あらすじ
浅草は観音裏、昭和の香りを色濃く残す喫茶店「カサブランカ」。美味いコーヒーと亭主夫妻の人柄に惹かれ、今日もまた、風変わりな客たちがやってくる。芸者の大姐さん、吉原の泡姫、秘密を抱えた医大生……それぞれの複雑な事情がカップの湯気に溶け、そっと飲み干せば少し力が湧いてくる。疲れた心がじんわり温もる人情連作集。
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Posted by ブクログ
浅草にあるカフェ「カラブランカ」で起きる毎日のこと。
カラブランカを営む富子と士郎。
常連の藝者で人間国宝になった澄江とお弟子さんの菊江。
すき焼き屋を営む文造。
医大生になったヒカル。
富子が若く藝者だった頃に出会い、逃げた男との子をお腹に宿し、全てを知りながらも生真面目で寡黙な前科持ちの士郎と結婚したこと。
自分の性別に違和感を覚えながらも、母に理解されない歯痒さと医師になるべく授業をこなすヒカル。
贔屓にしてくれていた旦那さんに捨てらた澄江の過去、借金に悩む文造さんとの今も続く友情。
高校教師との恋愛の末に子供を故郷に残し、藝者として再出発を誓った菊江の迷い。
さまざまな事情を抱える登場人物たち。
どうしようもできない過去も、全部受け止めて、思い出と一緒に生きていく、浅草で暮らす人たち。
浅草っていいよねえ、数回しか行ったことないけど、海外の人だけじゃなく、立派なお寺があってお店がひしめき合って賑わっている様子っていうのには、日本人だって惹かれるよね。
Posted by ブクログ
浅草の浅草寺裏、言問通りに面して昔ながらの小さな喫茶店「カサブランカ」がある。店の歴史はそこで撮られた永井荷風の写真が飾られていることからも一目瞭然。
何といっても店の名物は、切り盛りする夫婦の人情に加えて自慢の淹れたてコーヒーと香り豊かなバタートーストがセットになったモーニングサービス。それを目当てに通ってくる常連さんたちが、この物語の主人公だ。
一軒の古びた下町の喫茶店を舞台に、そこに住む人々の人間ドラマをさらりとした筆致で描いていく。いずれの登場人物たちもどことなく訳ありの風情で、そこがややミステリアス。場所柄を象徴するように多彩な顔ぶれだ。
清元の師匠に芸妓の見習い、それに風俗嬢などさまざま。いわくつきの人生模様が、ささやかな事件と共に語られていく。