あらすじ
私はあの人と付き合うとるとよ。
あの人を好いとると。
そう言い残して、一人の女が姿を消した。
失踪したのか、死亡したのか――。
圧倒的な「不在」がもたらす感情を炙り出す、
不穏でミステリアスな物語。
誰にでも自分だけの神様がいるのかもしれない。
だとすれば、その神様は私の味方であるはずだ。
東京から佐世保の和菓子店に嫁ぎ、娘を育てながら若女将として生きる、晶。誕生祝いの夜、夫から贈られたエルメスのバングルを手首に巻きながら、好きな人がいる、その人のところへ行くと告げ、いなくなった。残された夫・伸吾の怒りと嘆き、愛人・武藤の不審と自嘲、捨てられたと感じながら成長する娘・結生……。「不在」の12年間を、さまざまな視点から綴る長編小説。
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Posted by ブクログ
えーっとですね、もしかしたら、荒野さんは新しいスタイルを確立したのですかね。それぞれの登場人物がこれからどうなっていくかは一切ふれない。ストーリーがどうのこうのは凡人が読む話であって、そこにいる人たちを淡々と描く。
読後感が他の作家さんのとはえらいちがいまっせ。何も解決しないのに、充足感があるんですね。なんでだろう?
Posted by ブクログ
これぞ井上荒野という感じで、ずーっと不穏な雰囲気を漂わせて物語は進んでいきます。この不穏さ、気味の悪さを書くのが本当に上手で、私は荒野さんの小説はこういうタイプのほうが好きです。最後どうなるのかな、真相をハッキリさせるのかあえて描かず終わらせるのかとても気になっていたので、ラストの夫婦の話はちょっと唐突な感じもしました。
感情移入できる人はほぼいませんが、失踪した晶の娘、高校生になった結生ちゃんのエピソードは好きでした。面白かったです。
Posted by ブクログ
面白かった。でも…
このまま失踪きた晶がどうなったかわからないまま終わるのかな、それでもいいかなと思ってたけど、晶をどうにかしてしまった犯人たちが最後に出てきたのは嬉しいような残念なような…いままで読んでたのにこの人誰?ってなって少し置いてけぼりになったのがちょっと気持ち悪かったかな…かといってどうなったかわからないのも腑に落ちないのかな。でも、実際行方不明ってなったらきっとそうだから、わからないまま、今までの登場人物だけで終わらせて欲しかったかもしれない
Posted by ブクログ
「付き合っている男がいる」
そう告げて妻の晶(あき)は家を出た。
夫の伸伍、晶の愛人の武藤らの視点でストーリーは進む。
晶の不在は、それぞれの家族に小さな傷を残す。
月日が経ち、伸伍も自分の人生を歩き出していた。
晶はどこにいるのか。
それとも、もう存在しないのか。
読み終えて、最初からページを追っていくと
晶に関するヒントは書かれていたのだ。
スルスルと読めてしまったので見落としていた。
さすが、井上荒野さん。
ストーリーに身を任せるだけで
引っ掛かりもなく楽しく読むことができた。
Posted by ブクログ
読み終えて、うわ、結局戻ってこないしやっぱり死んでいたんかい!と独りごちてしまった。
だって、これだけ色んな人の心をざわめかせて時も経ってで…何となく彼女の「その後」の人生が書かれるんじゃないかって思ってしまっていたから。
でも現実はあっけなく、彼女は事故に遭って帰らぬ人になっていた。
彼女は実はどこか遠くの地で暮らしていて、もう別の生活を持っているんじゃないかと思っていたが、そういう話だったらよくあるし、かえって陳腐か。
捨てられた娘が一番の被害者である。成長するにつれ、母親不在の理由を直接は告げられなくともどこかから聞いてしまったんだろう。
彼女が自ら保護した犬の元飼い主の家へ乗り込み、元飼い主へ投げつけた言葉(「私も捨てられた。」)はずっしりくる。
捨てられた側はどんなに忘れようとしても一生そのことを忘れることは無いと思うが、捨てた側はどうなんだろう。同じくらい苦しい思いをするのだろうか。
別に捨てられた経験がある訳でもないのに、なぜか娘に感情移入してしまう。
ある日いきなり突き放された人間の、目には見えない静かな怒りのようなものを感じた。