【感想・ネタバレ】天路の旅人(上)(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

この希有な旅人のことをどうしても書きたい――。第二次世界大戦末期、敵国の中国大陸奥地まで密偵として潜入した若き日本人がいた。名は西川一三。未知なる世界への好奇心に突き動かされた男は、極寒の雪道、延々と続く砂漠、幾重もの峠、匪賊の襲撃や飢えを乗り越え、八年に亘り中国北部からインドまで果てしなく長い路を歩み続けた。二十五年の歳月を経て結実した超大型ノンフィクション。

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Posted by ブクログ

☆☆☆ 2025年7月 ☆☆☆

西川一三。このような人物がいたことはまったく知らなかった。
第二次世界大戦中に密偵として中国奥地に進入し、チベットからヒマラヤを越えインドまで旅をした稀代の旅人の物語。
本書は沢木耕太郎が西川の取材のため東京から盛岡へ発つところの回想から始まる。いまから四半世紀前というから、おそらく1998年~2000年ごろ?と思われる。「年に364日働いている」という西川と酒を酌み交わしながらの取材を重ねたものの、インタビューを中断し、再開できないまま西川は亡くなってしまう…
それでも沢木耕太郎はこの人物のノンフィクションを書くことをあきらめず、遺族への取材や資料の綿密な読み込みの結果完成したのが本書だ。


西川は山口県生まれ。少年時代から西域にあこがれを抱いていた。司馬遼太郎といい、井上靖といい、この時代の少年にとって西域は未知なるもの、冒険心をくすぐる象徴のようなものだったのだろう。
西川は満鉄に就職し中国にわたるが、職を辞し興亜義塾という組織に入り、蒙古の言葉、文化を学び密偵として中国奥地へ旅立っていく。日本と交戦中である中華民国の物資調達ルートを探ること。数年におよぶ長い旅の始まりだ。


ロブサン・サンボーと名乗り、ラマ教徒に扮して雄大だが残酷なゴビ砂漠を渡り西域へ。巡礼増の仲間やラクダとともに、アルガリ(動物の糞)を燃料としながら過酷な旅を乗り切っていく。道なき道を行き、星を見ながら方向を定める旅。
前半部分ではバト少年の死の場面があまりにも悲しく忘れられない。
旅の供として「売られた」バト少年。9歳ながらも過酷な旅に同行し、不満をもらさなかった強い少年。彼がおもちゃを与えられ初めて子供らしい喜びに浸り無邪気な笑顔を見せた数日後、病により旅立ってしまった。だからその笑顔は西川にとって忘れられないものとなった。遺体は砂漠に葬られ数日たてば、動物に啄まれ、乾燥により骨だけになってしまっていた…

さらに旅を続ける西川。
時に巡礼の旅人たちや行商人とともに。
急流を泳ぎ切り対岸に渡ってしまったラクダを連れ戻し喝さいを浴びることも。
そして1945年。
西川はチベットにて日本の敗戦を知る。

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2025年07月30日

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チベットに対して特別な興味はない。派手なアクションもない。移動の過酷さは、伝わってくるが、めきつく騙されたり、目を背けるまでの厳しい場面もない。しかし、最後まで夢中にしたのは何でしょうか?とにかく身体が丈夫な主人公でした。ずっと栄養が気になってました。

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2025年07月19日

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西川一三の旅。山口の地福出身。帰国後、盛岡で暮らした理由はたまたまとあったが、腑に落ちなかった。「困難を突破しようと苦労しているときが旅における最も楽しい時間なのかもしれない。困難のさなかにあるときは、ただひたすらそれを克服するために努力すればいいだけだから、むしろ不安は少ない。」恐れていては一歩も踏み出せなくなり、踏み出して努力すれば、いずれゴールに辿り着くことができる。旅に失敗はつきもの。旅をすることは前向きになることなのかもしれないと想う。

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2025年06月09日

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戦中に中国大陸に密偵として従事した西川一三。
未知の地域を旅する過程は生やさしいものではなく
激寒の環境、匪賊の脅威、慣れない駱駝

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2025年11月16日

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第二次世界大戦中の中国の奥地、そしてチベットへ、密偵として旅をした日本人がいるという。
過酷な旅にあって、時に現れる美しい景色の描写に好奇心、異国への憧れまだ知らない何処かへ旅に出たいという気持ちをくすぐられる。

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2025年10月14日

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西川一三なる人物のことは全然知らなかった。

盛岡の知人が、以前こんな面白い人が住んでた街なんだよっておすすもしてくれて出会った一冊。

ある種若気の至りというか、青い使命感で中国の西の果てを目指すところなど大変人間味がある。
旅自体も面白く、行ったことのない土地の風や匂いを夢想しながら読んだ。

下も楽しみである。

勧めてくれた人、ありがとう。

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2025年09月14日

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第二次世界大戦末期。
自ら志願して、密偵として中国奥地に潜入した西川一三。
露見すればすぐに殺される危険な任務。
蒙古人ラマ僧(ロブサン・サンボー)に扮して旅を続け、チベット・ラサへ。

未知の世界へという好奇心にかき立てられる西川。過酷な環境に耐えながら、旅を続ける西川。
3年かがりでラサにようやく辿り着く。

過酷な旅だった…
周りの人々に助けられラサまで辿り着いた西川。
周りの人々が西川を助けるのも、西川の人がらがさせることなんだろう。

本当に悪い奴に出会わなくて、よかったと…

敗戦を知った西川はどうするのだろうか…

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2025年09月01日

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深夜特急以来、超久しぶりの沢木耕太郎。
上巻は内蒙古からチベットのラサまでの旅。迫力のある文章で情景がリアルに想像できる。過酷な旅の途中の美しい風景、人との繋がり、あたかも自分も一緒に旅をしているような錯覚に陥いる。凄く面白い。下巻が楽しみ。

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2025年06月25日

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第二次大戦末期、中国大陸奥地まで密偵として潜入した日本人、西川一三。彼の足跡をたどる8年に亘るドキュメンタリー。匪賊の襲撃を乗り越え、飢えに苦しみながらも、中国北部からインドまで気の遠くなるような長い道を歩き続けた十三。彼は極限の状態でありながらも精神は限りなく自由で、心躍る大冒険を続けてゆく。本当の豊かさとは何なのか?読者の心に問いかけるノンフィクションである。

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2025年06月10日

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沢木耕太郎『天路の旅人 上』新潮文庫。

第二次世界大戦末期に敵国の中国大陸奥地まで密偵として潜入した日本人、西川一三の8年間の軌跡に迫るノンフィクション。

著者の沢木耕太郎は東京から冬の盛岡へと向かう。本作のテーマとなる人物である西川一三本人にインタビューすることが目的であった。定期的に酒を酌み交わしながら、インタビューを続ける沢木であったが、やがてその交流が途絶えてしまう。西川の軌跡をノンフィクションに仕立る道を模索するうちに時は過ぎ、ある日、西川の訃報を目にする。

まさか盛岡に、このような凄い人物が暮らしていたということを知らずに驚いた。また、中公文庫から全3巻に及ぶ『秘境西域八年の潜行』という体験記が刊行されていたことなど全く知らなかった。

山口県出身の西川一三は満州鉄道に就職するが、そこを退職し、内蒙古に設立された興亜義塾という学校に入る。西川は卒業目前に酒席で暴力を奮ったことで退塾となり、未知なる中国の奥地からモンゴル、チベットへと密偵として潜行していく。蒙古人のラマ僧に扮した西川はロブサン・サンボーとして、極寒の雪道、延々と続く砂漠、幾重もの峠、匪賊の襲撃や飢えを乗り越えていくのだ。

本体価格670円
★★★★

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2025年05月08日

Posted by ブクログ

日中戦争末期、西川一三は関東軍の依頼で密偵として内蒙古から寧夏省・青海省など中国大陸の奥深くまで潜入し、モンゴル、チベット、ネパールからインド亞大陸に足を延ばす長期の探査行をした。

彼は福岡の修猷館中学を出て満州鉄道に入り、5年間満州各地で働いた後辞めて興亜義塾に入る。もともと未知の世界に惹かれる性向の彼は、中国大陸の奥地やその先の地への興味や憧れを膨らまし、26歳でラマ教の蒙古人巡礼僧になりすまし辺境への諜報活動を始める。8年間の全過程を日々克明に記録して帰国後清書し二千ページ三十巻の『秘境西域八年の潜航』にまとめた。

ノンフィクション作家沢木耕太郎が西川の存在を知り、彼の住む盛岡に通い酒を酌み交しながら8年間の活動を詳しく聞き取る。インタビューはしたもののどうまとめるか作品化に迷い十年間が過ぎる。突然彼の訃報に接し、弔問に訪れ妻と娘に話を聞き、この作品を仕上げることを決意する。


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2025年11月16日

Posted by ブクログ

「旅は楽しむもの」というのが概ね現代の認識だと思うが、本書を通じて旅の様々な動機を知った。仕事としての旅から生きるための旅へ、そして好奇心に突き動かされ「知る」旅へ。旅は人生そのものとはこの人のことを言うのだろう。

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2025年06月28日

Posted by ブクログ

第二次大戦末期、敵国中国の奥地までラマ僧に扮して潜入した西川一三。
過酷な旅路にも関わらず、何が彼をそこまで突き動かすのか?それを探るために読んでいる気がする。
チベットを目指しリチュ河を命懸けで渡るシーンはハラハラした。次はインドだ。

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2025年06月21日

Posted by ブクログ

こんな人がいたなんて。
この人の凄いところは、ちゃんと自分が恥ずかしいと感じたことも正直に言っているところだと思う。
そこに文化の違いとかがあらわれて、後から読む私たちには良いんだけど。

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2025年06月19日

Posted by ブクログ

どうしても深夜特急と比較してしまうが、そこまでの話の起伏はない。また、馴染みの薄い名前や地名が多いため、深くは話に入り込めない。しかし、見知らぬ土地を訪れるワクワク感は、楽しい気持ちにさせてくれる。

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2025年05月06日

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