【感想・ネタバレ】楽園の楽園のレビュー

あらすじ

伊坂幸太郎デビュー25周年記念書き下ろし作品。
これはディストピア小説か? ユートピア小説か?

所在不明の人工知能〈天軸〉の暴走で、世界が混乱に陥る近未来。
開発者が遺した絵画〈楽園〉を手掛かりに
五十九彦(ごじゅくひこ)、三瑚嬢(さんごじょう)、蝶八隗(ちょうはっかい)の選ばれし3人は、
〈天軸〉の在処を探す旅に出る――。

書き下ろしの短編小説を、気鋭のアーティスト、井出静佳の
装画・挿絵とともに味わう「伊坂幸太郎史上最も美しい1冊」。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

立て続けに起こる大規模事故や天災。
それらは「天災及び事故、犯罪の予見と予防に関する基軸」なるアルゴリズムを基にした、略称『天軸』と呼ばれる人工知能の暴走が原因と考えられた。
五十九彦(ごじゅくひこ)、三瑚嬢(さんごじょう)、蝶八隗(ちょうはっかい)の3人は、その開発者の所在を探す旅に出た。

と、ここまで読んで、伊坂さん、『西遊記』が好きだなあって思った。
『SOSの猿』でも『西遊記』をモチーフに使ったし、今回は天竺の開発者が三蔵法師?いや、釈迦如来?

ところが話はもっと大きなものだったのだ。
少なくともお釈迦様の手のひらよりも。多分。
その仕組みの説明を読んで、伊坂幸太郎のデビュー作『オーデュポンの祈り』を思い出す。
案山子の優午。
実際、作中でも優午のことに触れられていたし。

作家デビュー25年の記念作品なのだそうだ。
だから、デビューからぶれていない伊坂幸太郎のテーマが前面に出ているのか。

とはいえこれは、あんまり万人向けではない。
私は、この世の世界の中のヒトという存在について、彼と近しい考え方をしているので「そうだよね」と思いながら読んだけど、「はあ?何言ってるの?」って思う人も一定数いそう。

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2025年10月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「西遊記」を彷彿とさせる登場人物の名前、そしてストーリー。コロナ禍や震災、台頭し始めているAIなど、現実の出来事を盛り込んで編まれたおとぎ話と言ったところか。
 おとぎ話らしく、挿絵が載っているのが洒落ていて、まさに「大人の絵本」といった雰囲気のあるのが良い。絵のタッチも好きだ。

<先生>って三蔵法師のことかなぁ、などと呑気に構えていたら、ガツンと頭を強く殴られたような衝撃のラストが待っていた。
 伊坂幸太郎作品ならではの機知に富んだ会話と巧妙な伏線が存分に味わえる。衝撃のラストにて、伏線がバッチリ決まるのが快感且つ恐ろしかった。そういう帰結か、と⋯

 自然がネットワークを構築しているという内容に、映画「アバター」に登場する惑星パンドラのことを思い出した。確かに、人間だけが自然のネットワークから外れているよなと思う。例えば、地震の起きる前に普段大人しい犬が激しく吠えたり、鳥が一斉に飛び立ち大移動したりと、地震を感じ取っているかのような行動を取るという話があるが、人間にはそんな察知が出来ず、地震予知についての研究に四苦八苦している。ダーウィンによれば人間も自然界の進化の過程で生まれてきたはずの生き物なのに。不思議だ。

 本来、おとぎ話とはブラックな側面を持っているものだと聞いたことがある。それを踏まえると、本作は本道のおとぎ話と言えそうである。現実に、自然から見限られても仕方が無い気はする。滅びの時の瞬間に「ま、いっか」と思うしかないのかもしれないな⋯

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2025年10月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ


何だ、この本!何なんだ、この発想!!何!何!

五十九彦、三瑚嬢、蝶八隗の三人は、人工知能「天軸」の開発者である先生を探すという任務のもと、楽園を目指す。

【NI:ネイチャーインテリジェンス】
"インターネットが人間の集合知を活用するのと同じく、植物や動物が、私が気づかない方法で繋がり合い、さまざまなやり取りを交わし、大きな知能となっていても不思議じゃありません。
この森で、自然の植物や生き物が組み合わさって、ネットワークを作り、巨大な知能となっているんです。その知能が目的を達成するために、植物や生き物に指示を出していたんですよ。地球の生きとし生けるもの、すべての集合知。"

"大規模停電、強毒性ウイルスの蔓延、大地震の頻発、放射線漏れ、航空機の墜落、そういった世界の状況は、NIが侵入したウイルスを撃退するためにさまざまな指示を出して、免疫機構が働いた結果だったのでは?天変地異は全部、ヒト以外の力で起こせるんだ。人間の体内にウイルスが侵入した時に、高熱が出たり、倦怠感が出たりしてボロボロの状態になるように。"

"終わるのは、ヒトの世界だよ。ヒト以外にとっての世界は終わらない。わたしたちヒトが、ヒトが世界のすべてだと思い込んでいるだけ。"


この世界の中で、植物も動物も、自然でさえも、人間がコントロールできるという幻想を抱いていた。でも、自然が人間をコントロールしている可能性だってあるんだ。キャベツが蜂の好きな匂いを出して蜂を呼び、アオムシを退治するように。人間の大好物であるストーリーを使って。オナモミの実は、実は自然が人間を監視するためのGPS装置なのかもしれない。自然にも、意思があるのか!?伊坂さんの突飛な発想に度肝を抜かれた。ぞくぞくした。面白い!!

それと、半月板を半分取り除いたら4分の1月板になるという冗談が面白かった。

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2025年10月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ



挿絵付きの小説で珍しいと思っていましたが、挿絵も含めてとても楽しめる作品でした。

最近良くあるAIの暴走の物語と思いきや、自然全体がそうしていた、と言うのはとても面白い発想だと思いました。
ヒトでいうウィルスと自然でのヒトは同じだから排除する作用が働いている、あるかもしれないと思える物語とすごく読みやすい文章で短い物語でしたが読んでいて楽しかったです。

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2025年12月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

人はどんなものにもストーリーがあると思い込む。

装丁が綺麗で、思わず手に取ってしまった本。
緑に輝く動物たちを描いたその美しい表紙の先には、短い物語が紡がれている。
最遊記の登場人物にも似たこの物語の登場人物たちは、”先生”を探し求め冒険をする。

行き着く結末は、少し寂しいものに感じた。
『オーデュボンの祈り』を思い出させるこの結末は、少し懐かしく感じた。


P24:「気に入らない相手だとしても、憎んではいけない。厄介な相手も、敵とは限らない」

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2025年11月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

数々の大災害が人類を襲いその原因は人工知能「天軸」の暴走とされ、五十九彦、三瑚嬢、蝶八隗の選ばれし3人は天軸の開発者「先生」が残した絵画「楽園」を手掛かりに天軸を探す旅に出る。巨大樹の麓に残された天軸には先生からのメッセージが残されていた。人類を追い詰めた大災害の原因がAIの暴走ではなく、自然知能(Nature Intelligence(NI))が地球にとっての脅威である人類を排除し始めたことによるものだった。意図せずNIを再稼働させてしまった3人は人類の滅亡を予期しつつ大きな嵐に身動きがとれなくなっていく。

西遊記を思わせる人物設定の大人のための童話。100ページほどの短い物語だが、とぼけた3人の登場人物ののんきな会話から人類滅亡という唐突なバッドエンドにゾッとする。人工知能(AI)があるように、自然が連携し自然知能(NI)を生み出し人類を排除するという発想が面白かった。星新一っぽい。思わず手に取りたくなる美しい装丁も見どころ。伊坂幸太郎の登場人物っぽい、なんともトボけた会話を交わす3人組も楽しかった。

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2025年11月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

104頁というこの短さで、よくもここまで内容を詰め込められたなぁと圧巻の作品。
挿絵も入っているので、ザ・大人の絵本という感じで、読みやすい作品です!

「わたしたちの脳は、ストーリーを求めている。」

この部分を読んで、先日読んだ「イン・ザ・メガチャーチ」を思い出した。
やっぱり、人間は物語に縋り、物語に翻弄され続けるのは、脳の仕組みからして仕方のないことなんだなぁと思った。
改めて、物語との付き合い方を考えてくれる作品になりました!

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2025年10月29日

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