あらすじ
なぜ、私たちは社会と噛み合わないの?
分かるし、刺さるし、救われる――自由になれる7つの物語。
編集者にダメ出しをされ続ける新人作家、女性専用車両に乗り込んでしまったびっくりするほど老けた四十五歳男性、男たちの意地悪にさらされないために美容整形をしようとする十九歳女性……などなど、なぜか微妙に社会と歯車の噛み合わない人々のもどかしさを、しなやかな筆致とユーモアで軽やかに飛び越えていく短編集。
目次
Come Come Kan!!
渚ホテルで会いましょう
勇者タケルと魔法の国のプリンセス
エルゴと不倫鮨
立っている者は舅でも使え
あしみじおじさん
アパート一階はカフェー
単行本 2022年4月 文藝春秋刊
文庫版 2025年1月 文春文庫刊
この電子書籍は文春文庫版を底本としています。
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Posted by ブクログ
表紙が可愛くて…
短編7編。最初の「Come Come kan!!」を読んだ時に失敗だったかもと思いました。ファンタジーな方向にいってしまったので、それをやられたら何でもありになってしまうと。
なので「勇者タケル~」を好きじゃないです。
やっかいな男がどうなるのかと思ったらファンタジー世界に飛んで改心?してしまって。期待はずれ。
そのほかの5編は面白かったです。「あしみじおじさん」が
好みの話でした。
Posted by ブクログ
新人作家原嶋覚子は新人賞を受賞したがその後執筆に苦戦していた。
打ち合わせで訪れた文藝春秋のサロンで突然話しかけられ、声の主を探すとそれは銅像の菊池寛だった。
不自由のない育ちゆえに「作家は苦労を経験していないといけない」という刷り込みに苦しめられていた覚子だが、彼のアドバイスを聞き、信念に触れ、考え方を変えていく。
(Come Come Kan!!)
毛利は自身が出版した不倫小説「永遠の楽園」のモデルとなった渚ホテルを三年ぶりに訪れた。
久しぶりに来てみると、「永楽」ブームはすっかり落ち着き、客層も子連れがメインに変わっていた。
かつての恋人季見子とは不倫の仲で、このホテルに彼女が宿泊中に姿を消してしまったことが著作のモチーフとなっているが、今回の訪問で何度も別の女性を季見子と見間違えて声をかけてしまう。
そのホテルでかおるとひかるという子どもを連れた臼井という男性と知り合うが妻がその場におらず、毛利は「不倫される側」の物語も書きたいと臼井のことをよりよく知っていくうちに、自分自身の驕りと偏見に気づかされていく。
(渚ホテルで会いましょう)
剛は満員電車の中を進行方向とは逆に、まるで「勇者タケルの伝説」のゲーム画面のように移動していた。
女性専用車に向かうためだ。
本来女性専用車は痴漢に遭うようなか弱い女性のためにあるのに、実際はそんな心配のない女性たちが図々しく占領しているために、本当に使いたい人が使えない。
そんな持論をネットで展開し勇者となった剛はついに女性専用車に乗り込んだが、いつの間にか「勇者タケルの伝説」の世界に飛び込んでしまう。
その世界で厳しい試練に耐える中で真の勇者とはなんたるかを教えられる。
(勇者タケルと魔法の国のプリンセス)
金を持った男が若い女を落とすのにもってこいという評判が高い会員制イタリアン創作鮨店に、外資系企業の部長東条が部下の仁科を連れて訪れた。
他にも2組同じような組み合わせの男女がおり、どの男も店主の協力も得ながら食の蘊蓄を披露して順調に女を口説いていたが、そこに突然赤ん坊を抱いた普段着の女が入ってくる。
卒乳記念にワインを飲みたいと言い、ワインに合うメニューを店主に事細かに指示して作らせていく。
その迫力、知識量、美味しそうに食べる姿を見ているうちに、店内の女性たちにも心境の変化があらわれる。
(エルゴと不倫鮨)
旦那に浮気され、離婚届を残して息子と実家に帰っていた桃のところへ、旦那の父親の恭介がやってきた。
てっきり連れ帰りにきたのかと思いきや、浮気するような息子とは一緒にいたくないからここに住まわせてくれと言う。
恭介はこれまでコーヒーを淹れる以外の家事をしたことがなく、出ていって欲しい桃は家事や育児を押し付け心を痛めながらも冷たく当たるが、恭介の努力する姿を見て、少しずつ家族だと受け入れていく。
(立っている者は舅でも使え)
亜子は整形をしに訪れた美容外科でたまたま児童向け文庫の「アルプスの少女ハイジ」を読み、将来のことに思いを馳せた結果整形を断念する。
その文庫の他の作品も読み、少女小説の主人公のように自分にもスポンサーになってくれるお金持ちがいるのではないか?と考え、お金持ちの家で働かせてもらうために人材派遣会社に登録する。
そのうちに知り合った昌子という女性は野添という教授のもとで児童文学を研究しており、その野添こそが例の文庫を監修し、整形外科に文庫を置いた人物であった。
野添は亜子の存在を知り、恋愛感情など抜きにスポンサーとして支えることを考え始める。
(あしみじおじさん)
1931年、大塚女子アパートメントの1階にカフェが新しくできたのは、菊池寛先生が出資してくれたからだ。
世の中では「女が男なしで暮らすのはおかしい」という風潮があるが、菊池先生は珈琲の味を確かめると快くお金を出してくれた。
そんな菊池先生から出版社に大皿の注文が入り、店員だけでなくアパートの住人や近所の人の助けも得てやっとこさ出前を届けるが、そこにいたのは別の人物だった。
(アパート一階はカフェー)
ファンタジー、史実に基づく時代物、現代が舞台の話など世界観も時代も違う話が次々出てきて楽しかった。
どれも女性の立場からもやっとする題材に切り込んでくれてスッキリする。
どの話も主人公が人と関わる中で価値観を変えていくもので、特に渚ホテル〜と勇者タケル〜はとんでもモンスターを予感した主人公が現代の価値観を受け入れた結果に驚いた。
個人的にはエルゴ〜と、あしみじ〜が特に好きだった。
Posted by ブクログ
「楽できるならそれを恥じずに環境に感謝してどんどん先に行った方がいいし、その分、人を助けたらいいよ。便利で新しいものもためらいなく取り入れる方がいいと思うよ」
私はずっと楽することに罪悪感を感じていました。環境に感謝するという考えは今まで持ったことがありませんでした。目から鱗でした。
ただ楽をするだけでなく、楽してできた時間を人助けで還元する。それなら楽することは罪と思わなくなるのかもしれないと思いました。
私は便利で新しいものを取り入れるのも慎重になり過ぎる傾向がありますが、便利なものはどんどん使っちゃえと思って、躊躇なく取り入れられるようになりたいと思いました。
Posted by ブクログ
久しぶりの柚木先生の作品です。
7つの短編が収録されています。
どの作品も痛快で読み終わったらスッキリしました。
特に今作の中で印象に残ったのが、菊池寛がテーマの作品「Come Come Kan!!」で、文藝春秋社の
1階のカフェスペースにある菊池寛の銅像が喋りだし、行き詰まっている作家の手助けをする作品です。どこか楽観的で、捉えどころのない菊池寛の
ペースに飲まれる主人公なのだが、作家としての
矜持を教えてもらいながら、前に進むストーリーです。
読んでみてスッキリしました。
合理的に物事を考えることも大事だなと改めて実感しました。