あらすじ
木の根と共生し、落ち葉を分解して、菌類はひっそりと森を支えている。キノコは菌類の繁殖装置。まわりの栄養を吸いあつめておいしくなるが、放射性物質まで濃縮してしまう。植物とも動物とも異なる宿命のもと、共生へと進化したキノコの教えをいま人類は学ぶべきではないか。食と環境と生命をめぐる興味深い話題を満載。(カラー口絵一丁)
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Posted by ブクログ
キノコが木や森にとってどのような役割を持っているか,あまり知られていないのではないだろうか.菌根菌と樹木との共生関係等,興味深く読むことができた.
Posted by ブクログ
キノコの世界がこんなに奥深いものだとは!
1 日陰者のつぶやき
うらぶれたタイトルの印象とは全く違う。
菌類(キノコ)がどう進化してきたかという壮大なお話。
キノコの生態についても、コンパクトに解説してある。
2 これ食べられますか
キノコが有毒かどうかを見分ける考え方は・・・
ルールがないという一言に尽きるらしい。
それ以外にも、キノコが重金属や岩を「食べる」、つまり吸収してしまうことにもびっくり。
最近話題のセシウム汚染の話も出てくる。
筆者は野生のキノコには相当長期間食べないようにと警告している。
しかし、そのキノコが、放射性物質を地中深くに浸透しないようにしているという指摘も重要だと思った。
3 夢を追って
本書の章題はみな、なんだか面白いが・・・
この章は、食用キノコの栽培が苦労を重ねて方法を生み出してきたことが紹介されている。
4 腐らせること
元寇の時、元の軍船が沈んだのは、キノコの仕業だった、という興味深い話から始まる。
石炭ができたことにも、キノコとの関わりが考えられる・・・つまり、石炭紀にはセルロースを分解できるキノコがまだ生まれていなかったために、機が腐ることなく石炭化したのではないか、と。
世界史の影に、キノコあり、ということか。
5 森を支えるキノコ
ここは菌類と植物の共生を扱った章。
根を菌が包み(菌根)、根を守るのだそうだ。
6 環境変異を告げるキノコ
「山豊作で里凶作」など、かつて通用していたキノコにまつわるジンクスが、最近通用しなくなってきたという。
林業に携わる人が減り、森が荒れてきて、キノコもこれまでにない発生のしかたをするようになってきたらしい。
酸性雨が原因で、菌根が消えてきているとも。
それがナラ枯れなどにつながっているという。
筆者は、根に炭をまくことで、根の勢いを回復させられるという。
ただ、その方法は、あまり広く採用されていないらしい。
7 マツを助けたショウロ
防風林として植えられた、海辺の松。
筆者は陸前高田の松林再生プロジェクトにも参与している。
その取り組みが紹介されている。
8 キノコの教え
最終章。
マツタケ研究者としてスタートを切った、筆者の研究人生を振り返りつつ、キノコの進化を俯瞰し、さらに人間の問題(自然との共生)まで扱っている。
人間の問題に応用していく断には、共生が決して生易しいものではないことにも触れながら・・・。
かなり懐の深い本だと思う。
Posted by ブクログ
菌糸の細胞膜はキチンが主成分。卵菌類やツボカビ類は水の中で藻類や原生動物に寄生していた。生物が陸上に上がると、接合菌が現れた。子嚢菌の祖先がシアノバクテリアを取り込んで共生し、地衣類を形成した。担子菌が増え始めたのは、針葉樹が現れるジュラ紀の頃と思われるが、キノコの化石が出てくるのは白亜紀以降。子嚢菌は腐りやすいものにつくものが多く、動物の寄生菌も多い。担子菌のほとんどは腐生菌と共生菌。
葉の表面が白くなるのは、細菌や酵母、カビの軟腐によるもの。リグニンまで完全に分解できるのは、担子菌のハラタケ目や腹菌類のみ。針葉樹材はセルロースだけを分解する褐色腐朽になりやすく、広葉樹材はリグニンも分解する白色腐朽しやすい。倒木が褐色腐朽した場所は他の微生物が暮らせず種子が育ちやすいため、倒木更新しやすい。白色腐朽する広葉樹は倒木更新できない。
マツ類が先駆植物として、乾燥した養分の少ない土地でも育つことができるのは、菌根菌の菌糸が広がって水やミネラルを植物に送るため。スギ、ヒノキ、サクラ、カエデ、タケなどは、グロムス門のカビとアーバスキュラー菌根をつくって共生している。樹木の中で外生菌根をつくるのは風媒花に限られ、虫媒花の植物にはない。ランやツツジなどの第三紀以降に現れた植物は、カビやキノコの菌糸を根の細胞に取り込んで内生菌根をつくっている。
大気汚染によって枯れたマツ科やブナ科の樹木は、キノコと菌根をつくるものばかりで、菌根菌の種類や量は減っている。雪の多い地域で枯れだしたのは、汚染物質を含んだ大気が雪になって降り積もり、春になって融けると、pHは4以下まで下がって根などに傷害を与えるため。
菌根菌が大気汚染による樹木の枯れと関わっているとは、目から鱗の思いだった。菌類の世界は複雑でわからないことが多いと感じた。最終章で、生物は寄生から腐生、共生へと向かうという著者の自然観を提示しているが、植物のように自ら栄養をつくることができない従属栄養生物にとっては宿命かもしれない。環境の持続可能性の概念とも似ていて、興味深い。
Posted by ブクログ
<いまだに「食べられますか」という質問がほとんどで、まともに研究対象として取り上げられてこなかった恨みがある>と著者まえがきにあるが、「たべられるかどうか」以外の専門的な話も多く、思ったより歯ごたえがあった。菌類の中でどういうものをキノコと呼ぶのか、キノコにも原始的なのとそうでないのがあって、植物に寄生していたのが共生関係を結ぶようになったといった話はおもしろかった。