あらすじ
東北地方沿岸部のとある高校。そこで起こるささやかな謎の中心には、いつだって彼がいた。校舎が荒らされた前夜に目撃された青い火の玉。プールサイドで昼食を取っていたとき、話しかけてきた同級生を水中に突き飛ばしてしまった女子生徒の真意。テーマ不明の、花瓶に生けられた花の絵。そして、高校卒業後大学に入学するまでの何者でもなかった二〇一一年の“あの日”以来、私たちの前から姿を消してしまった彼自身──。これは大切なものほどなくしてしまう悪癖に悩まされ、それでも飄々と振る舞う青年が歩んだ、高校生活三年間の軌跡を辿りなおす物語。
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Posted by ブクログ
「大切なものをなくしてしまう」悪癖をもつ、菅原晋也のエピソードを中心に描かれる、日常ミステリー。
火の玉の謎、学校の窓ガラスが割られる事件。
プールに突き落とされた理由を探したり、菅原が描いている絵のモチーフを探ったり。
その日常が、ある日を境にひっくり返る。
最後に突きつけられる謎に、私たちは、あの日のことをどうしようもなく、思い出す。
喪失を認めることって、どうして、こんなに苦しいのだろう。
冷たくて優しい、飄々とした菅原のことを考える。
あるいは、あの日のことを。
Posted by ブクログ
〝菅原晋也〟という男の子について、友人らが語っていく甘酸っぱい青春ミステリー
──と思ったら。。。
【第一話 ガラス片の向こうで】
高校一年〜青い火の玉の謎
【第二話 炭酸水の舞う中で】
高校二年〜突然プールに突き落とされた理由
【第三話 黄色い花の下で】
高校三年〜彼が描いた花の絵の意図
語り手が次々と代わる連作で、菅原晋也は悪癖もあるけど憎めない、人懐っこい男の子。
迷子の子犬のような顔だって(・ω・`U)
どの話も〝人には話せない秘密〟が描かれている
大きい小さいはあれど、きっと誰もが秘密を持っているのではないだろうか。
もちろん、私も…
特に思春期の頃って、色々あるよね…
──しかし、甘酸っぱいのはここまで。。。
【第四話 空っぽのロッカーで】
ここで気付かされる…
2011年3月、あの日の話だと…
【第五話 願わくば海の底で】
【最終話 禱(いのり)】
〝彼はもうこの世にいないのに、彼について詳しくなっていく。
これもまた、弔いなのかもしれない〟
菅原晋也は確かに、ここに、生きていた。
私たち一人ひとりには必ず物語があり、生きていた証がある。
その日々は、みんなの心に生きているから…
切なくて優しい物語だった。
Posted by ブクログ
軽いノリで始まる高校生達の物語がだんだんと···。
居なくなってしまった大切な人が最期に見ていた景色を見たい。それがどれ程の救いや弔いになるのか、私には想像がつかないけれど、同じ震災を経験した身として精一杯想像しながら、最終章が近づく頃には祈るような気持ちで食い入るように読みました。
災害や戦争など、死者行方不明者〇人という、そこに入る数字には、一人一人名前があり人生があり関わる人達が大勢いるんだということを改めて心に刻みました。
Posted by ブクログ
器が小さくて、臆病で、残酷。他人から憎まれ、疎まれ、嫌われながら、恐らく1番傷ついていた菅原晋也に深く感情移入してしまった。
東日本大震災で行方不明になってしまった彼の記憶が、生き残った彼の周りの人々の人生に織り込まれ、浄化されていくのが切ないが妙に現実的だと思った。彼に対して、もっと複雑な感情を抱いていたはずの人たちも、罪悪感と後悔と苛立ちに疲れ、やがて彼を記憶の底に沈めてしまうのかもしれない。
それでも目を閉じて彼を思い出す、その幕間の一瞬に、愛されたいと願っていた菅原晋也という人間に対する祈りが少しでも含まれていたなら救いだと思う。今年読んだ中では1番好きです。
Posted by ブクログ
素晴らしい一冊だった。
最後まで読み進めてタイトルの意味が分かる瞬間。これぞ読書の醍醐味。だから私は、前情報やあらすじは見ずに読み始める。読みながら、こんな内容か、とひとつひとつ感動しながら読んでゆく。
半分くらいまでは、何が起こったんだろう、と。登場人物への興味と、物語の言わんとする事を探り探り。
そして、ああ、このテーマか、と。
でもここまでリアルにその日を描いたものを読むのは初めてで。自分がその日過ごした時間と重ねて、この人たちはこう過ごしたんだ、と。
区切りなんて言葉だけ。でもそれが必要なくらい、打ちひしがれて。今だって辛いのは、分かりたい。
Posted by ブクログ
初めての額賀澪さん。SNSでの紹介、そしてタイトルに惹かれました。
最初は菅原晋也が主人公で彼の周りにいる友人たちとの青春ミステリーのような感じなのかと思ったら違ってた。
2011年3月11日の東日本大震災が起こるまでの、菅原晋也の軌跡を辿る物語でした。
彼(菅原晋也)は大事なものを忘れてしまう悪癖があり、それでも自分と向き合っているひたむきさは、周りの人達も彼から離れず近くにいてくれた。
彼の存在は周りの人達にとって『印象に残る』人だったのだろうと、各章に出てくる登場人物の回想に思いを馳せる。
でも東日本大震災当日、彼は『大事な命』を忘れないでいたのではないかと。悪癖なんて治らないと先生が言ってたシーンはあったけれども、大事なことはしっかり覚えてるものだと思う。
…ある日突然、昨日まで隣にいた人がいなくなり、それが自然災害というあまりにも酷い出来事だったとしたら。
藍先輩のように生きてる可能性をずっとずっと抱きながら過ごしているかも知れない。彼女のように今を苦しむ人達が、少しでも安らぐ時が来ることを願うことばかりです。日本は自然災害が多い国。東日本大震災だけじゃなく、あらゆる災害で被害を受けた人たちがたくさんいる。そういった方々に、出来事を風化させずにしたい。
そして今生きる私たち、出会った人との『縁』は忘れないで生きることを胸に刻まれた作品でした。
Posted by ブクログ
面白いというよりとても良かったという感じです。
ただいなくなったのかと思ってたら、東日本大震災の話なんですね。被災していない私でも辛くなったので当事者の方にはかなりきついかも。
Posted by ブクログ
会えなくなってもずっと忘れられない人っていますよね。 いまどうしてるかな、会いたいな、って。
美術部の仲間や顧問、同級生から語られる高校生の菅原晋也という人物は、飄々としていて掴みどころがなく しかしなぜか憎めない そんな存在でした。
高校から美術を始めたにも関わらず、美大に現役合格してしまう菅原晋也。
彼はある人にとっては嫉妬の対象であり、またある人にとっては淡い恋心を抱く異性であったり…。
そんな菅原晋也本人は、「大事な物ほど持ち帰るのを忘れてしまう」という悪癖に悩まされる ごく普通の高校生でした。
第三者から語られる菅原晋也の姿には いつも「日常の謎」がセットとなっていて、ほろ苦青春 日常系ミステリーの雰囲気で話は進んでいきます。
ささやかな日常を根こそぎ奪い去っていった『あの日』を迎えるまでは…。
大切な人との突然の別れ。
東日本大震災の行方不明者数は2500人を超えます。
年月は人の心を癒すのでしょうか。
行方の知れない人との「別れ」は、何年経てば生きているという希望に区切りをつけられるのでしょうか。
最終章で解かれた謎は あまりにも辛いものでした。
牙を剥いた自然の脅威に 人は為す術もないのでしょう。
菅原晋也はあの日 どこで何を思っていたのかな
共に過したあの場所で、
一緒に青春を謳歌するはずだったあの場所で、
今日も穏やかな海を眺めて。
何度でも思いだそう。
そしてあなたは願わくば…
Posted by ブクログ
東日本大震災を題材にしたもの。当事者ではないが、すごく胸に響くお話だった。行方不明の方に対してどこかで区切りを付けないといけない、というのはとても共感する。また、死亡届を出しても99%しか受け入れられていない、本には99%と書かれてあったが、人によっては80%だったりもっと低かったりするのだろうなと思う。私自身は姉を病気で亡くし、姉の亡骸を見て火葬もしたが、同じような感覚でいる。まだどこかで生きているような、生きていてほしいような、真の意味でまだ姉の死を受け入れられていないんだなと、この本を読んで改めて感じた。「願わくば海の底で」読後は胸を締め付けられるが、良い書名だと感じた。いつか震災跡地を訪れて、いろいろな人の声に耳を傾けたい。
Posted by ブクログ
人が日頃感じている生きづらさ、突然の災害が人に与える苦しみ。これらを背景に、本人以外の周囲が語り手となって、多角的に本人の人物像を浮かび上がらせていきます。明らかにミステリーの範疇を超越し、胸に響く慈しみと祈りの物語でした。
2020年、5人の作家による学園ミステリ・アンソロジー『放課後探偵団2』が10年ぶりに刊行。この中に、額賀澪さんの「願わくば海の底で」が収録されていたとのこと。もともと学園ミステリーだったのですね。
本作は、上記既出作を改稿して第5話とし、印象的な男子生徒を強調して取り上げ、彼とつながりのある人物たちとのエピソードを第1〜4話・最終話として書き下ろして補完されています。
改めて同名で連作小説としたようですが、数段格調高い作品になっていると感じました。
人間の諸々の感情を飲み込む災害には、誰もが決めつけられない区切りと諦念、それでも生きていく苦悩と覚悟がつきまといます。失った人を単に美化するのではなく、苦悩を含めて「彼がそこにいた日々」を辿ることが弔いとなり、祈りとなるのでしょう。
スポーツや吹奏楽など、幅広い青春ドラマを描き続ける額賀澪さん。日常や人との関わりを見直し、大切にしたくなる物語でした。震災を知らない若者にはとりわけ共感が得られるのではと思いました。
Posted by ブクログ
すごく切ない。
実際のあの日にもこんな事があったのかもしれない。
彼はもうこの世にいないのに、彼について詳しくなっていく。
こんな弔いは切なすぎるけれど、こうやって皆んなの記憶に残り時折思い出してもらえるのは幸せなことだな。と思いました。
けどやっぱり生きててほしかったな。
Posted by ブクログ
東北地方沿岸部の高校で過ごした菅原晋也の3年間を彼に関わった上級生や同級生や後輩たちが、彼と過ごした日々を語る。
美術部に入部した彼は、飄々とした性格だが大切なものほど失くしてしまうという悪癖に悩まされていて、第一話からその発端を窺わせる内容だった。
第二話は、会食恐怖症を暴く。
第三話は、彼の才能を羨ましく思う後輩と美術教師。
第四話は、彼の姿がない大学。
第五話は、彼がいなくなったあの場所で…。
菅原晋也ともっと一緒にいたかったのに…と誰もが思っただろう。
才能のある不思議な彼。
いなくなったことも認めたくない…と。
だが彼はいないという現実。
それでも彼がいたあの頃を誰もが覚えている。
哀しくて無情を感じた2011年3月のあの日。
Posted by ブクログ
菅原晋也という男子高生の日常の出来事について、彼に関わる周囲の人たちからの視点で描かれた作品。
中心となる菅原晋也について、当人視点で描いていないところが面白かった。この表現の仕方のおかげで、自分も菅原晋也に思いを馳せる1人になれた気がした。
読んで感じたことは、思いを馳せることの偉大さ。
大切なものを失った人たちが、そのものを思い出し、祈ることは、できた穴を修復していくように思えた。完全に塞がることはないけれど、自分や相手を少しでも納得させていく行為なのかなと感じた。
Posted by ブクログ
1人の少年の話しだとは、思っていたけれど、私の思った感じではなくて、読み始めたら、止まらなかった
辛い経験は、思い出すことに蓋をしないと生きていけないと思う
どんなことも、時間が解決してくれると、よく言うけど、表面上は、解決したように見えて、心の喪失感は、解決しないんじゃないかな…
Posted by ブクログ
一つ一つの話もテンポ感などがよく読みやすかったかし、全体を通してどういう結末にいきつくのか予想しづらく真実が少しずつわかっていく過程が面白かった。
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こういう憎めない子いるな、と思いながらどんな大人になるのか楽しみに読んでいたのに…。アンソロジーで読んだときもしんどかったけど、今回もしんどい。でも読んで良かった。
Posted by ブクログ
大切なものほど失くしてしまう悪癖を持ち、罪悪感を覚えながらも飄々と生きる彼。そんな少年の高校生活を辿るなかで突然見えてきた悲しい未来に、狼狽えてししまいました。
東日本大震災で、街が大きな津波に襲われた。大事な人が亡くなり、今も行方不明のままの人が大勢いる。
あの時、その後に起こったであろうこと。故人との思い出。“もし”がもたらす苦しみと後ろめたさ。遺された人の心の変化。
さまざまな関係者によって語られる少年の思い出と迎えられたはずの未来、そしてあの日に起きたこととは……。
爽やかな青春小説だと思っていたので、思いもよらない展開に当時の気持ちに引き戻された。
大きな哀しみに襲われたとき、人はどうやって自分の気持ちに折り合いをつけるのか……。
当事者の方にとっては辛い記憶を思い出すことになるかもしれない。
喪失と再生、追悼のような物語でした。
Posted by ブクログ
菅原くんや、三浦さんのおじいちゃんのような人々がたくさんいるんでしょうね。もう何年も前に行った宮城県の光景を思い出していました。今はどうなっているんでしょうか。確かに遠く離れた場所で生きている私たちは1年のその時期にしかその事に思いを馳せなくなってしまったと思う。でもまだ気持ちの整理もつけられない方々もいるに違いない。何も出来ない。せめて黙祷を…。
Posted by ブクログ
3.11に行方不明となった菅原晋也に関わった者達の群像劇のような感じだが、各人の視点が変わることで景色が変わっていくような面白味を味わうというより、読み進むにつれ彼は存在していないのだという虚無につつまれ、いたたまれなくなっていった。
最後の章では、彼は亡くなってしまっても死者として存在し続け、彼と関わった人達を結びつけ続けていく。
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いつも飄々としていて大切な物を忘れるいう悪癖があり美術部でとても絵が上手く憎めない存在の菅原晋也という少年について語られる物語たち。その物語がどこに収束していくのか、途中で気付いてからはやるせない気持ちになっていく。同じようにあの日いなくなってしまった人たちがたくさんいる。見つからないからどうしても諦めることができない…本当にその通りだと思う。5話の禱で明らかになる事実があまりにしんどい。悪癖は彼を語るひとつのエピソードでしかなかった気がする。そういう、何でもないことをも忘れないでいることの大切さ。
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東北地方沿岸部のとある高校に菅原晋也は居た。何故か大切にしている物を忘れてしまう悪癖があり、それに悩んでいた。どこにでもいる普通の男子高校生、菅原を中心としたちょっとした出来事。だが、美大へ合格して進学するはずだった菅原は居なくなった。あの震災に巻き込まれて…
飄々として、どこか憎めない菅原。美術の才能があって、これからを期待されていたのに、津波によって全てが無くなった。菅原の同級生・本郷藍と後輩の小野寺宗平が菅原の最後の姿を追った先に待ち受けていた真実が、あまりに切なかったです。
Posted by ブクログ
「もしかしたら」という望みを持ち合わせ続ける辛さが身に沁みました。生きていて欲しいのに、そうじゃないと分かった時、悲しみはもちろんあるけれど、少し安心感もあったのかな。心苦しいけど、消化もできないけど、よかったって、何とも表現できない感情。残酷だけど、温かい気持ちにもなる。
個人的に「空っぽのロッカーで」が好きでした。言ってしまえば、超他人の佐藤美咲が思いを馳せるエピソードを書くってすごいと思いました。他の章より短いのに、非常に心に残りました。
額賀澪さんは、どこか掴みどころがない、目を惹く儚い人物の描き方が本当にうまいと思います。
菅原晋也という人物が、非常に心に刻まれた感覚があります。菅原晋也が、何を思って、何を感じたか、菅原晋也自身の口から聞けないもどかしさ。彼の人となりをもっともっと知りたくなっています。何かのタイミングで、菅原晋也という人物を思い出してしまうんだろうと思います。
額賀澪さんの作品は4作目です。共通して感じたのは、私はハッピーエンドが好みなのですが、額賀澪さんの作品はあまりスッキリしない終わり方をするなあと感じでいます(あまり良い言い方が思いつかずすみません)。でも、少しモヤっとするけれど、心に残る、忘れられない作品を描く額賀澪さんの作品が大好きで、ハマってしまっています。
Posted by ブクログ
大事なものほどなくしてしまう菅原の悪癖、どうにかしたくてもできなくて、飄々としているように見せかけていただけなのかもしれないと思うとやるせない
呆れたり嫉妬したり色々な感情を菅原の周りの人達は持っていて、いつかそんなネガティブな感情も薄れていくのかもと思っていたのに…
諦めたようで納得しきれなかった事が宗平の告白でわかり、感謝していると言った三浦さん、仕方ないと言った先輩、ふたりに罪を責めて欲しかった宗平は苦しかったろうな
みんな優しい思い出を忘れずにいてほしい
Posted by ブクログ
大切なものをうっかり無くしてしまうという悪癖を持つ高校生菅原晋也。困ったところもあるけど、なぜだか人を惹きつけるところがある。そんな彼を中心とした高校生活が描かれ、その後は東京での美大生の暮らしが続くはずだったのに…
震災は、こんな日常を一瞬にして奪ってしまったんだな。前半がキラキラした高校生活のシーンだったので、よりその現実を思い知って辛くなる。
この物語は、震災後を描いた第5章が先に書かれていて、第1〜4章と最終話が書き下ろしで加えられたとのだそう。著者の頭の中には、元々高校生の菅原が存在していたんだろうか。
Posted by ブクログ
後輩くんの立場を思うとどうしようもなかったとは言えとても辛い本を読んだ気がする…。 最終章を読んだら前4章が吹っ飛んでしまったぐらいには…。
Posted by ブクログ
東日本大震災で行方不明になった菅原晋也。彼には大事な物を忘れてしまうという悪癖があった。本人もそれを気にしていてその思いを絵に描いたりしていた。花卉画の中の黄色いスイセンの花言葉は「私のもとへ帰って、もう一度愛して、愛にこたえて。」
皮肉にも黄色いスイセンに込めた思いは遺された人々の思いになってしまったような気がする。
そんな思いに駆られながらも遺された人々は弔いの意味を込めて海岸を捜索する。切ない時間だか大切な時間でもあった。
「願わくば海の底で……安らかに……」
余韻が残る読後感だった。