【感想・ネタバレ】物価を考える デフレの謎、インフレの謎のレビュー

あらすじ

なぜ日本だけデフレは慢性化したのか? なぜ慢性デフレは突然終わり、インフレが始まったのか? 異次元緩和はなぜ失敗したのか? そもそもインフレやデフレはなぜ「悪」なのか?

・日本の慢性デフレは現代経済学の大きな謎
・デフレとインフレの統一理論とは?
・カギを握る人びとのインフレ予想
・従来の経済学の常識が成り立たなくなった
・腕力から便乗へ。植田・日銀で大きく変化した政策手法
・日銀の政策金利は、2027年末には2%を超えるところに到達すると予測される
・日銀は人びとが望むだけマネーを供給すべき

多くの謎に包まれた日本のデフレとインフレ。従来の経済学の常識を超え、大胆な仮説で日本経済の謎を読み解く。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

まとめメモ

自分が生きてきた間、日本はずっと物価も賃金も据え置きの「慢性デフレ」状態にあった。

日本人はこの環境に慣れ、「価格を据え置くこと」が常識になり、値上げがあると批判が起こる社会になっていた。

しかしコロナや戦争といった外的ショックによって、人々の意識が少しずつ変化し、「物価が上がるのは仕方ない」という認識が広まりつつある。

この変化を契機に、物価・賃金・金利の正常化が進めば、適度なインフレ=健全な経済成長へとつながる。

政府や日銀の政策だけではなく、「物価の正常化」を支えるのは消費者自身であり、社会全体が自意識をもつことが重要。

経済を動かすのは数値ではなく、人々の「予想」や「ノルム(社会的規範)」である。日本では自粛や同調圧力が、無意識のうちに価格を抑える方向に働いてきた。

インフレ率2%の目標とは、単に物価を上げることではなく、努力や生産性の差といった「良いバラツキ」を認め、社会全体の活力を取り戻すための設定である。

異次元緩和の失敗を教訓に、政府は賃上げ政策を、日銀は金利政策を、それぞれマネーの量ではなく質に注目して設計する必要がある。

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2025年10月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

物価賃金の据え置きは1990年代後半から始まった。
消費者の信念=物の値段は上がらない、と、円高で日本の給料は高い、が悪循環の始まり。コンフリクトインフレーションの逆。喧嘩両成敗の考え方。
一過性の輸入物価の値上がりが向上的な物価上昇に繋がらなかった。
低賃金の中国に対抗するには、賃金を据え置くべき、労組は賃上げを要求せず、物価も上昇せず、というスパイラルに入った。

パンデミック以前は、サービス経済化が進んでいた。パンデミックでサービスの購入が控えられた。その結果、サービスが過剰でモノが不足する状態。
サプライチェーンの混乱で、脱グローバル化が進展。インフレの要因となる。
しかし、1970年代のインフレの経験から、インフレが猛威を振るうことにはならなかった。その結果、ペインレスディスインフレが可能になった。

日経ナウキャストで物価動向をリアルタイムで見られる。
2022年春に、消費者のインフレ予測が急上昇した。実際に値段が上がり始めた。パンデミックや戦争で、需給に変化が起きる予測ができて、仕方ないと理解した。米欧のインフレ、円安による原油高、など。
その結果、春闘での賃上げ要求につながり、企業も政府の後押しもあって、応じざるを得ないことになった。

早川仮説では、1997年頃に労使の密約があったのではないか、と推察している。雇用を守り賃上げしない。トヨタショックでベアゼロ回答を行った。

最近の賃上げは、物価上昇分だけでなく、賃金水準も国際基準に追いつかなければならないという方向性と、人手不足によるもの。女性と高齢者の労働供給で、ルイスの転換点に来ている、という説。
植田総裁の物価と賃金の上昇まで金融緩和を続けるという発言と、最低賃金の1500円引き上げの方針。

総需要管理から総供給管理への転換。独禁法の適用の緩和によって、供給を増やすことができる。下請法の改正も、供給価格のコントロールの手段となる。
日銀は、僥倖を待っていただけ。ディスインフレの機械的アプローチ=何もせずに待てば自然と不況が来てインフレが収まる。バブルの逆を望んでも、バブルになるのではないか。
国債規模の正常化が始まったが、マネーストック(日銀の当座預金)は簡単には減少させられない。
ケインズ以前の古典派では、価格と賃金は瞬時に改定されるもの、との前提があった。

失業率が増減してもインフレ率は変わらない=フィリップス曲線によると、失業率げ減少すればインフレ率は上がる。日本の停滞期は、失業率が減少して需要はあったのに、インフレにはならなかった。慢性デフレを需要不足だけでは説明できないのではないか。

こんかいのグローバルインフレは、価格だけが上昇し、賃金上昇はそれに追いつくだけで、両方のスパイラルではない。
日本のデフレは、賃金が主役だったのではないか。
インフレ予測は、人生経験二左右される。利用可能性ヒューリスティック。

日本は自発的ロックダウンがおきたが、アメリカは法的拘束をしたにもかかわらず、行動は変容しなかった。
自発的ロックダウンの構造は、停滞期の賃上げ値上げ自粛と同じではないか。

シムズ理論=デフレには積極財政が有効。FTPL=物価水準の財政理論。日本人には、賃金上昇や減税は、いずれ不景気や増税で自分に返ってくる、というリカーディアンが多い。日本は財政改善を気にせず、金融政策は受動的にして、財政支配にしたほうが、リカーディアンを納得させやすい。
異次元緩和では、企業を先に潤すことが最初の起点だが、シムズ理論では家計にお金を回して消費を換気することが起点。
パンデミックで起きたことと同じ。家計にお金を配る。
FTPLは、最近のインフレの説明に有効か。

デノミとインフレは双子。一律10%値上げした価格にデノミすることとインフレは同じ効果がある。
インフレが進むと、価格のばらつきが拡大する。価格は硬直性があるため、一斉に値上げにはならない。
目標を0%ではなく2%にしているのは、価格の下方硬直性に対処するためと、ゼロ金利下限があるため。

慢性デフレから脱却してみると、いろいろ悪いところが見えてくる。物価が安定して過ごしやすい国だったが、価格に良いばらつきが生じる余地がないため、よりよいものを高く売ろうという発想がなくなる。

マネーは中立的=マネーが増加しても物価が上がるだけで、景気には影響しないはず。しかしデフレ脱却でマネーが増加すれば、景気にも変動が起きるのではないか。マネーの潤滑油効果=お金が手に入ると財布の紐は少しは緩む。価格が動く可能性が出てきたので、非価格競争ができるようになった。需要曲線の屈曲からくる価格支配力が喪失した。

デフレは、良い製品を高く売るという攻めの戦略ができないので、コストカットが主体となる=他の企業の売上減につながる。グリーンスパンはこのことに気づいていた。

異次元緩和は、マネーの供給で市場金利が下がる、総需要が増えれば物価は上がる、の2点で経路を読み違えた。

マイナス金利政策は、パンドラの箱を開けたと言われる。しかし預金金利がマイナスにならなかったことで、効果は今ひとつだった。

金利とマネーの量はコインの裏表、とすると金利引き上げ+金融緩和は成り立たないのではないか。大量のマネーストックがある中でも金利を上げる。
金融政策のトリレンマ=マネーの金利をゼロにしたままえ市場金利を動かすことはできない=ということは、マネーの量は自動的に決まる。フリードマンルール。マネーの量と同じように、マネーストックの量も制限はない。

パンデミックには、5類移行といううまい措置があったが、デフレにはそれはなかった。しかし慢性デフレのときの自粛は、パンデミックのときの自粛と似ている。

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2025年02月17日

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