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Posted by ブクログ
突然の祖父の死を機に、志澤グループの後継者・志澤知靖と暮らし始めた一之宮藍。
藍は、志澤たちの勧めもあり、集団生活に慣れるために、と、不登校になった子供たちが通うための塾に行き始める。
ところがそのせいで、志澤とすれ違い、遅くまで起きて志澤の帰りを待っていると「明日も学校なんだから早く寝ろ」と言われてしまう。
おまけに、恋人にしてもらったはずなのに志澤は、保護者としての態度を崩してくれずに、未だにそれらしい扱いをしてくれないことを藍は不安に思っていた。
一方、志澤は藍になみなみならぬ関心を寄せる美術商・福田のことを調べていた。
調べれば調べるほど、きな臭く、どす黒くなってく福田に、危機感を募らせる。
そんな福田が藍に接触してきたと知って、志澤は平静を装えなくなり……という話でした。
これ、ものすごくやばかったです。
一冊目を読んだ時も、藍の魅力に骨抜きになってしまったんですが、この本を読んで、本当に泣きそうになりました。
藍は、物心ついた時から両親はすでになく、祖父に育てられ、その祖父も急に亡くなってしまい、死後に備えていなかったため、一文無しになってしまっていたけれど、多少、形は歪であったにしろ、きちんと祖父に愛されて育てられてきていて。
でも、一方の志澤は、本当は実子であるのに、愛人との間にできた子供であるため、養子として父の戸籍に入っていて、そこに至るまでの間にも、母親が早くに亡くなり、引き取られた先では、虐待のような扱いをされてきたり、など散々で、生きている肉親であるはずの父との間にも何の愛情もなく、家族に対して疎ましさしか感じていない。
今回は、その差が致命的なすれ違いを生むことになったくだりがもう鳥肌ものでした。
藍がどうして肉親をそんなに想うのかわからなくて、志澤は、藍の父親の写真を「そんなもの」と言ってしまうんですが。
藍は今まで全然知らなかった父親の写真を「どうしてもほしい」と思っていて。
その気持ちが志澤にわかってもらえなかったことにショックを受ける……という。
好きな人に自分の大切にしてるものをわかってもらえないのって、本当につらいことだと思うんですよ。
そういう価値観の違いって案外大きなすれ違いの元になると思うんです。
でも、まさかそういう違いがあるなんて思わないから、ついつい安易な気持ちで口にしちゃって相手のことを傷つけてしまう。
そんなありがちな、でもとっても重要なことをさらっと紛れ込ませてくるからとってもドキッとさせられました。
ちゃんと自然な形で、それが埋め合わせられて、とてもほっとしました。
それともうひとつ。
藍の父親だった衛には実はとんでもない秘密があったんですが、それを「後悔していない」と言い切った藍の父親はすごい人だな……と思いました。
今までも、いい話を書いてらっしゃるなー……とは思っていたんですが、この話で完全に落ちました。この作者さんの話を集めたい! という気持ちにすごくすごくさせられました。