【感想・ネタバレ】マット・スカダー わが探偵人生のレビュー

あらすじ

スカダー・シリーズ終幕

父と母、幼い弟の死。警官時代の相棒との逸話。
はじめて犯罪者を射殺した日。
復讐者との因縁。
そして少女を死なせてしまったあの日――。

記憶を探りながら諦念を交え静かに語る最後のマット・スカダー。

――死は、生きている者たちにどんな影響を及ぼすのか。弟の死は、スカダーの父と母を変えてしまったという。エストレリータの死はスカダーを破壊した。スカダー・シリーズの中核には「死」がつねにあった。スカダー・シリーズの題名のほとんどは「死者」や「墓場」といった「死」と直結する言葉を含んでいる。死という喪失は、このシリーズの最大のテーマだった。本書もまた例外ではない。
/霜月蒼(ミステリー評論家)

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Posted by ブクログ

 懐かしのマット・スカダー・シリーズの驚くべき最終編。第一長編『過去からの弔鐘』から本シリーズを読み始めたのが1991年10月で、割と遅めのスカダー読者だったのだが、驚くべきことに、その10月だけで『慈悲深い死』までの7作を読み終えているから、ぼくのこのシリーズにへの惚れ込みようは押して知るべし、である。そこから2012年の『贖いの報酬』でこのシリーズは一端途切れる。このシリーズのみならず、ローレンス・ブロックの他のシリーズ作品も含めて、2014年をもって全翻訳作品が途切れたのである。

 作者の高齢化やそれにまつわる状況がそうした空白を産んだのかもしれないが、その後も印象的な翻訳短編集が出ている。2020年に出版された『石を放つとき』である。過去の短編作品の再集録や初訳短編もあるが、シリーズ主人公であるマットの老後の姿に初めて会うことができるタイトル作は、貴重な一話だ。昨秋に出版された本作は、このシリーズに終止符を打つべく老齢の作者が渾身のペンを走らせてぼくらに贈ってくれる最後のマット・スカダーだ。

 こちらのマットは、主として回顧録のスタイルをとっているが、特に目立つのが警官時代の若き自分を振り返るエピソードで9割がた費やされていることである。無論その合間に現在のマットの心境を挟みながらエピローグの形で彼の人生の知られざる前半期を物語ってくれる。しかし、それらはストーリーの語り手としてではなく、あくまで回顧録の書き手としての立場で。

 警官、孤独なアル中探偵、エレンとの同居により成熟した大人の生活を取り戻した成熟した探偵時代、といささか乱暴だが、大きく三つの時代に分割されるマット・スカダーの人生のうち、最も詳しく描かれることのなかった警官時代を老齢のマットが独白の形で振り返るという形を取った本書は、作者が第三者であるローレンス・ブロックの形でマットとやりとりするなど、若干シュールな作風もチョイスされている。

 作者もマットも80台の大台に乗って、若い頃の警察官マットを振り返りながら、物語ではなく独白のかたちで半ばエッセイ風に記述してゆく。アル中になるきっかけとなった少女誤射事件をきっかけに警官を退職し、酒に身も心も委ねたマットは禁酒の誓いを立て、娼婦であったエレンの力を借りながら徐々に自分を許してゆく。その延長線上の彼を、物語風ではなく、驚いたことに回顧録風に語ってゆくのが本作である。

 ミステリーではなく、ハードボイルドでもなく、むしろ文学性が豊かに感じられるシリーズ最終作が本書なのである。作者ローレンス・ブロックすら登場させ、マット・スカダーという探偵のシリーズそのものに驚異的な奥行きを与える一冊となっている。独白でエッセイ風味なのでストーリーというものはないにせよ、このシリーズを長年に渡って逐一追いかけてきたぼくのような読者にとっては、このリアリティとキャラクターの深みは、リアルとフィクションを行き来する合わせ鏡の眩暈のようだ。

 懐かしい名前やできごとを各所に登場させながら、84歳のスカダーに語らせるという異次元の手法で描かれた新手のフィクションとして、最後まで僕ら読者の眼を眩ませてなお斬新な作風を取ってくれたブロック。この奇跡の一作にまたしてもガツンとやられたぼくはこのシリーズを長年読んできて、マット・スカダーのことも、彼と接してきた自分自身のかつての姿をも振り返ることができた気がする。前代未聞の型破りなこの作品の精緻さにも、とうとう最後まで幕引きをしない作者のトリッキーな姿勢にも、すっかりガツンとやられた感いっぱいの読後なのだった。

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2026年01月25日

Posted by ブクログ

マット・スカダ―の自伝だ。
えっ・・・あのシリーズものの主人公のマット・スカダ―?
小説の主人公が自伝?
御年84歳になったスカダ―がローレンス・ブロックに促されて書いたんだそうだ。
めちゃくちゃ面白そう、楽しみ

自伝なので幼少期の父親のこと母親のこと、幼くして死んでしまった弟が原因で、家族が少しづつ変わっていったこと。
父の死のこと
少年時代のアルバイトのこと、ニューヨークでの警官時代のこと、実はこの時代のことが多く語られていて、
題名なんかは思い出せないけど、あの話に出てきたことかなとぼんやり思い当たるシーンなど出てくる。
そのあとの結婚、離婚、エレインとの出会い、TJなども出てきて、本当にこんな人がいてこんな人生を歩んできたんだ、なんて思えてくる。
あとスカダーにとってアルコール依存症は結構深刻な問題として、毎回話に出てきた気がするけど、自身はその件についてはあまり詳しく触れていない。
長きにわたり続いてきた、マット・スカダ―シリーズ、これをもって一応終了であるらしい。
時間があればもう一度読み返してみたい。


 

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2025年03月24日

Posted by ブクログ

84歳になったマット・スカダーが、出生から35年間の人生を振り返る自伝。
本書においてスカダーは実在の人物であり、これまでにブロックが書いてきたシリーズは彼の経験を基にした小説という設定のメタ・フィクションだ。実際にブロックとスカダーがやりとりする場面もあるからややこしい。
シリーズではあまり触れられていなかったスカダーの両親、生後すぐに亡くなった弟の存在、学生時代、警察官としてのエピソードなどが淡々とした筆致で描かれている。
『八百万の死にざま』を刊行直後に読んでから約40年の付き合いだが、どうやら本書で読み納めとなりそうだ。

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2025年01月05日

Posted by ブクログ

ローレンス・ブロックの、私立探偵スカダーのシリーズとして、最初に読んだのは「八百万の死にざま」だったと思う。相当昔の話だ。その作品で、ローレンス・ブロックも、スカダーのシリーズも好きになり、ずっと読んでいる。
この作品が、スカダーのシリーズは最終作になるらしい。
ただ、この作品は、「私立探偵」としてのスカダーが事件に取り組む話ではなく、スカダーが探偵になるまでの話を、回顧しているという仕立ての物語。私立探偵ものとしてのスカダーのシリーズは、そういう意味では前作で終わっていたのだ。この本が面白くなかったとは言わないけれども、最後の作品であれば、やはり私立探偵スカダーに合いたかった。

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2026年01月17日

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