あらすじ
私はあの人と付き合うとるとよ。
あの人を好いとると。
そう言い残して、一人の女が姿を消した。
失踪したのか、死亡したのか――。
圧倒的な「不在」がもたらす感情を炙り出す、
不穏でミステリアスな物語。
誰にでも自分だけの神様がいるのかもしれない。
だとすれば、その神様は私の味方であるはずだ。
東京から佐世保の和菓子店に嫁ぎ、娘を育てながら若女将として生きる、晶。誕生祝いの夜、夫から贈られたエルメスのバングルを手首に巻きながら、好きな人がいる、その人のところへ行くと告げ、いなくなった。残された夫・伸吾の怒りと嘆き、愛人・武藤の不審と自嘲、捨てられたと感じながら成長する娘・結生……。「不在」の12年間を、さまざまな視点から綴る長編小説。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
ズバリ、キーパーソンはカンフーマンでしょう。誰もかれもが静かに腹に一物持っているような人物のなかで唯一「怪しい」明白な特性。本作のこの胡乱な空気感の象徴として冒頭から登場することにより「なんかやばそうだ」という印象をバッチシ根付かせている。カンフーマン自体は脇役なのに効果的だなぁと感心した。和菓子屋の若女将の失踪事件。周囲の心にわだかまりを残したまま消えた人。しかし誰かがいなくなっても日常は消えない。諸行無常を受け入れる。真相を知ると少し悲しい。九州弁も井上作品にしては珍しく、作中のアクセントになった。
Posted by ブクログ
えーっとですね、もしかしたら、荒野さんは新しいスタイルを確立したのですかね。それぞれの登場人物がこれからどうなっていくかは一切ふれない。ストーリーがどうのこうのは凡人が読む話であって、そこにいる人たちを淡々と描く。
読後感が他の作家さんのとはえらいちがいまっせ。何も解決しないのに、充足感があるんですね。なんでだろう?
Posted by ブクログ
昔、後妻に入るなら、「死別」より「離別」の方がいいという一説があった。
「離別」は、お互いに納得してあるいは愛想を尽かして縁を切ったのだけれど、「死別」は想いを残しての別れであり、思い出はどんどん美化されていくから生身の後妻は比べられては不利だということだ。
では、「失踪」された場合は?
失踪から七年経てば「失踪宣告」し、法律上は死亡と見做されるから、再婚は可能になる。
しかし、はっきり別れたわけでも、亡くなったわけでもない。どこかで生ている可能性だってあるし、どこかに埋まっている可能性もある。
残された人たちや、その人と関わる人たちは、それを考え続ける事になる。
「いなくなった人」の「存在感」は、一見矛盾しているようだが大きいのである。
夫と4才の娘を残して31才で失踪した、小堺晶(こさかい あき)の気配と記憶は、染み付いて取れない影のようで、なんだか恐ろしいものに感じる。
失踪直後の、幼稚園児の結生(ゆき)の様子を夫の伸伍(しんご)がつぶさに語る。4歳児の心の中では何が起きているのだろうと無限に考えられる。結生自身も、常に「なぜ母はいなくなったのか」と考えながら成長したのだろう。
それも吹っ切れたか、穏やかな終焉と新しい一歩が見えたかなと思えた次の最終章。
突如、それまで出てこなかった名前に・・・
見知らぬ誰かの、分岐点の選択一つで多くの他人の人生が変わってしまったのだ。
やはり、あの口紅をつけてはいけなかったのだろうか?
「しずかなパレード」とは、もしかしたら葬送とか葬列をイメージしているのかな。
Posted by ブクログ
荒野さんの本を読むと胸がざわざわと騒ぐ。
今、自分の立っているところがわからなくなる。
そんな心許ない思いで読み進めて最後にあっ…と口もとからこぼれる。
不穏な空気の中、12年の時が流れる。
様々な人の様々な人生も同時に流れていて一人の不在がもたらす影に切なくなる。
Posted by ブクログ
これぞ井上荒野という感じで、ずーっと不穏な雰囲気を漂わせて物語は進んでいきます。この不穏さ、気味の悪さを書くのが本当に上手で、私は荒野さんの小説はこういうタイプのほうが好きです。最後どうなるのかな、真相をハッキリさせるのかあえて描かず終わらせるのかとても気になっていたので、ラストの夫婦の話はちょっと唐突な感じもしました。
感情移入できる人はほぼいませんが、失踪した晶の娘、高校生になった結生ちゃんのエピソードは好きでした。面白かったです。
Posted by ブクログ
すごくおもしろかったのに説明できない。
なんだかつかみどころがなく、感情移入もできない登場人物たちしかいないし。過去の事件の真相は最後に分かるもののそれが残された家族に伝わったのかどうかも分からない。分からないのになんだか満足感のある不思議な本だった。
Posted by ブクログ
カンフーマン引退宣言と共に、突然失踪した若女将。彼女は一体何処に行ったのか…深刻な会話も九州弁でやんわりさせ、リズム感もいい。あっさりなのに味わい深い作品だった。
Posted by ブクログ
面白かった。でも…
このまま失踪きた晶がどうなったかわからないまま終わるのかな、それでもいいかなと思ってたけど、晶をどうにかしてしまった犯人たちが最後に出てきたのは嬉しいような残念なような…いままで読んでたのにこの人誰?ってなって少し置いてけぼりになったのがちょっと気持ち悪かったかな…かといってどうなったかわからないのも腑に落ちないのかな。でも、実際行方不明ってなったらきっとそうだから、わからないまま、今までの登場人物だけで終わらせて欲しかったかもしれない
Posted by ブクログ
妻であり母である女が突然いなくなった、その女を取り巻く人々の一人語りで構成されてるので色んな視点からの話に興味を惹かれあっという間に読んでしまいました
とても面白かったです
Posted by ブクログ
「付き合っている男がいる」
そう告げて妻の晶(あき)は家を出た。
夫の伸伍、晶の愛人の武藤らの視点でストーリーは進む。
晶の不在は、それぞれの家族に小さな傷を残す。
月日が経ち、伸伍も自分の人生を歩き出していた。
晶はどこにいるのか。
それとも、もう存在しないのか。
読み終えて、最初からページを追っていくと
晶に関するヒントは書かれていたのだ。
スルスルと読めてしまったので見落としていた。
さすが、井上荒野さん。
ストーリーに身を任せるだけで
引っ掛かりもなく楽しく読むことができた。
Posted by ブクログ
「あの人を好いとると。」そう言い残し、女は姿を消した。
残された夫と娘。
女と関わりのあった者達のその後の人生は、タイトルの通りに静かに進んでいく。
女はなぜ消えたのか。
美しい文章で綴られる、不穏な空気感が素晴らしかった。
Posted by ブクログ
読み終えて、うわ、結局戻ってこないしやっぱり死んでいたんかい!と独りごちてしまった。
だって、これだけ色んな人の心をざわめかせて時も経ってで…何となく彼女の「その後」の人生が書かれるんじゃないかって思ってしまっていたから。
でも現実はあっけなく、彼女は事故に遭って帰らぬ人になっていた。
彼女は実はどこか遠くの地で暮らしていて、もう別の生活を持っているんじゃないかと思っていたが、そういう話だったらよくあるし、かえって陳腐か。
捨てられた娘が一番の被害者である。成長するにつれ、母親不在の理由を直接は告げられなくともどこかから聞いてしまったんだろう。
彼女が自ら保護した犬の元飼い主の家へ乗り込み、元飼い主へ投げつけた言葉(「私も捨てられた。」)はずっしりくる。
捨てられた側はどんなに忘れようとしても一生そのことを忘れることは無いと思うが、捨てた側はどうなんだろう。同じくらい苦しい思いをするのだろうか。
別に捨てられた経験がある訳でもないのに、なぜか娘に感情移入してしまう。
ある日いきなり突き放された人間の、目には見えない静かな怒りのようなものを感じた。
Posted by ブクログ
佐世保の和菓子店に嫁ぎ、娘を育てながら若女将として生活が続いていくはずが、誕生日を祝った夜に夫からエルメスのバングルを贈って貰いながら…
晶はお礼ではなく罵声を浴びせて家を飛び出す。
そこから以降、晶の不在が続くなか夫は怒りながら愛人の武藤を疑い、嫌悪しながらも日々の生活は続いていく。
娘も不穏さを感じつつ、母に捨てられたと思いながら父親が再婚する頃には母を意識することもないくらいに成長していく。
一人の人間が姿を消すのがこんなにも突然で呆気ないものかと思うと恐さを感じる。
ずっと晶が不在のまま時は流れていくのは自然というより必然であるのが恐いのかもしれない。
ずっと色のない世界のようでいて、ただカンフーマンだけが変に明るいのが不穏だった。
Posted by ブクログ
当たり前かもしれないけど、誰か一人の人がいなくなるということが、周りの人たちをどれだけ翻弄し、悩ませ、長きにわたって苦しめることなのか、あらためて感じた。
自分の一つの行動が、相手とその周りにいる人に及ぼす影響とか、普段はあまり考えないけど、過去を振り返ってみるとちょっと怖くなってしまった。
Posted by ブクログ
荒野さんらしい 終始 不穏な空気に包まれてるような感じでした。誰もが 疑心暗鬼になり不安や怯えに囚われてる。
カンフーマンがキーパーソン?かと思ったけど そうでもない?
そういう結末?とちょっと唐突な感じがしました。
全然内容は違いますが 同じ荒野さんの「僕の女をさがしてるんだ」を思い出しました。
Posted by ブクログ
いろんなことが、ちょっとずつ噛み合わなくなって起こってしまったような話。夫にここまではっきり宣言して出て行っても気になるものか、その姿が見えないと。
Posted by ブクログ
東京から佐世保の和菓子店に嫁ぎ、娘を育てながら若女将として生きる、晶。誕生祝いの夜、夫から贈られたエルメスのバングルを手首に巻きながら、好きな人がいる、その人のところへ行くと告げ、いなくなった。残された夫・伸吾の怒りと嘆き、愛人・武藤の不審と自嘲、捨てられたと感じながら成長する娘・結生‥‥。
最近若手作家さんを読み続けていたからか、不穏な空気が漂っていたのに終止落ち着いた雰囲気で読み終えた。舞台が当地・長崎だったのもあるだろう。冒頭でパレードを引退したカンフーマンが登場し、単なる失踪事件ではないだろうと想像していたので、結末はとても意外だった。果たして晶はどうしているのかと、ミステリー仕立てで引っ張っていきながら、結婚で長く続く夫婦関係を捩(もじ)っているかのような会話や描写がたくさん盛り込まれていた。主人公・晶に与えられたラストは安易で受け入れ難い気もする。結生が自分は捨てられた娘だという疑念を払拭するためには良かったけれど。
Posted by ブクログ
これは、ミステリーなのか。
突然、消えた妻、疑わしい人物は、登場するものの手がかりはなし。
いや、きっと謎解きになると信じつつ、読み進めたが、あまりにも淡々と話が進んで、ひょっとしてと思ったら、最後に意外な展開が。
こういうのもアリかな。
Posted by ブクログ
私の中で「不穏」という言葉で真っ先に思い浮かぶのは井上荒野さん。
本作も終始不穏さに満ちていた。
佐世保市にある和菓子店の若女将が突然姿を消した。
夫と幼い娘を捨てて。
不倫相手の元へ向かったはずだったが、消息不明のまま、12年の月日が流れる。
夫の怒り、不倫相手の困惑、娘の空虚感、それぞれの思いが淡々とした筆致で綴られていく。
派手な展開はない。
登場人物全員が諦観の色に染められているようだ。
絶対悪は存在しないけれど、誰もが普段は心の奥底に隠している負の感情が炙り出され、心がザラついた。
皆がしずかなパレードの演者だ。