あらすじ
大学を休学し、伯父の古書店に居候する菅生芳光(すごう よしみつ)は、ある女性から、死んだ父親が書いた五つの「結末のない物語(リドルストーリー)」を探して欲しい、と依頼を受ける。調査を進めるうちに、故人が20年以上前の未解決事件「アントワープの銃声」の容疑者だったことがわかり――。五つの物語に秘められた真実とは? 青春去りし後の人間の光と陰を描き出す、米澤穂信の新境地。精緻きわまる大人の本格ミステリ。
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Posted by ブクログ
5つのリドルストーリーにあるはずのない結末5文が見つかってそれが現実の事件と、繋がってるという話。ひとつの話の中に5個の短編があって、小説の中で小説を読むという不思議な体験をした。一つ一つの話が、「黒白叶」が書いたという個性がはっきり分かって米澤穂信さんの書き分け力が素晴らしいなと思った。これは結局、母親が「死んでやる!」と言ってじさつをほのめかし、それを4歳だった娘が実際にやってしまって、父親がそれを隠したということで合ってるのかな?すごい、家族愛というか。それを隠し通したのはすごい娘への愛を感じた。でも結局、「俺は本当はやってないんだ!」って言うことをアピールしたかったんだなあ、と思い、ほんとみんながみんな人間らしい登場人物で、面白かった。
Posted by ブクログ
古典部シリーズや小市民シリーズと違って、あまり期待せずに読み始めたけれど、いつの間にか夢中になって読んでいた。
謎がさすが!という感じ。
結末は多くの人がきっと想像するであろう感じだけど、パズルのように組み替えられることや、『雪の花』が結局リドルストーリーで終わるところが良かった。
リドルストーリーって昔はモヤモヤしたけれど、今は結構好きかもしれない。
一点、主人公の芳光には復学なり夢を見つけるなり、希望を感じる終わりだと良かったな。
でもそこも敢えてよく分からないのがこの作品らしいのかもしれない。
Posted by ブクログ
とてもおしゃれな作品だと感じました!
アントワープの銃声の真実を世間に問いかけるためのリドルストーリーが、娘から真実を遠ざけるために使われている。
各リドルストリートも引き込まれる面白さがあり、しかも結末を入れ替えることもできる。
そして何といっても最後に、愛があったのかを謎にのままにし、リドルストーリーのように締めくくっていて、本当に何から何まで洒落ている作品でした!
Posted by ブクログ
リドルストーリー系は苦手と思ってたけどこれはおもしろかった!!!わりとわかりやすく進めてくれているので、真相に自分で気がつけたりして楽しい。
主人公の暗い状況は何も打開されずでそれは残念だったし終始お話は暗かった。それでもやっぱり謎が解けていくのは快感で大変面白かった。
最後の愛については、眠ってる=誰にもわからないってことでいいのかな?
Posted by ブクログ
おもしろかったね…!本をちゃんと読み始めてそんなにたってないけど、一番好きな作家かもしれない。本の構成が独特で引き込まれるというか。本を探す話ってなんかどきどきする。作中に出てくる小説の作風というか、書き方がなんとなく絶妙におもしろくなくて小説家ってすごい。(本編はあんなに面白いのに)多分事実はこの子がころしたんだろうなとは途中で察しがついたけど、そこまでの過程がすごくよかったです。ずっと薄暗さが漂っていて、結局主人公すら打開策みたいなのはないままだなあとおもった。
Posted by ブクログ
米澤さんの作品は「氷菓」「本と鍵の季節」を読んであまり刺さらなかったけど、これはすごく好きなタイプの話だった。(そもそも米澤さんの文体が私にはあまり合わない。今回は選書サービスで届いた本だったので読んでみた)
事件の記事のあたりからもしかして…と思ってたことが的中してやるせない気持ちになると同時に、ミステリーはこういうのがあるからクセになるんだよな、とも思う。
なんとなくガリレオの「真夏の方程式」を思い出した。
娘のことを邪魔だとは思ったけど無碍にもできない、真相を告げることもせずなんだかんだで守り育てたというのが、人間らしくてよかった。
最後の掌編だけ明確な答えが提示されてないのも余韻があっていい。
Posted by ブクログ
あえて結末は読者に委ねるリドルストーリー。
本書では亡くなった父が昔寄稿したらしい5編の話を探す話であるが、その5編ともリドルストーリーでありながら、それぞれの結末の1行、答えともいえるのか、も読むことが出来る。
その最後の1行を読む手前で読者は凡そ2択の選択肢のどちらなのだろうかと考える形なのだが、答えを知ることでスッキリ感もありながら、これは答えを知らない方が味があって良かったな、などと感じた。
リドルストーリーの面白さを楽しみながら考えることができた。
真相は思ったより定番のものだった。
主人公自身もバブル崩壊により父の事業が失墜し、そのまま飲酒による事故で亡くなり、生命保険で借金は消え、父が仕事用に購入していたプレス機を売却するなどしていくらかの小金も得たが、その後の収入がなくなり、法学部に進学したものの休学。そのまま叔父の営む古書店を手伝いながら下宿。家で1人寂しいので帰ってきて欲しい母親と、帰りたくない息子。
結局は大学を諦めて帰ることにしたようだが、そのどうしようもない現実と無念さが米澤さんらしい。
Posted by ブクログ
前半は、「読みやすいし面白いけど、何がテーマなんだろう、何を伝えたいんだろう」と考えながら読んでいた。自分が鈍感なだけなのは分かってるけど。
五断章が、「アントワープの銃声」の「問いに対する答え」なのだと分かってからはなるほど〜!!と感心した。
そして最後の「雪の花」。これだけは先に結末の一行が明かされていたけど、「答え」と言えるものではないけどな、と思いながら本編を読み始めた。
結局明確な答えは書かれていなかったし、想像して推測することしかできない。最後の最後が、リドルストーリー、結末の一行はあるけど、それがあっても推測するしかできないようになっていたのが面白い。自分の理解力が足りないのかなと思って調べたけど、「リドルストーリー」ということでいいらしい。
だから、自由に考えてみた。最後の問いは、夫婦二人の間に愛があったかどうか。自由に考えていいなら、愛はあった、問うまでもない、と思う。
Posted by ブクログ
〇 概要
菅生芳光は、バブル崩壊と父の事故死により学費が払えなくなり、大学を休学する。そして、東京で伯父の古書店に居候している最中、死んだ父・叶黒白(かのう こくはく)の筆名で書かれた5つの『リドルストーリー』を探してほしいという依頼を受ける。依頼人は、一つ見つけるたびに謝礼として10万円を支払うという。全て見つけることができれば、大学に復学できるかもしれない。期待を胸に、彼は5つの『リドルストーリー』を探し始める。やがて、その過程で依頼人の父親が『アントワープの銃声』という事件の容疑者だったことが判明する。依頼人の父親が5つのリドルストーリーに込めた思いとは──?
〇 総合評価 ★★★★☆
5つのリドルストーリーのうち4つには、それぞれ2つの結末が用意されており、誤った結末を読者に認識させることで、ミスリードを誘うというプロットは非常に面白い。5つのリドルストーリー自体も、『奇妙な味』の短編として十分に楽しめる。この“仕掛け”を堪能できるだけでも、名作といえるだろう。ぜひ、長く読み継がれる作品になってほしい。創元推理文庫などに収録されることを期待したい。
ただし、欠点はある。最大の問題はキャラクターの希薄さだ。作品全体がビターな仕上がりであるだけに、もう少しキャラクターの個性が際立っていれば、最高レベルの名作になっていたはず。惜しい。
もっとも、その分、余計な感情移入をせずに純粋に“仕掛け”を楽しめるともいえる。非常に玄人受けしそうな作品
〇 サプライズ ★★★☆☆
リドルストーリーを探す物語と並行して、主人公・菅生芳光が大学を辞めることになった経緯、バブル崩壊により店を売り損ねた古本屋店主の苦境、そして5つのリドルストーリーの作者・北里参吾の生涯が描かれる。
『アントワープの銃声』事件の真犯人が、当時4歳だった北里可南子だったという点は、見せ方次第では大きなサプライズになり得た。しかし、本作ではそのような演出は意図されておらず、多くの読者は途中で真相に気づいてしまうだろう。
同様の印象は『インシテミル』や『折れた竜骨』でも感じた。サプライズよりも論理を重視する作風のため、これは仕方のないことかもしれない。★3
〇 熱中度 ★★★★☆
物語の構成力はさすが米澤穂信といったところ。5つのリドルストーリーを探す展開はスピーディーで飽きさせない。とはいえ、リドルストーリー自体の完成度はそこそこ。展開のテンポは良いものの、やや盛り上がりに欠ける印象もある。
久瀬笙子も特に盛り上がることなく物語から退場する。無意味な盛り上がりは不要だが、もう少し起伏があれば、より印象に残る作品になったかもしれない。
〇 インパクト ★★★☆☆
5つのリドルストーリーが存在し、それぞれに用意された複数の結末に巧妙なトリックが仕掛けられている。このプロットは見事というほかない。作品の構成自体には強いインパクトがある。
しかし、登場人物の魅力に欠け、物語全体の起伏も乏しいため、作品としての印象はそれほど強く残らない。★3程度
〇 読後感 ★★☆☆☆
菅生芳光は復学を諦めて実家に帰る。北里可南子は,自分が殺人者であるということを確定的に知る。作品全体に,人間味があまりないので,そこまで読後感の悪さを感じないが,よくよく考えると,相当に読後感の悪い作品である。
〇 キャラクター ★☆☆☆☆
かろうじて印象に残るのは北里参吾だけ。菅生芳光,北里可南子を始め,登場人物のほとんどにキャラクター性がない。話そのものに集中させるために,あえて人間を描いてないのかもしれないが…。
〇 希少価値 ☆☆☆☆☆
人気作家の人気作品。希少価値はない。
〇 メモ(5つのリドルストーリー)
〇 奇蹟の娘
「ルーマニアに“奇蹟の娘”がいるという。その娘は、生まれてからずっと眠り続け、この世の災いを何一つ知らずにいるという。
ある日、その“奇蹟の娘”が暮らす家が火事になる。ある男は言う——『奇蹟の娘は、ずっと眠ってなどいない。眠ったふりをして、見ていないような顔をしているのだ』と。燃えさかる家のドアから、“奇蹟の娘”は現れるのか。それとも、本当に眠り続けているのか。私は、そのドアを見つめ続けていた
(ラスト)
〇 明け方に見つかった焼死体。それが、哀れな女の末路であった。
〇 決まりの悪い作り笑顔で,暗がりから女の子が現れた。
〇 転生の地
インドには、死後の転生を信じる地方がある。その地で裁判が開かれると知り、男は通訳人とともに訪れる。そこでは、殺人よりも死体を傷つけることの方が重罪とされる。殺人であれば犯罪者のみが死刑となるが、死体損壊の罪に問われれば、その家族までもが処刑されるという。
ある日、一人の男が殺人を犯したのか、それとも死体を傷つけたのかを争う裁判が開かれた。決定的な証言をする証人が現れるが、通訳人はその言葉に聞き入るあまり、訳すのを忘れてしまう。男は、証言の意味を理解できないまま、裁判の行方を見守る。
犯罪者の家族は、果たしてただ一人の死刑を願っているのか。それとも、この地の転生思想に基づき、家族ともども死を受け入れ、新たな生を望んでいるのか……。
(ラスト)
〇 そして幼な子までが命を奪われる。私はただ,瞑目するしかなかった。
〇 どうやら一刀の下に,男の首は落とされたものらしかった。
〇 小碑伝来
中国・南宋時代の物語。芙城を任された勇猛な男がいた。その男のもとに、政府に反乱を起こした蘭白順から降伏勧告が届く。しかし、男は降伏を拒否した。
やがて、蘭白順は軍を率いて芙城を攻める。男は部下に命じて夜襲を仕掛けるが、返り討ちに遭う。民を犠牲にしないため、100名の精鋭を率いて脱出を図るも、間もなく捕らえられた。
蘭白順は、男に二つの選択を迫る——自決するか、それとも、妻のいる家に火を放つか。妻を殺せば、男の命は取らないという…。
(ラスト)
〇 どうやら一刀の下に,男の首は落とされたものらしかった。
〇 明け方に見つかった焼死体。それが、哀れな女の末路であった。
〇 暗い隧道
山を越えた集落から、妻と娘が金を持ってくるはずだった。しかし、彼女たちは姿を見せない。返済期限を過ぎれば、財産の全てを差し押さえられてしまう。
男は、妻と娘に峠を越えず、隧道を通るよう指示していた。その隧道は、かつて革命軍が占拠した際に、政府が数多くの罠を仕掛けたと噂されている。
男は革命軍に内通していたスパイであり、隧道に罠があるかどうかを知っているはずだ。では、彼はなぜ妻と娘に隧道を通らせたのか。彼はスパイであるがゆえに、彼女たちを犠牲にして逃亡を図ろうとしているのか。それとも、本当に罠がないと確信していたのか。
男の妻と娘は、無事に隧道を抜けることができるのか……。
(ラスト)
〇 決まりの悪い作り笑顔で,暗がりから女の子が現れた。
〇 そして幼な子までが命を奪われる。私はただ,瞑目するしかなかった。
〇 雪の花
スウェーデンの物語。紳士的で裕福な夫と、貞淑で高潔な妻がいた。夫は密かに浮気をしていたが、妻は沈黙と無関心で応じていた。
ある日、浮気相手といる夫と、偶然にも妻が出くわす。その場で、夫は翌日が自分の誕生日であることを伝えた。翌日、妻は夫への誕生日プレゼントとして、雪の花を摘みに山へ向かった。しかし、彼女は亀裂に足を取られ、転落死してしまう。
果たして妻は、和解の証として雪の花を摘みに行ったのか。それとも、夫を自殺へと追い込むため、自ら死を選んだのか……。」
(ラスト)
〇 すべてはあの雪の中に眠っていて,真実は永遠に凍りついている。
〇 全体のプロット
5つのリドルストーリーのうち,4つには,二つの結末が用意されている。その2つの結末は,「アントワープの銃声」についてのマスコミからの疑問に対する答えになっている。
娘に向けて,父である北里参吾が用意した答えは以下のとおり
〇 事件当時,娘は眠っていたか,目覚めていたか。
「奇蹟の娘」→眠っていた。
〇 銃は飛び降りる前に撃たれたか,後で撃たれたか。
「転生の地」→後だった。
〇 母に父は駈け寄れたか。
「暗い隧道」→駈け寄れた。
〇 事件は他殺か,自殺か。
「小碑伝来」→自殺だった。
そして,もう一つの結末…すなわち真実は以下のとおりだった。
〇 事件当時,娘は眠っていたか,目覚めていたか。
「奇蹟の娘」→目覚めていた。
〇 銃は飛び降りる前に撃たれたか,後で撃たれたか。
「転生の地」→前だった。
〇 母に父は駈け寄れたか。
「暗い隧道」→駈け寄れなかった。
〇 事件は他殺か,自殺か。
「小碑伝来」→他殺だった。
妻殺しの真犯人は,娘の可南子だった。北里参吾は自分に対し,世間の疑惑の目が向けられたときに,自分の娘を指さし,こいつが犯人だと言いたかったのではないか。そのために,5つのリドルストーリーを作った。しかし,発表することはできず,自分の死後,娘が真相に気付かないように,偽りのラストを用意したのだった。
Posted by ブクログ
なんだかめっちゃ暗いお話だったなぁ。
ストーリーは捻りが効いていて良かった。別に作ったたった一行の結末を入れ替えると違った解釈が出来るなんて展開がこのミステリの真相だなんて斬新でワクワクした。んだけど、この父親がねぇー、……娘を守る為にダンマリ決め込んだ割には匂わせ小説なんか書いちゃって…気持ち悪いわ。笑。
私が娘なら傷付くわぁー。
いろんな関係性を持った人達が出てくるけど、どの関係にもあんまり愛情が感じられなかったなぁ。
Posted by ブクログ
米澤さんの作品ははじめて
この作品自体もリドルストーリーと言っていいのだろうな
読み終わってからの余韻というか、今後の登場人物についてもやもや考えています
Posted by ブクログ
リドルストーリーという言葉は本作で初めて知ったのですが、考察の余地がある作品が好きなのであらすじに惹かれて手に取りました。
推理小説というよりは明治時代の純文学を読んでいるような感覚。大きな盛り上がりはなく割と淡々と物語が進むので一気読み必須!という感じではないけれど、徐々に過去が浮かび上がってくる様が面白かったです。でも全てが詳らかになるわけでもないのがこの物語の結末としては最適解だと思います。
叶黒白こと北里参吾は『山月記』の李徴に性格が似ていると感じ(本文より引用「自尊心が強い割に皮肉なところがあって…」「この誇り高い男に…」)、斗満子は『痴人の愛』のナオミを連想させる女性だな(「彼女が悪ずれしているように思えて…」「斗満子さんの移り気と贅沢に悩まされ…」)などと思っていたら、解説で「(米澤穂信さんは)たぶん中島敦も好きだろう。」と書かれていてやっぱりそうだよね?!とちょっと嬉しかったです。