あらすじ
新人俳優の音彦(おとひこ)に、大手映画会社から出演依頼が舞い込んだ。相手役は天才俳優と名高い飛滝(ひたき)。けれど、出演条件は飛滝と同居すること!? 映画の設定通り、兄弟として暮らし始めたとたん、“兄”として必要以上に甘やかし、触れてくる飛滝。毎夜“弟”を抱きしめて眠る飛滝に、音彦は不安を募らせる。そしてついに、兄弟の一線を越える夜が訪れて!? バックステージ・セクシャルLOVE。
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Posted by ブクログ
▼あらすじ
新人俳優の音彦に、大手映画会社から出演依頼が舞い込んだ。
相手役は天才俳優と名高い飛滝。
けれど、出演条件は飛滝と同居すること!?
映画の設定通り、兄弟として暮らし始めたとたん、“兄”として必要以上に甘やかし、触れてくる飛滝。
毎夜“弟”を抱きしめて眠る飛滝に、音彦は不安を募らせる。
そしてついに、兄弟の一線を越える夜が訪れて!?
バックステージ・セクシャルLOVE。
***
ストーリーの完全度:非常に高い
トーン:せつない
エロ度:普通
萌え度:非常に高い
総合評価:★5.0
『顔のない男』シリーズ、第一巻。
ちる○るで剛しいら先生の作品を調べると生前数多くの作品を残した事が分かるのですが、その中でもダントツで評価が高いのがこの作品です。
あらすじを読んだ時に絶対にハマる、という予感があったので3巻まとめ買いしました。
結果、私の予感は間違ってなかったです。
夜中に読み始めたのですが、もう面白くて面白くて、夜が明けるのも構わず一気読みしてしまいました。
CPは天才俳優《飛滝惣三郎》×新人俳優《篁音彦》。
音彦は俳優と言えど過去に出演した作品はどれもパッとしないチョイ役ばかり…よくある顔とスタイルだけが取り柄の、特にこれといった個性のない若手俳優です。
そんな俳優として伸び悩む彼の元に、幸運にも大物映画監督である《桐生尚史》から映画の出演依頼が舞い込みます。
桐生は国内では有名なヒットメーカーで、知名度を上げたい音彦にとってはまさに願ってもないビッグチャンス。
桐生に呼び出された音彦は映画の原作本を渡され、主人公の弟役を任されるのですが、肝心な主役についてはその場でははぐらかされてしまいます。
その後、二人は桐生の案内で近くにある人気のラーメン屋で昼食を取るのですが…。なんと、そこでラーメンを作っていた無愛想な男こそが今回の映画の主役、飛滝惣三郎だと桐生は明かします。
俳優であるはずの飛滝が何故、ラーメン屋にいるのか。その理由は最後に本人の口から明かされるのですが、飛滝はどんな役でも完璧になりきってしまう天才です。殺人犯を演じたら本気で相手を殺しそうになるし、ラーメン屋を演じたら本物のラーメン屋にだってなってしまう。まさに究極の憑依型俳優、それが飛滝惣三郎という男なのです。
この二人は兄弟という役になりきって共同生活をする事になるんですが、桐生の指示で、最初は音彦が一人で生活を始めます。それから何の音沙汰も無く一週間が過ぎ――突然、何の前触れもなく飛滝が“兄”として帰って来たところから二人の奇妙な共同生活(お芝居)がスタートするのです。
突然始まった共同生活に慣れず困惑気味の音彦を他所に飛滝は弟を盲愛する兄に身も心も完璧になりきります。
飛滝は割と早い段階で音彦に性的な悪戯を仕掛けてくるのですが…彼の言葉や行動はどこからが演技でどこまでが本心なのか分からないんですよね。
そんな飛滝に最初は困惑しながらも、彼に優しくされ、愛される内に次第に惹かれていく音彦の心理描写が丁寧に描かれていて良かったです。
とにかく飛滝はタイトル通りの男で何を考えてるのかもさっぱり分からないのですが、二人がついに一線を超え、縁日で掬った金魚を放置して死なせてしまった辺りから、少しずつ飛滝の素が見え隠れし始めたような気がします。(飛滝が金魚を埋めてくるといって一日帰らなかった展開はほんとナイスと思いましたね笑)
兄弟として親密過ぎる関係を続けていた二人ですが、終わりは突然やってきます。
撮影が始まり、二人はぶっつけ本番で演技をする事になるのですが、一つ意外だったのが桐生の飛滝に対する執着心の強さ。スタッフを酷使して常軌を逸した撮影を続け、飛滝を心身共にボロボロにしていくので、最後飛滝はどうなってしまうのかとハラハラしてしまいました。
同時に、芝居が終わった後の二人がどのような関係性に落ち着くのか、気になったのもまた事実で。
そうしたら、思ってたよりもずっと素敵な終わり方で、心の中で拍手喝采でした!とにかく最後の方は音彦が情熱的で、弾丸のように喋る音彦に対してぼんやりと受け答えする飛滝の温度差とかも新鮮だったし、そんな中でも飛滝が初めて音彦の名前を呼ぶシーンはこちらまで感動してしまいました。
飛滝は一度役に入り込むと戻るのが大変らしいのですが、これからは音彦が傍にいてくれるから安心ですね。
次巻はまた違った顔の飛滝が見られるらしいので、これから読むのが非常に楽しみです。また一つ、お気に入りのシリーズが増えそうな予感…♫
Posted by ブクログ
まだまだ売れない俳優であった篁音彦の元に、大手映画会社から出演依頼が舞い込んだ。
半ば、現実感のないまま、指定された場所に赴くとそこには有名な映画監督である桐生がいて、何の説明もなくラーメン屋に連れて行かれる。
そこで働いていたのは、かの有名な俳優である「飛滝惣三郎」だった。
飛滝は、一年前に桐生の作品に出てから姿を消し、それ以降どこにも姿を見せてなかった。
そんな飛滝がラーメン屋になりきっている姿を見せた桐生は、突然、今日から飛滝と共に「兄弟」として生活するように言い渡される。
当然、俳優とはいえ、ほとんど仕事のない音彦には選択権はない。
桐生に用意された一室で、飛滝と二人っきりの行き過ぎた「兄弟」としての生活が始まってしまう。
当初は、24時間演技するなんてとんでもない、と思っていた音彦だったけれど、徐々に飛滝の演技に引きずられていってしまう。
しかし、ある日、演技としての一線を越えてしまった飛滝が音彦を抱いたことで、二人のバランスが崩れてしまう……
という話でした。
飛滝は、役になりきることでしか、自分を表現することのできない男で、音彦はまだまだ駆け出しの俳優。
そんな飛滝に、「兄」として真綿でくるまれるように優しくされることで、徐々に音彦は飛滝に引かれていく。
そしてまた、飛滝も音彦との偽者の日常の中で、演技にほころびを生じさせていく……という感じ物語は進んでいきます。
音彦は、当然、「兄」を演じる飛滝ではなく、本当の飛滝を得たいと望むようになるけれど、そこは音彦も演技者の端くれ。いきなり告白して、映画のすべてを台無しにしてしまうことでなく、飛滝がすべてを演じきってからの素顔の飛滝を手に入れることを選ぶ……。
けれど、飛滝の演技者としての魅力に執着する桐生は、映画の撮影を通じて、飛滝を壊そうとしているようにしか思えなくて、音彦はすべてを演じきった後の飛滝を、無事に「飛滝」へと戻すことができるのか……という話でした。
なんとなく、読んでいて「演じる」ということに対する業の深さを感じさせられる作品でした。
もちろん、私は演じる人でも何でもないので、本当にこんなことがありえるのかどうかなんてわからないんですけど、自分とそうじゃないものの境界線って実はとっても曖昧なんだろうな……って思ってしまいました。
全体的に閉塞感があって、役柄上とはいえ、「近親相姦」的な禁忌の匂いも漂っていてとても淫靡な作品だな……と思いました。
静かでねっとりとした作品が好きな人にはオススメできると思います。