あらすじ
1960年代後半、アメリカ西部ネバダ州にある人口50人以下の町・ジェスロー。この町に住む人気小説家のトムはしばらく新作が書けずにいた。やる気のなさをごまかすようにギャンブルに明け暮れるトム。「世界が終わる日が来たら書くかもな」と言う彼を再起させるため、トムの妻であるメグは、ゾンビに扮してトムを襲う計画を立てる。そこに噂を聞きつけた映画監督がやってきて……。
貸したまま戻ってこないイヤリング、信念を曲げて書いた小説、自分を捨て街を去った彼女ーーこんなはずではなかったと思いながら生きる人々に訪れた最大の転機、それはゾンビ映画の撮影だった!!
読後、思わず家族や大切な人に会いたくなる、故郷や過ぎ去った時間についての物語。
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Posted by ブクログ
前著『ゴリラ裁判の日』を楽しく読んだので、期待しての著者2作品目。
うーん、悪くないが、なかなか我慢が必要な展開だった。
400ページに迫る長編、前後半の大きく二部構成。
前半の第一部が「撮影前」、第二部が「撮影開始」で、文量はおおよそ1:2だが、この「1」が、なかなか物語にのめりこめず苦労する。場面、登場人物が次々と変わり、それぞれの物語が羅列され、ブツ切れに意識が寸断されるのだ。
本作が、群像劇であると分かって読み進むのがよい(途中で、気づくけど)。
スランプの作家トムに、筆を執らせようと妻メグと、カリフォルニアの田舎町ジェスローの住民がグルになり、偽のゾンビ映画撮影を企て、“最後の日”とトムに思わせ地下室に籠らせることで、切迫した精神状態で新作を創作させようとする。これが物語の骨子というか端緒。
そこに、映画監督の思惑、警察の勘違い、UFO愛好家の疑惑、軍隊の出動に隣り町のゴロツキたちの野望などが絡み合い、はてさて映画撮影は行われるのか、トムは新作を生み出せるのか?
封鎖された町の中でも、ひょんなことで紛れ込んだ殺し屋、美術収集家たちが、訳ありの住民とあれやこれやのドタバタ喜劇を繰り広げる。
これら、すべてのことが最後に収束されるように、全登場人物のキャラや生い立ち、思惑が丁寧に説明されているのが「第一部」なのだ。
収束されるように、というか、その収束に向けて設えられた設定、キャラ造形でもあるから、第一部で開陳されている状態では、バラバラの登場人物たちがどのように結びつくのか想像がつかないので苦労することこの上ない。
なぜ、冒頭に人物相関図くらない? せめて登場人物一覧でも付けてくれていればよいのに。改訂増刷あるいは文庫化されるなら、是非、検討を。
結果、最後まで読めば面白い話ではあるが、その苦労が見事実ったと快哉を叫ぶほどの目新しさは、なかったかな。
映画のお話でもあるので『カメラを止めるな!』(上田慎一郎 2017)を彷彿させるゾンビものコメディであり、映画的小ネタがところどころ散りばめられているのもクスりとさせるが、結末ありき、そこから導き出された設定や、物語展開なのだなというのが見えたあたりで、ややシラケてしまう内容だ。あらゆるピースが、いろんな映画作品や、過去の物語から拝借してきたようで底が浅い。
ただ、創作の苦労は忍ばれる……。
時代設定も、1960年代後半とした。映画界が変化を迎える時代、なによりアメリカがベトナム戦争による病魔に侵された時代とした点。いろいろ、エピソードが入れ込みやすい。まだ携帯電話もない時代は、情報が外部に漏れにくい、噂が噂を呼びやすいという状況も、奇想天外な物語を紡ぎやすかったろう。
映画監督のエリックが部下に対して、
「お前はセンスがないから映画制作なんかしないほうがいいぞ。『彼の中でまだ戦争は終わってない』って、なぁ。じゃぁ、なんだ? 帰還兵が主役の映画を作るのか? で、田舎町で戦争をおっぱじめるとか? (中略)賭けても良いが、そんな映画は誰も観たがらないね」
と、言うセリフは、のちの世で『First Blood』(1982)の大ヒットを知る現代人は、大笑いできるという、『バック・トウ・ザ・フューチャー』的なギミックが使われているのだ。
町のゴロツキが改造車で大挙して押し寄せるシーンも、『マッドマックス』を想像したので間違いないだろう。
UFO研究団体の登場も、1947年のロズウェル事件を機に、1950-60年にアメリカで大流行(?)したアブダクション(宇宙的誘拐)や目撃情報が背景にあり、時代考証も間違いないところ。
故に、こうした調べものの結果、あれもこれも詰め込んでおこうとした故の、しっちゃかめっちゃかぶりではあるのだが、それが最後に収束するよう、いや、結果ありきで詰め込んだ前振りの第一部だと思うと、ご苦労様としか言えない。
もしかしたら、こうした小ネタを根ほり葉ほり探し出すのが面白いお話なのかもしれない。
町のゴロツキのリーダーの台詞、
「カリフォルニア共和国の王に、俺はなる!」
などは、どの漫画からの借用か一目瞭然。
昨今、漫画の世界では「考察」と言って、その情報交換がファンの間の楽しみでもあるようだが、そんな小ネタ掘り起しのメンドウは負いたくないなあ。