あらすじ
修平の両親が番人として雇われた別荘には秘密の地下室があった。別荘の主、布施金次郎と両親たちとの密約の存在を知った17歳の修平は、軽井沢にたちこめる霧のなかで狂気への傾斜を深めていく。15年の沈黙を破って彼が語り始めたひと夏の出来事とは? 人間の心の奥に潜む「魔」を描ききった傑作長篇小説。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
読み始めると、この不思議な世界にすぐにひたってしまう
軽井沢の霧の中で、坂を転げるように危険な思考に落ちていく
なんども読んでいて、経過も結果もわかってはいるけど
それぞれの人たちの気持ちを考えると苦しく悲しくなる
また、違う夏に読むんだろうなと思います
Posted by ブクログ
未読だと思って久しぶりに宮本輝作品を手に取ったら、2015年に既に読んでいたようだ。
軽井沢の別荘番の息子として生まれた久保修平は、別荘の持主である布施家に対する羨望と憎悪から、その心の裡に次第に狂気を育てていく。“姉妹の麦わら帽子は、卑下と憎悪のふたつの感情をぼくにもたらせてきた。(p.56)” 布施金次郎と、自らの母・姉との間の淫靡な関係を知った彼は遂に、布施金次郎を殺すことを決心する…
まさに愛憎劇と呼びたくなる、官能的で、怪しい物語。17歳の修平の、視野狭窄さ、自分の思い込みに徐々に囚われていく様が恐ろしい。軽井沢に立ち込める「霧」も、舞台装置として非常に効果的に働いているように感じた。“霧が出てくると、頭痛が始まり、体中の力が抜け、口をきく気力すら失うのだった。(略)すべての人間の中にひそんでいる魔…。外にあるものではなく、内に宿している魔に活力を与える媒体は、ぼくにとっては、あの軽井沢の霧であった。(p.47)”
避暑地の「猫」というのが何を意味しているのか結局よく分からなかったが、ポーの『黒猫』のような、魔性の象徴ということだろうか?