あらすじ
ぼくが入社した村井設計事務所は、ひと夏の間、北浅間の「夏の家」へ事務所を移動する。そこでは稀有な感性をもつ先生のもと、国立現代図書館の設計コンペに向けての作業が行われていた。もの静かだけれど情熱的な先生の下で働く喜びと、胸に秘めた恋。そして大詰めに迫った中で訪れる劇的な結末。ただ夏が過ぎても物語は終わらなかった。かけがえのない記憶と生命の瞬きを綴る鮮烈なデビュー作。
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Posted by ブクログ
建築についてあまり詳しくない自分でもその魅力を感じ取れた。夏の家という避暑地に佇む建築事務所で名建築家の先生と共生する設計者たちの生活を丁寧に描れる。特に事件らしい事件はなく、避けられない運命に至る過程が端正かつ瑞々しいな文章で静かに語られていき、いつしか作品の虜になっている自分に気が付く。浅間山の鳴動する活動を背景に、あるときは不穏にあるときは悠久な様子を見せながら物語は進んでいく。コンペの行く先を最後まで見たかった気もするが、それはそれで別の小説になったのだと思う。後世に遺すべき素晴らしい小説と思う。
Posted by ブクログ
たまたま手にとったこの一冊を、2025の夏休みに読破。贅沢な時間を過ごしました。まるでその場にいて見ていたような設計事務所の細部の描写、夏の家の様子、風景などにすっかり魅せられました。小説と同じ時代にほんの少し建築に関わった自身の思い出が、今、全く違う仕事をしていて思い出すこともなかったのに、数十年ぶりに押し寄せてきました。先生が主人公に伝えたこと、その言葉が染み入りました。
Posted by ブクログ
毎年夏に事務所機能を移転する浅間山のふもとにある、設計事務所の山荘「夏の家」。新卒入所の主人公が、この山荘で過ごすひと夏の時間が静かなタッチで描かれていて、自分も軽井沢の澄んだ空気の中にいるような気持ちになりました。
三度の食事の支度や買い物、掃除洗濯、山の日々の暮らし。日常を丁寧に過ごすことが建物を創ることに繋がっていくのかもしれない。設計の専門的なことはわからないけれど、レトロ建築が好きなので、ずっと残っていくものを創る意味についても考えさせられました。
読み終わってもまだ「夏の家」にいるような余韻が続いています。
美しい小説でした。
Posted by ブクログ
新刊『天使も踏むを畏れるところ』
読み終えたところで、デビュー作を手にした。
あの建築家・村井俊輔の事務所で働く
若い建築家・坂西徹が主人公。
村井設計事務所で働く建築家たちが
「夏の家」でのびのびと仕事をし、恋もする。
『天使も踏むを畏れるところ』より歳を重ねた村井俊輔が
青年の坂西を通して生ることを楽しんでいる姿が描かれている。
品性もあり、また人間臭さも感じられる作品。
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言葉選びが美しく、情景がありありと浮かぶ。幼い頃見た情景や温もり、匂いや手触りを思い起こさせる。文章から記憶が刺激され、心が揺れる。
麻里子との馴れ初めから蜜月描写は違和感しかなく、雪子の方が好意的に書かれていたのは、結末への伏線だったのかも。どこにも未来を匂わせる描写はないのに、見事に感じさせられる。
長いけど、満足度の高い密度の高い小説だった。
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バブルのもっと前、堅調な成長を続けていた頃の、建築家たちの仕事を描いた物語。軽井沢を舞台にしており、全てが静かで美しい。先輩の若い頃の素敵な話を聞いてる感じですが、共感できそうな方は、ぜひどうぞ。
Posted by ブクログ
ストーリー、お仕事、出てくる筆記具やお料理などなど一つ一つが魅力的でした。知らないものが多く検索しながら読み進めて時間がかかりましたが、それも楽しかったです。
終盤は急にスピード感が出てあっという間に読み終わってしまいました。
Posted by ブクログ
四季折々の自然と、人の暮らしと共にある建築設計が、透明感ある静けさをもって描かれていて、とても美しかった…
主人公が強い意思でもって物語を引っ張っていくタイプの小説ではないけれど、彼らを取り巻く北軽井沢の動植物や火山、実直であたたかみのある建築を生み出す所員らの真摯な仕事振り、作中随所に散りばめられている名だたる建築家、芸術家、作曲家らのマスターピースの気配が、小説全体に深みを与え、高原の心地よい風のように、読者の胸を吹きすぎていく
続けて前日譚も読みます
Posted by ブクログ
昔の良質な日本映画を見ているような感じがした
登場人物が頭の中で勝手に、岡田英二、原節子、三国廉太郎、高峰秀子の姿で動くので、とっても楽しかった
Posted by ブクログ
丁寧かつ親密な手紙を読むような多幸感。綴られる文章は的確で、その場に自分が居るように情景が浮かぶ。緩やかな時間の流れと感情の機微を捉えるディテール。建築への愛情、仕事への情熱、寡黙で誠実な師への尊敬、才能への嫉妬、秘めやかな恋。隅々まで繊細な為、読み進めるうちに少々疲れてくるが、清冽ながら密度の濃い読書時間を過ごせた。
Posted by ブクログ
すごく高尚な感じの小説でした。
この作者は建築家なのか⁈ってぐらい建築に詳しい。
専門的な話が多すぎて素人には難しかった。
建築好きな人にはたまらない話だろうと思う。
この作品にはモデルになった建築家がいると見たので
どれぐらい実話に基づいてるのかは見てみたくなった。
Posted by ブクログ
設計事務所で働く人々と、主人公の「夏の家」での思い出。
北浅間の自然の中で、静かな時間が流れる。
美しい文章と美しい物語に、心が洗われました。
心のデトックス効果抜群の小説。
避暑地に行きたくなります。
Posted by ブクログ
夏の間、避暑地の「夏の家」に事務所機能を移転させる建築事務所の人達を主軸に据えた小説。
序盤〜中盤迄は小説のジャンルがよくわからず、情景描写が多い&細かい(建築がテーマなので仕方ないけれど)うえ、物語も平坦なので読み進めるのに苦労しました。
中盤では男女描写が増え、優柔不断男の恋愛モノなのかな?、と勘違いしちょっと辟易してしまうという‥。
しかし、後半から物語の重厚さを感じ始めて気付けば読み終えていた結果に。読んでよかったです。中々深く思いをはせることのない、建築士という人種の在り方を伝えてくれる良き人間ドラマを描いた小説でした。