あらすじ
都会での仕事を三十五歳で辞め、北海道の小さな村で郵便配達をする女。川のほとりの木造家屋で世界中の「音」を集めながら暮らす男。偶然出会った両者は、急速に惹かれあっていく。からだでふれあうことでしか感じない安息と畏れ、そして不意に湧きあがる不穏な気配。その関係が危機を迎えた嵐の夜、決して若くはないふたりが選択した未来とは。深まりゆく愛と鮮やかな希望の光を描く傑作。(解説・山田真歩)
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Posted by ブクログ
この作家の文章は静謐で自然描写も丁寧で優しく北海道の四季、自然を描いている。
40歳手前の別居中の男と東京から男と別れて子供時代を過ごした道東で郵便配達をしての男女の触れ合いを描いている。
音を主軸に厳しい北海道の冬と短い春、秋の気候の描き方が美しい。
題名のフランシスは何処から来ているかはこの本を読んでください。
Posted by ブクログ
「火山のふもとで」がとても良くて、「沈むフランシス」も手にとりました。
やっぱり情景描写がすばらしく素敵だった。
私の祖父母が道東に住んでいたこともあり、一層目に浮かぶ景色だった。
この小説で感じるのは「瞬間」を生きているという感覚。自然も、佳子と和彦の関係も。
こんな生き方してみたいなと思ったり思わなかったり…。
この小説は登場する「場所」が少ないのが魅力になってると思う。
2人の過去は多く語られないのもいい。
安地内村の、特に和彦の家にスポットライトがあたっている感じが北海道の深々とした雰囲気と相まって素敵でした。
Posted by ブクログ
いきなり物騒な始まりですが、中は至ってまともな恋愛小説。
都会に疲れ北海道の寒村で郵便配達を始めた女性と、小水力発電の管理をする謎の男性。あるいみ、ごく有りがちなストーリー。主人公の女性のキャラクターだけ綺麗に立って、周り登場人物が全体にぼんやりした感じがありますが、何と言っても素晴らしいのはその文体。奇を衒うでもなく平易な文章なのですが、何故か染み込んで来るます。
『火山のふもと』程の充実感はありませんが、これはこれで良い小品です。
Posted by ブクログ
なんという綺麗な本なの。
聞いている音を通して、実際はわたしはただ活字を読んでるだけなのに、景色がとても鮮明に美しく広がる。
清少納言の枕草子
「春は、あけぼの。やうやうしろくなりゆく山やまぎは、すこし明あかりて、紫むらさきだちたる雲くもの、細ほそくたなびきたる。」
に通じるものがある。
本作
「春はまず空からやってくる。」
「抜けるような青空でもなく、雪を生むぶ厚い雲でもない、かすみで薄ぼんやりした白く明るい空が広がるようになった。」
御法川さんが見た夕焼けのシーンでは、自然と涙があふれてた。
目の前は本なのに、御法川さんの言葉でわたしのまわりが雲とオレンジの夕焼けが広がった。
その後もね。御法川さんの「無理をして起きあがろうとは絶対にしないこと」の言葉に涙があふれた。
呼吸を聞くだけでも、いろいろなことが分かる。
そう、緊張してると呼吸って浅くなるもんね。
でもその音に意識を向けたことってあったかな。
自分自身にも、かかわっている相手にも。
かたちあるものはいつか消えてしまう
消えたものは、かたちを失うことでいつまでも残る
Posted by ブクログ
連綿と続く川の流れの中で意図せず出会い意図して一緒に過ごすことを選んだふたり。
フランシスに堰き止められ灯りを灯し続ける未来が垣間見えた矢先に沈むフランシス。
連綿と続く川の流れの中で今度はふたり離れずにどこまで寄り添い流れるんだろうか。
そうかもしれないし枝分かれする川の流れに逆らえず手を離してしまうかもしれない。
流れてときにとどまる煽りだけは確とした揺るぎない自分自身ですよね覚束なくとも。
…ジャケ買いしたんですが。
(雪の結晶鼻に乗ってるし…)
Posted by ブクログ
松家仁之『沈むフランシス』新潮文庫。
デビュー作の『火山のふもとで』を皮切りに本作の『沈むフランシス』『光の犬』と、3ヶ月連続で新潮文庫から刊行されるようだ。
タイトルの『フランシス』とは一体何か。表紙に犬かキツネのような生き物の顔の写真が掲載されているが、これが『フランシス』ではない。読んでみてのお楽しみなのだが『フランシス』とは全く予想外の意外なものだった。
自然豊かな北海道の小さな村を舞台に描かれる男女の恋愛の物語。静謐な自然を背景に儚くも、綺麗ごとだけでは済まない恋愛の形が少しずつ明らかになっていく。
他人との付き合いに煩わされることなく、自分のことなど誰も知らない自然豊かな田舎でひっそり暮らしたいという主人公の撫養桂子の気持ちはよく解る。自分も昨年、隣近所の無い田舎の中古の平屋に住み始めた。地域の住人とは最低限の付き合いをすれば良いし、他人の目など気にしなくとも良いので、非常に楽である。
本作に描かれる撫養桂子と寺富野和彦の30代半ばの男女の肉体を優先する恋愛関係も解らないでもない。恐らく2人は結婚などという形式的なことなど頭には無く、残された若さを肉体的なつながりで費やしたいと思うのだろう。
都会での仕事を35歳で辞め、男とも別れ、北海道の小さな村に郵便局の非正規社員となった撫養桂子は郵便配達をする毎日を送っていた。やがて、桂子は川辺に佇む木造家屋で世界中で収集した音をオーディオで楽しみながら暮らす37歳の寺富野和彦と知り合う。2人は急速に惹かれ合いながら、身体を重ね合う日々を送る。
桂子は、和彦の噂を耳にすると共に和彦に対する疑惑から心が揺れ動きながらも、肉体は和彦を求めていた。やがて、村を嵐が襲い、和彦の川辺の家にも危機が迫る。
読んでみるとデビュー作の『火山のふもとで』の出来が良く、そこまでのレベルではないが、巧い小説であると思う。
本体価格550円
★★★★
Posted by ブクログ
タイトルと装丁から 動物絡みのサスペンスかな?と思ったわたしは いい感じで裏切られる。大人の恋の話じゃありませんか?恋愛小説だったんだぁ〜!筆致が大人。たまには こういうのもいいなと思う。途中収集された音の描写が これでもかというくらい繰り返されるのが 個人的に う〜ん の感じ。大人だからかほどほどの距離感で深まっていく関係…んなわけないじゃん!とツッコミいれながらも 大人だからねーで。桂子目線じゃなく和彦目線なら どんな話になるんだろう?と 余計なことを考えてしまいました。