あらすじ
霧の中に浮かぶボートの上にいた七人の男女。彼らは記憶を失っており、みな医療スキルなど固有のスキルを持っていた。その中で突如、操舵室に何者かから指示が入る。彼らは疑心暗鬼に陥りながらも、体が覚えている行動パターン──筋肉記憶に頼りつつボートを進めるが仲間の変容、異形の敵、予期せぬ事態が次々と襲いかかる。彼らが果たすべき最大のミッションとは? ハイスピードで展開するサバイバル×ディストピアSF
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Posted by ブクログ
面白かった。夢中になって読んだ。
最初は、記憶喪失状態で何が何だかわからないので、とっつきにくかったけれど、登場キャラが勢ぞろいし、目的地へ進んでいくにつれ、各キャラを把握し面白く感じられるようになった。
最初は気付かなかったが、途中でキャラの名前は作家の名前じゃん!と気付いて調べたら訳者あとがきで触れられていて、簡単に紹介されていた。ハクスリー、ゴールディング、ピンチョンはわかったが、それ以外の作家は代表作を挙げられてもわからなかった。向こうではメジャーらしい。
話としては記憶喪失状態から始まり、なんらかの任務を帯びているということがわかるが、この導入は『プロジェクト・ヘイル・メアリー』と一緒。プロジェクトのほうは副作用的なもので最後は記憶を取り戻すが、レッドリバーのほうは脳手術という外科的なもので人為的に記憶を喪失させられ最後まで自分の名前も取り戻すことが出来ない。
ある種の幸せな夢を何度も見るのは、ザ・ロードを思い出す。
結局最初に死んでいたコンラッドはどうして自殺したのか、彼の役割はなんだったのか。憶測や推測はあれど不明。手術がうまくいかなくて記憶を思い出し絶望して自殺したのか。推測された通りに気象学者だったのか。
キャラの覚書。
ハクスリー→主人公。元警察官?アル中疑惑。
コンラッド→自殺。気象学者?
リース→元医者。
ゴールディング→知識の宝庫。社会学者?パニックになりにくいがゆえに選ばれた?
プラス→物理学者?サイコパス。M株を作り出した側の人間。M株に対抗するための研究のために人体実験を行い、記憶除去という手段に辿り着く。
ディキンスン→記憶を取り戻して変異。登山家?サバイバル技術に長けているので選出された?
ピンチョン→元兵士。操船技術や地図が読める。
最終的に爆発で胞子を焼却するのではなく、生きた抗原となった主人公チームが死んでM株に勝つという図式は宇宙戦争っぽいなと思った。
でも最後までそれを伏せたまま爆弾だと思わせてただのタイマーを運ばせたのは面白い。
最後まで楽しめたので良かった。
パズルやってるお爺さんのシーンも良かった。パズルをやり続ける=幸せな記憶にしがみ続けるってことで、人が幸福を求める限り変異はしないよということかな。幸福を求めてM株を作り出したけど、出発は一緒だよね。
生き延びて発生源に辿り着くことが目的だったので、コンラッドは記憶を取り戻し、片道切符であること、記憶を取り戻したことで変異することを悟って自殺したってのが妥当なとこか?
画家チームも主人公チームと似た目的だったけど、顕微分光光度計が持ち込まれていたので、M株についての調査のために送り込まれていたのかな?試験的に送られて変化を見てM株に有効な変異を促すためのサンプル集め。ANTIBODY=抗体の意味。5人の抗体は失敗ということか?
ピンチョンを軍人ではなく兵士と評されていた(訳されていた)のは気になった。原語だとsoldierだと思うが。軍人だと愛国精神を思わされるからかな。命令を愚直に実行するキャラ付けとして兵士という訳?
兵士だとただのモブ感を感じて。軍人だとスキル持ちという自分の偏見。
ディキンスンやコンラッドがもっと生きていたらどうだったのかな、というのを考えてしまう。
記憶のトリガーとなる匂いの話や夢の話は面白かった。ここら辺もっと砕けてたらラノベ感覚になってたかも。
でもこの内容だと賞候補に乗らないらしくて意外。原文だともっと読みやすい文体なんだろうか。
1ヵ所誤字見つけた。ハクスリーがハウスリーになってた。打ち間違い?クとウも見間違えやすいし仕方ない。
Posted by ブクログ
謎の船の上で意識を取り戻した、7人の男女。彼らは全員、自分の名前も過去も忘れていたが、過去に職業上獲得したと思しき専門技術は身につけていた。赤い霧に包まれた川を遡上しながら、携帯電話から一方的に指示されるまま使命を遂行している彼らが見たのは、異形と化した世界の姿だった・・・
【以下、激しくネタバレ注意!】
めっちゃ面白いです。まるで生きるか死ぬかのアクションゲームの世界を進んでいるかのようで、ページを繰る手が止まりません。ある大富豪が不死を目指して開発させた細菌?が人体を怪物化させるウィルスと化し、感染者がカニのような姿に、あるいは虫のような姿に変異して共食いし崩壊していく人間社会の描写も、気持ち悪くなるぐらい細かく描かれています。
立ち向かう7人は、当初から使い捨ての「人間爆弾」として生体改造されており、ストーリーが進むにつれてその事実を知り、絶望していく様が、とめどない悲哀を感じさせます。
・・・ただ、ですね。
滅びゆく人類社会と、それを救うべく決死の覚悟で立ち向かう少数の生存者の闘い、というストーリーの大枠を理解すると、ちょっと古い日本人SF者としては、どうしても想起してしまう作品があるわけですよ。
あの小松左京の大傑作、「復活の日」を。
「復活の日」においては、
人類社会が崩壊する原因となったのは、「国家間の競争によって生み出された致死性100%のインフルエンザ」(このリアリティ!)。
インフルエンザが世界に蔓延し、南極に滞在する越冬隊以外の人類がまさに滅ぼうとする時、科学者が人類への反省を促すメッセージを録音してラジオで流し続ける(この哲学性!)。
寒さゆえに生き残った南極越冬隊に所属する米国とソ連の原子力潜水艦が、新たな危機たる核ミサイル発射を阻止すべく、国家の壁を超えて手を組み、北米大陸への片道航海を決行する(この政治性!)。
それに乗り込み、ミサイル発射阻止の使命を受けて行動するのは、当時まだ新興の民主主義国家に過ぎなかった日本出身の吉住(この悲壮性!)。
結果的にウィルスの弱体化に成功し、北米から南米大陸の南端まで徒歩で(!)戻ってきた吉住、既に精神を病んでいる彼を暖かく迎え入れる、南極越冬隊のメンバー(この抒情性!)。
SFってのはね!こういう美学が必要なんですっ!!
・・・いや、ゾンビを掃討して盛り上がる作品にそれを求めるのは筋違いだということは、鴨も十分わかっています。「レッドリバーセブン:ワン・ミッション」は、アクション・ホラー作品です。ハヤカワさん、コレなんでSFで出しちゃったかなー。NVの方が合ってたと思うんだけど。
繰り返しになりますが。めっちゃ面白いです。
ただし、後書きで古沢氏もお書きの通り、一回読んだらすっきりと忘れてかまわない類の娯楽作です。再読の必要はありません。
あ、でも、映像化したらワンチャン面白いかもなー。(強烈なB級作品になると思うけど(^_^; )