多い。
紙と違って電子書籍なら容易に直せそうな気もするのだが。
以下やや固めの雑感。
終章。
本来ならエピローグに当たる部分だが、シリーズ全般、こと本作においてはここからが本編といってもいい。
シモーヌ・リュミエール(ヴェイユ)を追いつめたとき以来の語調を見せる矢吹駆。
今や最も有名なニーチェの箴言となった深淵云々に関する激越な批判。
ここで更に評価を改めねばなるまい。
ミステリのみならず、思想小説としても本作は一つの到達点となっている。
世間的には『哲学者の密室』、個人的には『サマー・アポカリプス』をシリーズ最高傑作と思っていたが、これも改める必要がある。
最高傑作、ここに爆誕である。
追記。
『サマー・アポカリプス』では究極の選択を迫られたシモーヌが予想外の一手を打つことで矢吹駆に只ならぬ衝撃を与えたわけだが、今回、ハンナ・カウフマン(=アレント)のその後は書かれていない。
既に執筆済みの次作以降に書かれているのだろうか。
ナディアの締めの文章から察するに、その可能性は低そうだが。
Posted by ブクログ
正直カケルとカウフマンの討論の三分の一も理解できていませんが、理解できない雰囲気すら楽しめる作品だと思う。ナディアすら、全部は理解できていないようだし。
ミステリー部分は多重誘拐に殺人と本格的でとても良かった。
そして真犯人…まあ、実行役より、計画したほうが悪だとは思うのですが、お咎めないままなのもねえ。
ミステリー界の巨匠が現役で長編を書いてくれるのは本当にありがたい。ファンとしては次作も待ち続けております。
Posted by ブクログ
★5 誘拐事件と学院長の射殺事件、ふたつの事件が絡み合う読み応え抜群の超絶ミステリ #夜と霧の誘拐
■あらすじ
矢吹駆とパり警視庁の娘ナディアはダッソー家の晩餐会に招待され、ユダヤ人女性哲学者のハンナ・カウフマンと議論していた。晩餐会のあと、招待したダッソー家の運転手の娘が誘拐されてしまうのだ。そしてナディアは身代金を運ぶのを指名される。
一方、聖ジュヌヴィエーヴ学院では、学院長がピストルで殺害されてしまった。一見、不可能犯罪のように見える事件であり…
■きっと読みたくなるレビュー
★5 出た!化け物ミステリー。今年の目玉のひとつですね。
何がスゴイって、この本の厚みと重みですよ。単に長いだけじゃないですよ、密度も濃いんです。この読み応えがたまらんすね~、じっくり時間をとって楽しむのが吉です。重厚&パワフルなミステリーを堪能してください!
まず哲学の議論や、様々な思想、戦争、歴史のうんちくが烈しくて大好き。もはや大学の授業や政治運動家の話を聞いてるみたいなのよ。そして矢吹駆シリーズは毎回哲学者がモチーフになってるとのことで、今回は女性ユダヤ人のハンナ・アーレント。いやー、読書って奴はホント勉強になりますね。
さて本作は黒澤明『天国と地獄』ばりの誘拐劇&学院長の射殺事件。この二つの事件だ同時かつ絡み合うように展開される。誘拐劇のほうは読み手を惹きつけるエンタメ力があるし、学院長の射殺事件はどっぷりと本格ミステリーを楽しめる。
まず誘拐事件ではナディアが大活躍するんですが、これがアクションマシマシで手に汗握るんですよ。受け渡しが終わるとさらに謎が謎を呼ぶ、この事件の背後には何があるのか…? これはワクワクがとまらん。
そして射殺事件のほうも謎解きが大忙しですよ。文字どおり分単位で事件経過を追ったり、密室の考察をしたりと全く脳みそが休まりません。
もちろんこの二つの事件が絡み合ってくるんですが、こんな発想をよくも思いつきましたね。二重化とズレってのは唸ったな~。犯罪を方程式のようにあてはめ、ロジカルにメリデメを詰めながら解き明かしていく手際もエグかった。これはもう降参です、先生の魂のこもり具合に慄きました。
真相は徐々に明るみになっていくんですが、そのたびに驚かされます。まさかこんな枠組みの話だったとは思いもよらない。解説もしっかりしてくれるし、謎解きミステリーとしての完成度の高さにも感動しましたね。
哲学、思想、ミステリー、エンタメが密度満点に凝縮された作品、めいっぱい楽しませていただきました!
■ぜっさん推しポイント
物語の終盤、日本における戦争の歴史や価値観について思想が書かれています。特に「唯一の被爆国」に関する記述は目から鱗でしたね。
私も日本人なので、つい耳障りの良い言葉に流されがちです。しかしよくよく事実を知り、個々ひとりひとりが考えなければいけないんですよね。現在でも世界中で争いが起こっています、決して過去の話ではないのですから。
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衒学趣味といわれる。
確かに哲学や思想、歴史について、作者の知識と嗜好がふんだんに語られるが、小説世界の認識には欠くことのできない、むしろ最大級の魅力である。
あと何作読めるのか、心細くも楽しみな今後である。
Posted by ブクログ
「哲学者の密室」からの続きといえば続きかもしれませんが、内容的には「哲学者の密室」を未読でもなんとか着いていけるとは思います。
でも、読んでおいたほうが無難に楽しめるでしょうか。
「夜と霧の誘拐」というタイトルから、フランクルの「夜と霧」がある程度のモチーフになっていると思ってましたが、直接的なモチーフとしては出てきませんでした。
出てきませんでしたが、小説内で語られる事件の本質直観として「交換犯罪における」「二重化とずれ」とカケルが語ります。
歴史修正主義の問題も小説内で重要なファクターのひとつとして出てきますので、その歴史の偽装行為を「歴史観の交換」と置き換えれば、それに伴う「二重化とずれ」が生じ小説内で起こる殺人事件に繋がっているとも言えなくもないでしょう。
となれば、「夜と霧」の歴史修正→「夜と霧」の誘拐、という本小説のタイトルの含意に納得がいきます。
最終章で語られる、イスラエル建国にまつわるシオニズム、唯一の被爆国を語る際の日本、それらが含んでいる欺瞞性の考察はなかなか読み応えがあります。
ちょっと心配になるくらい攻めてるような感じです。
Posted by ブクログ
このミス2位とかいうから読んでみようかと思ったら、京極真っ青な極アツ凶器本!!しかも矢吹駆シリーズというのの8作品目だったらしい。なんてこと!!
まっさらのを読みたいんだよ!!こちとら!!読めたけど。フランス人でおフランス舞台だしさぁ…筋は面白かったけど、ちょっとクドかったです。少し胸焼けがします。
ナディア・モガールと矢吹駆はダッソー邸に招待されて訪れる。四阿に老婦人のハンナカウフマンさんに会う。ボリヴィアからフランスに移送されるナチ幹部のクラウス・ヴォルフに会いたいとのこと。ふたりはダッソーの夕食に招待される。
一度フランソワダッソーと顔を合わせるが、夕食まで1時間、一度外出するという。ほぼ晩餐のメンバーが揃ったところで屋敷の電話が鳴った。娘を誘拐したという。娘のソフィーは家にいたが運転手の娘のサラがいない。犯人に伝えたが、要求は変わらないと。現金と37カラットのブルーダイヤ通称ニコレの涙を渡せという。
モガール嬢が身代金受け渡し役を犯人に任命される。警察に連絡。午前中にも別の誘拐事件が起きているらしい。9時に電話があり、9:45にオデオン広場のダントン像前で焼き栗を買うよう言われる。
一方聖ジュヌヴィエーヴ学院では学院長が殺されていた。デスク横の床に拳銃が落ちていた。がこれは発射された形跡はない。凶器は持ち去られたようだ。どうやら引出しも荒らされている。家の鍵がなくなっている。学院長は夫のルドリュと離婚協議中だった。
焼き栗屋から封筒を渡される。サン・ミッシェル河岸通りに入って橋から4つ目の古本屋台の右下とかいてある。行ってみると、鞄の鍵を川に捨て、プティ・ポン街の珈琲店ラタンでカルディナールを注文しろとある。次はホテルオルレアンのフロント前。電話がかかってきて、左3件目の通路奥のダストシュートにカバンを入れる。
警察は鞄を持った男を捕まえるが、捕まったメルレも息子を誘拐されたという。そしてダッソーへの電話を指示された。鞄はすり替えられていた。メルレの息子とサラは無事保護されて、傍に殺されたルドリュの死体があった。サラが撃ったのだ。身代金とダイヤは無事。
夜遅かったので、ダッソー邸に泊まった。ドレスはクリーニングに出して新しい衣服が置いてある。ソフィーは級友のアンドレに午後四時にドレス姿を見せる約束をしていたのだそうだ。だがサラが着て出て行ってしまった。
聖ジュヌヴィエーヴ学院では入学して三ヶ月もたたないうちに姿を消した生徒がいた。アデル・リジュー。2年前のことだ。
カケルがルドリュとカウフマンが学院長が殺された時間に会っていたはずだと言い出す。ルドリュが殺した線がなくなって迷走するかに見えたが…
Posted by ブクログ
矢吹駆とナディアが、ダッソー家の晩餐会に招待されたその日に一人娘のソフィーを誘拐したとの電話がある。
だが、ソフィーは家に居て、間違えられて誘拐されたのは、運転手の娘・サラだった。
それでも身代金要求をし、運搬役をナディアにと指名される。
次々と指示を受けて走り回るナディア。
そして…。
同日の午前中にも誘拐があり、午後にはカトリック系私立学院で殺人事件が。
間違われた誘拐と最初の誘拐という二重誘拐そして殺人に繋がりがあった。
誘拐と殺人は、交換犯罪ということなのか。
次々と覆っていくことに一体何が真実なのかと思い、この二人の少女を操っていたのは…という驚き。
何より矢吹駆は、全てにおいて少しも動じず事件については言葉少なく、イリイチのことがわかっていたかのよう。
哲学者・ハンナとは長く語っていたが、それが必要なことだと思えた。
Posted by ブクログ
『哲学者の密室』の“悲劇”再び
矢吹駆シリーズ最新作!
なに…??
シリーズ…だと?!
やってしまった、某ゆーき本さんの不治の病、シリーズを飛ばして読むSTR(シリーズ飛ばしてリーディング)ウィルスに感染していたのか…!!
でも大丈夫だった。でも前作のネタバレがものごっつかった。この辺が気になる方はご注意を。
タイトルから予想していましたが70年代のフランスを舞台にナチズムやシオニスト、パレスチナ問題のお勉強が出来ます。
いやしかし、人生に無駄な事などないと中村天風さんも仰ってましたが、本当に無駄な読書ってのも無いですね。
以前にひまわりめろん師匠の本棚で気になってハンナ・アーレント(よく間違えるんだけど合ってます?!)の『エルサレムのアイヒマン』を拝読したのですが、読んでて良かった…!
あれ読んでいないとハンナがモデルの哲学者カウフマンとカケルの論じ合いが全部、宇宙語に思えたでしょう。
いや、読んでても宇宙語翻訳が大変だったよ!!
笠井さんの知性の暴力が凄い。
田中芳樹さんの知性の豪速球がなんとかバットをスレスレ掠って行くのに対して、笠井さんの豪速球はデッドボール!!
痛い、痛い、待って、まだ受け止めきれてないから待って?!痛いよー!!!
てな訳で素晴らしく読むのに時間がかかりました。
そして何よりも素晴らしいのはautumn522akiさんの本作のレビュー!(そう言えばシリーズってakiさん書かれてた…)
こんな紹介の難しい作品を、あんなに分かりやすく且つ面白そうにレビューしておられる!さすがセミプロ!
さて、お気づきの方もおられるでしょうね。そうです、伝家の宝刀を出します。
本書に関して詳しくお知りになりたい方は、autumn522akiさんのレビューにGOです!!(放棄した)
だって全体主義の勉強を再度する事になるとは思わなかったんですよ!
でもこれじゃああんまりなので、頑張ってもう少し書いてみますよ。なんなんだよ、難しいんだよ(たまには逆切れキャラを出してみた)
まず本作は単なるミステリーではありません。思想的対決とでも言いましょうか、そもそも本作の事件の根本原因が思想のぶつかり合いなのです。
誘拐事件から始まる一連の流れにカケルはずっとズレを感じています。
我々読者もどこか不穏な空気感を感じながらこのズレの原因を主人公のナディアと共に追って行きます。
なんてこった…。こんな真相なんてあーた…どうしたら良いのよ…。
このミステリー部分だけでも骨太で読み応え抜群なのに、ここにカウフマンが度々出てくるからこっちは骨折しそうになる(デッドボールで)
このカウフマンとカケルの対話を省けばぶっとい本がもう少し細くなるのでは無いかと思うのですが、本作においては、特に終章の2人の対話が、笠井さんの書きたい一番の事なんだろうなと思います。
調べてみると笠井さんの出自は極左闘争にあるので「日本が「唯一の被爆国」と殊更揚言すること」を、カケルに「精神的欺瞞」と言わせるのも頷けます。
また、アイヒマンの件について『凡庸な悪』に迫害された側もまた凡庸だと言う、私には思い付きもしない思想がバンバン飛び出して来ます。
歴史、思想、哲学、これらがお好きな方にはミステリー部分も含めて非常に刺さるとは思うのですが、この笠井さんの極左闘争を軸とした思想が受け入れられない方もいるのかなと。
私はこの辺りは色んな思想を聞いて、ほー、そういう考えもあるのねーと第三者目線で読む人間なのですが(それなりに自分の思想もあるんですけどね)もっと賢くて持論をしっかりお持ちの方だと、反発するかここから派生して持論を展開して楽しむか、別れる作品だと思います。
なんにせよ、全体的に非常に読み応えのある骨太ミステリーなので、気になる方はカウフマンとカケルからのデッドボールは分からん!と大人しく複雑骨折してミステリーを楽しむのも有りだと思います。
前作も読んでみたいのですが、連続デッドボールはキツいのでもう暫く間を空けようと思います。
それにしても犯罪コンサルタントのようなイリイチ…。
私は君が一番気になるのだけれど、これまでのシリーズでもっと出番がある回はあるのかい?
きっとイケおじなんだろうなあ。
Posted by ブクログ
ラストの20ページこそ読む価値がある、といっても謎解きの面白さではなく、ユダヤ人が、正確には修正シオニストが『アウシュヴィッツ』を金看板にしてパレスチナ人の土地を強奪、掠奪、虐殺して来た事実。そこには『唯一の被爆国』を掲げて、本来請求すべき相手を避けて自らが犯して来た過ちを免罪するための行動を取り続けているこの国もある意味の「共犯者」では無いのか、という疑問が浮かんで消えない。このシリーズの妙味は探偵役の矢吹駆(作家である笠井潔に限りなくニアリーイコールであるが)とさまざまな思想家、哲学者、活動家との対話、議論だが、今回はハンナ・アーレント。ミステリというより今回は、ちょっとした冒険小説の雰囲気もあるが、ストーリーが進む中、矢吹駆との議論が興味深い。今のガザでのジェノサイドは、1944年のシオニストの年次総会で決まった事で、その段階で既に予定されていたとも言える。『アウシュヴィッツ』を錦の御旗にするアンナ・ハーレントに対してコロンブス等のアメリカ・ネイティブに対する虐殺、キリスト教の名の下に行われた暴虐、黒人奴隷問題、さまざまな事例を挙げて追求する矢吹の口調は何故か緩やかなのはどうしてだろう。等等、ミステリ読んだのに出て来る感想はすべて思想と活動の振り返りばかり。しかし面白い、ほぼ一気に読んだ。少し時間をおいて読み直したい。謎解きも、それなりに楽しめたがシリーズが完結しないと不完全燃焼だな。
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三重密室事件の記憶を持つダッソー家の晩餐に招待され、アイヒマン裁判の傍聴記で知られるユダヤ人女性哲学者と議論する矢吹駆。晩餐会の夜、運転手の娘サラがダッソーの一人娘ソフィアと間違えられ誘拐される。身代金運搬役に指名されたナディア。同夜、カトリック系私立校の女性学長の射殺体が発見された。
『哲学者の密室』の舞台になったダッソー家で再び起きた事件。『煉獄の時』で復活したナディア。間違われた誘拐、連鎖する誘拐、殺人事件と事件の展開が早いし事件の裏に見えるイリイチの影とか面白い。哲学者との議論も頑張って読んだ。