【感想・ネタバレ】第一次世界大戦史 諷刺画とともに見る指導者たちのレビュー

あらすじ

1914年に勃発した戦争は、当初の予測を裏切り、4年以上に及ぶ最初の世界大戦となった。
その渦中で、皇帝や政治家、軍人などの指導者は、どのような選択と行動をし、それは戦況にいかなる影響をもたらしたのか?

本書は重要人物や戦場を描いた100点近くの諷刺画を織り交ぜ、当時の状況を再現しながら、戦いの軌跡をたどる。
そして、複雑な背景を持つ第一次世界大戦を多面的に読み解き、実態をここに描き出す。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

1914年に勃発した第一次世界大戦。
ヨーロッパの戦線だけでなく、アジアや中東での戦いの話もあり、戦争の流れや各国の指導者、軍人たちの動きが分かりやすい。戦争は誰もコントロール出来ない。怖い。

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2025年09月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

本書は、大戦の勃発から終戦に至る一連の歴史経緯を、基本的に時系列の中で主要な出来事をおさえている網羅的な歴史解説本です。

飯倉さんの歴史(戦史)本は、その文体には劇的な点が少ないので読んでいてスリリングな経験はあまり望めないかもしれません。しかしその著作の素晴らしさは、経過を淡々と記している一方で重要な局面での内幕や、歴史家たちの様々な意見にもしっかり触れられている点だと思います。
例えば、開戦の要因としてよく言われるのは同盟・協商間対立ですが、

「しかし、各国は同盟・協商に完全に拘束されてはおらず、独自の外交の余地もあったので、この関係性がそのまま第一次世界大戦を引き起こしたとみるのは早計だ。」

と指摘しています。実際に、三国干渉ではドイツ、フランス、ロシアが協力して日本の中国利権に対する介入を行っており、これを裏付けているように思います。

また、凶弾に倒れたオーストリアのフェルディナンド大公について、

「むしろ、彼はセルビア人を含むスラヴ民族に融和的で、帝国内のスラヴ人地域により多くの自治権を与えようとしていた。(これまでオーストリアで対セルビア強硬策が取りざたされた時、常に「待った」をかけてきたのはフェルディナンド大公であった。)
しかし、そのような考えこそ、民族の支配地域を拡大したうえで統一を図ろうと考える人々にとっては脅威であった。
・・・
歴史家クリストファー・クラークはこう指摘している。テロ活動の論理からすると、明白な敵や強硬派よりも、このような改革派や穏健派のほうが恐れられるのである、と。」

これはとても示唆に富んだ指摘だと思います。実際にフェルディナンド大公はオーストリア=ハンガリー二重帝国において、ドイツ人、ハンガリー人に加えてスラヴ人も加えた三頭政治を模索していたという説あります。これが実現した場合、スラヴ人に「それなりに大きな飴」が与えられるわけで、これによって民族活動が萎えてしまう可能性がある。過激派がこれを危惧するのは当然でしょう。
(ただ一方で帝国内の責任閣僚たちにとって、この案は受け入れがたいものだったでしょう。その意味で大公の暗殺で安堵した人間は多かったのではないでしょうか。)

また1916年のヴェルダンの戦いでは、これを主唱した時のドイツ参謀総長 ファルケンハインはフランス軍兵力の消耗を期してこれを実行したというのが一般的に言われる説ですが、一方で、

「軍事史家のストローンによれば、ファルケンハインは、三月半ばまではヴェルダン戦の目的を述べる際に消耗戦という言葉を繰り返し用いてはいない、という。つまり、彼はヴェルダン戦で突破に失敗したことを正当化するため、消耗戦が目的であるとした可能性もあるのだ。」

と別の視点も紹介してくれています。実際にドイツにとってフランス軍の消耗を正確に把握するのは不可能である一方、自軍の損害は正確に把握しえます。ドイツの損害は三月末でも8万人以上に達しており、自軍の損害だけ見ても動揺を禁じ得ない数字です。そうなると目に見える戦果は要塞の陥落ということになります。作戦を指示する将領がこれを求めないというのは心理的に難しいでしょう。

それ以外にも、大戦勃発の重要な契機となったロシアによる総動員についても、フランスが暗にこれを後押ししたのではないかという推察が述べられています。

「露仏両国の駐在大使が、ともに反ドイツのタカ派であったことも災いした。駐露フランス大使は、フランス首脳が帰途にある間、ロシア政府にロシアの動員をフランスは支持すると伝えていたと推察される。」

これも鋭い指摘だと思います。個人的にも当時の駐露大使であったパレオログがロシアに白地小切手を渡したことで、ロシアが総動員という過激な前軍事行動に舵を切った可能性が高いと思います(そうなると、一般的に大戦の一方的被害者と考えられていたフランスが、大戦の契機に重要な役割を演じたことになります)。

その他にも「当初部分動員のみを想定していたロシアがなぜ、総動員へと舵を切ったのか」、「非力な宰相とイメージされやすいベートマンの努力」など、一般的には知られていない歴史事実や、著者の鋭い指摘が本書にはふんだんに盛り込まれています。
一般的な大戦史を読んだ上で本書を参考にすると、一気に視野が広がることでしょう。
おすすめの一冊です。

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2019年05月19日

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