あらすじ
元祖“スパルタ教育”の実態に迫る。
格差を感じさせない、理想的な体制だった!?
マキャベリが「最も優れた国制」、ルソーが「安定した社会」だと絶賛。
プラトンが高評価し、ナチスが賛美。
スパルタは、1000におよぶポリスが乱立する古代ギリシアにおいて
軍事大国として君臨し、アテナイ(アテネ)と覇権を争っていた。
なぜ長期間にわたって強国を維持することができたのか。
賛美者が絶えない「理想の社会」の実像とは――。
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Posted by ブクログ
スパルタ。
レオニダス、ペロポネソス同盟盟主、ペロポネソス戦争の勝者、そしてスパルタ教育の語源程度の知識しかなかったが、よりその姿を知れる本書に出会えた。
価値観の共有(ホモノイア)を目指して、30歳まで共同生活を強いて、厳しい肉体鍛錬をすることで、エウノミアと呼ばれる良き秩序を実現する。それはリュクルコスの改革と呼ばれ、アテナイと並ぶ強国になるが、ペロポネソス戦争を契機に没落していく。大きな原因は人口の減少。だが、しぶとくローマ支配下でも生き延びていく。スパルタは中世、近代において大カトーやプルタルコスの高評価からの「幻影」に引っ張られ、不安定な国際関係時代はプロパガンダに、安定期には無視される。非常に波瀾万丈な古代ポリスの姿が感じられた。
Posted by ブクログ
古代ギリシアのスパルタが強国を維持したのは、公教育。
その実態と成り立ち、対外関係での時代の変遷を解き明かし、
スパルタの伝説と幻影についてを語る。
・はじめに スパルタ教育の元祖
第一章 テルモピュライの戦い 第二章 スパルタ人の創造
第三章 エウノミア 第四章 ギリシアの覇者
第五章 リュクルゴス体制のほころび
第六章 スパルタの黄昏 第七章 永遠のスパルタ
・おわりに
・スパルタ関係参考文献リスト
・あとがき
古代ギリシアは戦乱の嵐。
乱立するポリス、ペルシアの侵攻、対峙するアテナイ。
それらに立ち向かうスパルタが強国を維持し、その強さが
語り伝えられたのは、国制と公教育にあった。
リュクルゴスの改革による、支配体制の確立は、
二人の王の共存と長老会、民会、そして5人のエフィロス。
加えて公教育と経済的平等、市民身分の確定にあった。
7歳からの男子の市民に成るための、私よりも公を尊ぶ教育は、
団結心、肉体や精神の鍛練など、30歳までの集団生活で
徹底的に叩き込まれた。女子の立場も他のポリスとは違う。
ペロポネソス戦争でアテナイを降伏させての絶頂。
しかし転落の道を歩むこととなる。
市民数の減少、貧富の差などでの国制に加えて、
反スパルタとの戦争、特にテーバイ。同盟と離反の繰り返し。
ペルシア、マケドニア、そしてローマの侵略。
ついにギリシア全土と共にローマの属州に成る。
その後荒廃したが、現在は地方都市として存続する。
古代スパルタは鎖国的環境であり、残した史料は皆無だが、
前4世紀初頭の理想化での「ラケダイモン人の国制」の記述や
アテナイでの記録や伝承が、クリティアス、プラトンや
アリストテレスに影響を与える。その理想化は幻影。
ローマ人、ルネサンス期、トーマス・モアやルソー、
グローヴァー「レオニダス」、ナポレオン、
ドイツのナショナリズムの勃興、優生思想、ナチス、
冷戦時代の映画や劇画、米軍の推薦図書となった「炎の門」等に
幻影の影響は深く関わってくることになる。
スパルタの歴史や実体に関する本が少なかったので、
この本と出会えたことは実に有難かったです。
関連年表だけでも、如何にこの時代のギリシアの戦乱が
多かったことの凄まじさ。その中で国を守るための手段が
教育になったこと。スパルタ市民の戦闘の強さが伝わり、
その教育からの伝承と幻影が生まれ、後世にまで影響した、と。
テルモピュライの戦いでの全滅に至るスパルタ兵300人と
クセルクセス一世の奮闘が後世へのスパルタのイメージに
繋がっていったのも、なるほど。
加えて、平野耕太「ドリフターズ」4巻のテーバイ神聖隊、
あ~史実なんだなぁと納得しました。よく調べたなぁ。
Posted by ブクログ
日本でスパルタのみを扱った本は2冊しかないらしく、本書は最後に出たスパルタ本の出版から24年後(昨年)に刊行された。
やはり現代日本において、「元祖スパルタ教育」は忌避されやすい対象なのかね。まぁ映画『300(スリーハンドレッド)』(※)でもそうだったけど、最盛期のスパルタさん、教育から国家体制と、生活の全てが凄まじかったからな…。
それで国内の秩序を保てていたのがまた信じられない。
(※)R15+指定。戦闘シーンやら何やらが壮絶なので、その類が苦手な方はお控えになった方が良いかもしれません。
ちなみに私は16歳の頃に友人と鑑賞し、「レオニダス(主人公でスパルタの王)かっけー!!」と2人で唸っていました。
「スパルタ兵は個々でも強靭だが、集団となると世界最強である。なぜなら彼らはあらゆる面で自由ではなく、法(ノモス)という名の主君がいて、[中略]この主君の命ずるままに行動する」(P 40)
男児は将来の兵士として鍛えられ、虚弱あるいは身体障害のある子は山に棄てられた。無事兵士となれば、戦死は「美しい死」とされ、逆に生還した者は村八分にされた。女児は剛健な男子を産むために充分な食事を与えられ、早いうちからスポーツに取り組むことをよしとされた。
男女ともに鋼の肉体を持つ国。そのため「人こそが城壁」と、衰退期まで城壁を造っていなかったという。さすがに度肝を抜かれるわ…!
国家体制もえらく極端だ。
焼き物等スパルタで作られた芸術品はあったものの、基本的に贅沢は禁止。指導者たちの衣類や食事は、一般市民と変わらないものとされたため、経済格差は抑えられていた。王の息子も、長子以外はみな一般市民に混じって、兵士としての教育や訓練を受けていたという。
外交面においては、外国人の追放、市民も渡航など外部との接触を禁止された。
これは鎖国か戦時中か。「欲しがりません 勝つまでは」どころか、国が滅ぶまで欲しがれないシステムになっているよ…
古代ギリシア史と並行してのスパルタ史解説だったので、段々小難しくなっていくわ、カタカナ名の海に溺れるわで、難儀した。そのくせアレクサンドロス大王といった、まだ馴染みのある歴史はサクッと済ませているから、人によったら疲れが出てくるかも。
まぁ私は「スパルタの内情さえ分かればそれで良い」という心持ちだったので、途中から斜め読みでしたがσ^_^;
プライベート(個人)よりも公共(国)を大事にする。そんな国としての在り方が物議を醸してきたスパルタだが、後世になると結構な物好きもいたようだ。
プラトンやアリストテレスに『社会契約論』のルソー。
第一次世界大戦に負けたドイツの若者は、テルモピュライの戦い(前述のレオニダス率いる300人の騎兵隊とアケメネス朝ペルシアの大軍の間で行われた戦争)になぞらえて、敗因を騙し討ちに遭ったからだとする等、勇猛なスパルタ兵士と自分達を重ね合わせていた。
その気運を大いに利用したのが、ヒトラーである。
この先の話も初耳ばかりで、これまた度肝を抜かれていたが、スパルタにはこれからも驚かされ続けると思う。その度に、己の貧弱さを思い知るのか。
Posted by ブクログ
きっかけは、新聞の「読書」のページで取り上げられていたので。
スパルタについて何もしらないので興味深くおもしろかった。後半は出来事と解説が歴史の教科書みたいで眠気がすごかった。
慣れていないのと知識もないせいで、王やポリスや地名などのカタカナの名前が全く頭に入らない。
スパルタは独特な社会(ポリス)で、あまりにも現代社会と違いすぎて、逆にドラマチックに感じた。
テルモピュライの戦いを映画化したり小説に書いたりしたくなる気持ちはよくわかるし、見てみたい。(映画『300』、小説『炎の門: 小説テルモピュライの戦い』)
中学の頃に読んだ小説でアレクサンドロス大王が好きだったので、彼と関わりがあった時代は短いけどおもしろかった。スパルタもアレクサンドロス大王も大昔で記録も少なく、歴史の教科書では記載がわずか。興味深い時代なのにローマよりギリシャと周辺は創作の読み物が少ないので、もっとあれば良いのにと思う。
スパルタが衰退していく様子が、格差の拡大と人口減少と高齢化の日本に重なるようで興味深かった。歴史から学べることは多い気がする。