あらすじ
生まれ故郷が嫌いだと吐き捨てるように言った、一人の若者。その出会いを原点に、沖縄の若者たちをめぐる調査は始まった。暴走族のパシリとなり、建設現場で一緒に働き、キャバクラに行く。建設業や性風俗業、ヤミ仕事で働く若者たちの話を聞き、ときに聞いてもらう。彼らとつき合う10年超の調査から、苛酷な社会の姿が見えてくる──。補論を付した、増補文庫版。
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「なぜもっと普通にこうしないのだろう」という感覚が、やはり自分の中に傲慢に生まれるように感じる。そういうことを再確認することは、自分にとって大事に思う。
その日暮らし的に「しーじゃとうっとぅ(先輩と後輩)」のしがらみの中でどうにかこうにか生きている沖縄のヤンキー上がりの人々。その価値観や感覚をリアルに感じることができる。とはいえ、知った気になってしまうことは何よりも危ない気もする。
「うっとぅとしーじゃと地元」の構造を質的調査から解き明かした、というメタな評価をする自分もありつつ、それで終わってしまうことの傲慢さも感じる。じゃあそのリアルを自分はどう受け取って考え行動するのか、ということを、ほったらかしてはいけないようにも思う。様々な生活史をある種自分の中に住まわせるような、そんな懐の深いというか、空き空間のある自分でいたいなと思う。
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打越正行「ヤンキーと地元」中学くらいのときの先輩後輩の上下関係に一生固定される人生でその狭い人間関係やコミュニティから脱出するには地元を捨てるしかないのか‥札幌みたいに人間関係が淡白な土地で育つと東京でさえもウエットでベタベタしてると感じてうんざりするときあるからこれ当事者たちはほんとうに大変だろな こういうの読むと生活拠点としての地方都市は札幌以外考えられないなとつくづく思う
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沖縄の、男性の若者たちが置かれている状況について、内側から描かれています。
「パシリ」として内部観察者となる筆者の調査は圧倒的で、読みながら、ヒリヒリしました。
若者たちの行動が、言葉が、突き刺さるように読んでいる私に食い込んできて、苦しくなるほどの臨場感がありました。
読み進めるのが苦しくて、けれどその先を見たくて、たどり着いたあとがき、補講、解説を読み、さらに深く、鮮明に、本書の内容が浮かび上がってきました。
暴力、支配、抑圧、その向こう側にある大きな強い力。
社会構造の影響を受けた闇の深さを知るには十分すぎるほどでした。
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本編を読み終わったあとに読む、補論と岸さんの解説がめちゃくちゃ良かった。
「つかえる部外者」ではなく「つかえない内部関係者」であるパシリに本当になり、本書を書き上げた著者に感服。
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抜群の面白さ。改造バイクで走り回っている彼らは何なのか、どうしてそんなことになってるのかと、自分には想像できない世界を余すことなく見せてくれる。風俗店の章は切なかった。十年一昔というし、今はどうなっているんだろうか。
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特定の地域あるいは社会的集団の文化や行動あるいは内部の構造を明らかにするため、潜入、同化、並走して、できるだけナマの姿を取材・記述する。これを参与観察というそうだが、まずもって熱意と胆力がないとできないし、参与の過程で自分自身の本音の価値観や思考様式が色濃く立ってしまうような人には無理だろう。意味のあるコミュニケーションを行うためには、同じ場の空気を呼吸し、黙って隣にいても気にならないくらいの薄い共感が芽生えるくらいに距離を近めないといけないと思う。
というわけで、一般の人には近寄りがたい、暴走族やヤンキーの世界を対象としたエスノグラフィーは、「すげえ」という一般の読者の興味本位を刺激するセンセーショナルな色合いを帯びてしまう。
だが、本作を読むと、覗き見の好奇心を満たされるというようりも、何か、しんとした静謐さを感じてしまう。
閉塞感のただよう地域社会の中で幼い時から環境や周囲の条件に苦しめられた人は、一般の社会とは別に彼らだけの集団をつくり、独自の規範や価値観、そしてヒエラルキーの中で過ごすことを選んでしまうが、当然ながら彼ら彼女らは当たり前の人間であり、幸福を追求したい、という心理においてなんら一般の人と変わるところはない。それなのに、なぜ孤立した集団や組織を形成して閉じこもってしまうのか。
区別や排除を生みだすのは優者必勝の社会原理なのか、個人の資質や能力の分布が広いことに遠因があるのか、とにかく考えられさせる。それが社会学の役割ということであろうか。
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社会学者が自ら暴走族のパシリになって参与観察するという、読まずにはいられない本。
希望が持てないような働き方を強いられている人たちが、日々何を考え、感じて生きているのか、
普通のインタビューでは得られないリアルな現実が刺さった。
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打越正行さん、逢ってみたかった人。
沖縄の若者、特にヤンキーと呼ばれる人達の縦断研究をまとめたもの。
私は社会学や民族誌に対して、失礼じゃないか?上から目線なんじゃないの、安全圏からコミュニティを覗くような行為って何だか偉そうと常々思っている。
思ってはいるが、読んでしまうのである。
やはり自分の知らない世界の人たちが何を考えどうしてその行為をするのか、が気になるから。
打越正行さんの対象への観察の仕方がかなり特異で、打越さん自身が沖縄の若者達のパシリとなって、コミュニティに思い切りダイブして内側から観察する方法である。
誰にでもできる方法ではないし、下手するとコミュニティの関係性に巻き込まれてしまうような気もするのだが、更に打越さんのすごいところが、しっかりと客観視しながらその場にパシリとして居る事である。
沖縄での独特の一度入るとなかなか抜けられない人間関係のシステム、女性への扱い、ごく限られたコミュニティの話かも知れないが、記憶に残る書籍になった。
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暴力団に興味があり、暴力団加入要因における調査で焦点の当てられる非行少年に関係する本だと思って手に取った。沖縄の方言は馴染みがなく、注釈があっても何度も読み返して時間がかかったが、読んでよかった。これだけの労力をかけて手にした著者のリアリティを、私たちがいとも簡単に享受できることに、感謝どころか少々気が引けてしまう。
Posted by ブクログ
沖縄出身ということもあってか、知っている言葉・地名で想像ができる暴力の描写も多く、読み終えるまでにどっと疲れてしまった。
ただ、それだけ読み応えもあったし、また時間をあけて読み直したいと思える本だった。
沖縄の子供の貧困の解像度が上がった気がする。
暴力を伴う上下関係や違法行為が当たり前の世界にたじろいでしまったものの、その世界にいる人たちに同情はしなかった。
彼らの人生における選択肢は少ないが、彼らは彼ら自身でヤンキーのコミュニティに入る選択をして、青春して、仕事をして、家庭を築いて、幸せな生き方をしているという見方もあるはず。部外者が部外者の幸せを押し付ける(同情)のはある意味失礼に当たるんじゃないかと思う。(美化している訳ではない)
とはいえ、貧困はどうにか改善できないものか…
お金の貧困は心の貧困になる
Posted by ブクログ
中学受験して私立中高から有名大学に進学した自分にとって、ヤンキーという存在は遠かった。たまに地元で同じ小学校だった同級生とすれ違うことはあったかもしれないが、とくに人の出入りの激しい都内では人間関係が固定化されるといった状況は認識しづらいものだ。
この本は、その対極にあるような沖縄のローカルな人間関係や先輩後輩の上下関係が40-50代になっても継続する、ヤンキーの地元社会に参与観察した内容となっている。研究者の著者はヤンキーのパシリになることで信頼を得て様々なインタビューを実施しつつ、その日暮らしで表裏一体な稼業を送る若者たちの実像を追っている。
中学で暴走族に入り、10代での結婚・妊娠・離婚はセットであり、賃金上昇の望めない肉体労働に明け暮れ、飲む打つ買うに浪費して借金が膨らむと本土に期間工として出稼ぎに行く。沖縄の若者たちにとって人生の選択肢はあまりにも少なく、顔見知りの衆人環視の下に鬱屈とした毎日を送ることを強いられる。たまに暴力に訴えるが、それにキレてしまうとさらに選択肢は狭まっていく。
それは沖縄という米軍基地の需要が建設業やサービス業に偏った経済において、多重下請けの構造と変化を望まない保守的な価値観から来るのだろう。仕事は人間関係によって融通され、自動車や家といった大きな買い物ですら知り合いから購入するのが当たり前となっている。競争原理はあまり働かないため、最低限の品質のものが納期を守って供給されるだけで喜ばれる。誰かが突出することは好まれない、社会主義のような体制が米軍基地の周辺で起こっているのはアイロニカルである。
Posted by ブクログ
- 社会学を学ぶ著者が「ヤンキー」の文化について書いた本
- 「パシリ」になることでそのコミュニティに入り込む「**参与観察**」を行う
- 内容としてはエッセイに近い。実際のヤンキーたちの半生について記されている
- 著者はしばらく教師として働き「学者」とはなれなかったが、本著がきっかけで大学で教鞭をとる
- しかし、昨年亡くなる。45歳だった。
- 補論がすばらしい「調査者は調査されるために生きているわけではない」「一方的に論文にするのでなく、調査者が異議を自分に唱えられることが『取れない責任の取り方』」との文章は残していきたい。
Posted by ブクログ
生まれ故郷が嫌いだと吐き捨てるように言った、一人の若者。その出会いを原点に、沖縄の若者たちをめぐる調査は始まった。暴走族のパシリとなり、建設現場で一緒に働き、キャバクラに行く。建設業や性風俗業、ヤミ仕事で働く若者たちの話を聞き、ときに聞いてもらう。彼らとつき合う10年超の調査から、苛酷な社会の姿が見えてくる──。補論を付した、増補文庫版。
評論家の三宅香帆さんがおすすめしていて手に取りました。すごい本だった・・・自分が全く接したことも見たこともない世界。同じ日本なんだろうか?と思うくらい、沖縄の(もちろん一部にせよ)独特な空気と慣習。そこに内地から飛び込んでいって、危険も感じただろうに、全力で取材を続けた筆者の胆力に驚嘆した。ただ単に若い頃だけではなく、大人になってどうなったのかを分かる範囲で書いてくれているのも興味深い。ただやはり散り散りになってしまう人も多いし、これからこの世界を変えていくにはどうしたらいいのか、あまりに闇深すぎて分からない。取材の限界も感じた。
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単行本は読んでいないが、文庫本の巻末岸政彦さんの解説を読んで「この本やばい」と思わされた。
著者本人が「自分はすごいことをしている」というナルシズムを微塵も感じさせず、丁寧に具に沖縄のヤンキーたちの生活を描くものだから、読者は「パシリとして参与観察する」ことの凄まじさを感じにくいだろう。
相変わらず歴史には疎いけれど、陸上戦が日本で唯一行われ、米軍基地の負担を一手に背負っている沖縄という場所は、地理的な関係、すなわち日本の最南端に位置する都道府県だからというだけでなく、歴史的に周縁に追いやられてきた地域であり、だからこそ文章の中でも何度も「うちなー」という言葉が頻発する。それだけ、沖縄と本土との違いを沖縄に住む若者は感じているのだろう。そして、本土に住む私がその違いを感じられていないということが、沖縄への責任転嫁をしてきた私たちの許されない暴力を表している。権力がどこにあり、どのように働き、罪の意識のない無垢で愚かなマジョリティを生成しているのか。想像と現実の限界に苦しみながらも考え続けていく必要があると思う。
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まさかの訃報に接し、やっぱり本作くらいは読んでおかないと、ってことで。ちなみに、☆は追悼の意味で1つ追加。ヤンキーに対する気持ちと本ルポへの評価に、どうしても分かちがたい部分を感じてしまったけど、実際問題、ここまで体当たりのノンフって、そうそうお目にかかれないわな。氏がここまで切り込んだからこその発言な訳で、当然、通常のインタビューとは一線を画すものと思われる。”思われる”と書いたのは、通常のインタビューに触れたことがないから。とはいえ、本作中の各言動に、そこまでの意外性を感じないのも確かで、とすると、いわゆる勝手なイメージが当たらずとも遠からず、ってことになる訳で。
Posted by ブクログ
地元という狭い世界で生きるには、
先輩からの理不尽な暴力に耐えて過酷な建設現場で働くか、違法性の高い仕事をして何をしてでも稼ぐか。
彼らには選択肢が少ないのだと知った。
観光地としての沖縄とは全く違う一面を見ることができた。
若者たちのリアルな声を聞くために暴走族のパシリになるという体を張った調査ができることがすごい。本にして届けてくれてありがたいなと思う。
Posted by ブクログ
本書は、パシリという役割を担った調査者が、地元で生きるヤンキーたちと共に生活を送りながら、彼らの生きる地元・沖縄社会とそこで営まれている人間関係を詳細に描いたものである。
パシリと聞くと、雑用とか、利用されているとか、いじめられているとか、そんなイメージが浮かんでくるため、パシリとして調査するなんてそんなことできるのか?と思われる。だが、著者はパシリとしての役割を担うからこそ見えてくる世界があるとして、調査としてのパシリを肯定的に位置付けている。
通常調査は、外部から観察するか、内部で観察するかの2つが考えられる。前者はアンケートが挙げられそうだ。後者はインタビューや参与観察などが挙げられるだろう。だが、著者は観察するのではなく内部にいながら当事者になっているのだ。そうすることで、観察するのではわからない世界を描き出すことに成功している。ただし、当事者になることの問題についても念頭においた上で、独自の調査のあり方を生み出している。
このように文字通りこれまでにない調査方法によって生み出された本書は、沖縄のヤンキーという内地に住む我々では接することがないような者たちについて伝えてくれる。そして彼らが、どのように暮らし、そこで人間関係を構築し、何を考え行動しているのかを詳細に伝える。さらに、ヤンキーたちとの関わりを記述することで、彼らの住む地元とは何か、沖縄とは何かを教える。
自分の知らない人たちを知るヒントを得るためでもいいし、沖縄を知るためでもいいし、これから調査を行うためでもいいし、ノンフィクションに興味があるためでもいい。どんな理由でも、一度は読んでみる価値があるだろう。
Posted by ブクログ
社会学で「参与観察」という、その組織に入り込みメンバーの話が書かれた内容で、初めて読むジャンル。
沖縄のヤンキー集団にパシリとして参与した著者の生々しい調査はすごい。
貧困や地元仲間の上下関係が世界の全てである彼らの話は、短絡的だったり真理だったりする。
キツイ方言や個人特有な言い回しが時に読みにくいのも新鮮。
Posted by ブクログ
しーじゃとの絶対の関係性、暴力、地元の情報網が
いかに作用してるかが克明に記されていて面白かった
救いの少ないがんじがらめの彼らの生活に触れ気分が落ち込むところも多々あった