【感想・ネタバレ】調査する人生のレビュー

あらすじ

長い年月をかけて対象となる社会に深く入り込み,そこで暮らす人びとの人生や生活を描くフィールドワーカーたちは,自分たちの人生もまた調査に費やしている.生活史調査で知られる著者が,打越正行,齋藤直子,丸山里美,石岡丈昇,上間陽子,朴沙羅の卓越した6人のフィールドワーカーたちと「調査する人生」を語り合う.

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Posted by ブクログ

 対談集。聞き手は岸政彦。相手は打越正行、齋藤直子、丸山里美、石岡丈昇、上間陽子、朴沙羅。共通している問いは、著者たちが行なっているのは調査なのか、それとも調査以外の要素(支援など)がある行為なのか、単一や少数の事例に普遍性はあるのか、人生を書くことはできるのか。それぞれの論者なりの考えが語られていくが、当然意見は皆異なる。異なってはいるが、共通していることもある。それは、書名通りに、調査のためというよりも人生を営む場として、各々のフィールドにいるということ。

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2025年09月23日

Posted by ブクログ

勝手にラブ&リスペクトの岸さん。
数年前に『断片的なものの社会学』を読んでヒンヒン泣いて、完全に心を奪われた。
以降この本は折を見て知人友人に配り歩いている。

わたし自身、社会学に馴染みがあるわけではないから読んでいてよくわからない部分もいまだに多いのだけれど、それでも岸さんへの飽くなき興味から著書を片っ端から読み続けている(『所有とは何か-ヒト・社会・資本主義の根源』だけ難し過ぎて頓挫してしまった)。
『東京の生活史』刊行記念トークイベントでは直接お会いして少し会話させていただくことも叶い、話す内容も顔もフォルムも声も何もかもが素敵過ぎてズキューンってなったその思い出を今もずっと大切にしている。

そんな岸さんの最新作である『調査する人生』は、長年にわたって岸さんと親交のある社会学者の方々との対談を収めたものである。

打越正行さん『ヤンキーと地元』
齋藤直子さん『結婚差別の社会学』
丸山里美さん『女性ホームレスとして生きる』
石岡丈昇さん『ローカルボクサーと貧困世界』
上間陽子さん『裸足で逃げる』
朴沙羅さん『家(チペ)の歴史を書く』

岸さんのあれこれを通じて全員お名前は知っていたけれど、著書を読んだことがあるのは丸山さんと上間さん(『海をあげる』)だけ。
対談を読んだらみなさんの気合いというか覚悟というか、それぞれが背負い立つものへの強い想いをひしひしと感じて、尊敬の念を抱いた。
まずは以前から気になっていた上間さんの『裸足で逃げる』を読んだ。
感想は別で書いた。本当にすごい本だった。

『調査する人生』の帯には、「人生をかけて、相手の人生を聞く」と書いてある。
本当にその通りのことをしていると感じた。
社会学ガチ勢。
本当にかっこいい。

上間さん以外の方々の著書も、また、対談の中で何度か言及されていた『ハマータウンの野郎ども』も、いつか読んでみたいと思う。

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2025年09月08日

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フィールドワークを行っている社会学者との対談集。聞き取り調査をやってる社会学者への聞き取り調査。学者の机上の空論、とは彼らに対しては誰も言えないと思う。印象的なのは対話相手の学者がほぼ全員、社会の矛盾に強く腹を立てているのに自分自身には自信がなさそうなこと。これは岸さんご本人も同じ。謙虚というのとも違う。自己肯定感のない研究者が何人もいることにちょっとびっくりするな。

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2025年06月15日

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ネタバレ

岸先生が6人の社会学者に「質的調査」をしている。それを傍らで聞きながら読み手が社会学あるいはその研究者を一般化・代表化する、という感じで、なるほどなといろいろ納得できる話が多かった。
というのも、20~30人の声を拾ってそれが学問になるというのがちょっと胡散臭い(ごめんなさい)と疑っていたので。しっかりとした社会学の理論や先行研究を勉強して押さえていけば、そこから普遍性や社会の構造的な問題点が見えてくるということかな?
対談を読んでいると、つくづく社会や他者に対する自分の解像度が粗いと感じる。ある行為がそれをした人の意志に還元されるものではない、もっと偶発的に決まっているものなのだから、他者が自己責任論を振りかざしてはいけない(p.132)とか、社会学は自由な個人ではなく制約だらけの個人をみる、その制約を受けながら人は自分の人生を作り直そうとしているのだ(pp.179-180)とか、ちょっと泣きそうになるくらい人へのまなざしが優しい人の言葉だなあと思った。
まだまだ誤読している部分も多いと思うので、再読して正しく理解できるようにしたい。その時、私は今より少し優しくなれるかもしれない。

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2025年03月29日

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「人生をかけて、相手の人生を聞く」という帯のまま。1つ目の岸さんと打越さんの対談から自分の知らなかった現実の話でとても興味深かった。沖縄特有の地域観や差別問題、調査することと支援すること、それぞれ最前線の人たちの話が読める貴重な一冊。

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2025年03月08日

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『断片的なものの社会学』で「質的調査」に出会って以来、著者の新刊やTwitterを追いかけてきた。そのせいか、本書で対談した6人のフィールドワーカー全員の名前は勿論、人となりだとか引用されたエピソードの数々がいろいろと数珠つなぎに思い出され、まるで私自身が現在進行形で配信を見ているような‥不思議な感覚で一気に読み終えてしまった。それにしても‥親しかった仲間から“打越正行を追悼しない”会で見送られるとは‥なんと短くも豊かな人生だったか!

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2025年02月01日

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社会学、生活史、エスノグラフィー。人の生活、声、ヴォイスからしか見えてこない、わからないものが確かにある。

昔働いていた職場で、沖縄出身の人がいた。基本的には明るい青年だったが、ある時から確実に目が死んでいた。そうしてふっと会社を辞めていった。岸先生の話の一部を読んで「そういうことだったのかもしれない」とも思う。

部落問題やヤンキーと地元、暴走族や日雇いの建築現場など、様々な生活を文字通り人生をかけて体当たり?で話を聴いてきた方達の話。リアリティがありすぎてすぐには消化出来ない感じがまた頁をめくらせる。

本を読むことは、自分以外の誰かの、もう一つの人生や生活を追体験することとある意味では同義であると考えている。

ルポ、ノンフィクションを読むことを通じてどういった体験をするのか?

想像力の外にあるリアリティというか、存在することは認知しているけれど、よくわからなかったり、怖くて避けて通ってきた部分もある。例えば学校のヤンキー達の集まりや、コギャル達の遊び相手がどこかの大学生だったりだとか。

何か流れでヤンキーの先輩の家に連れられて煙草を吸わせられたりシンナーを吸わせられたりして怖かったなぁ。

そこではもう何も言えない、ただただ時間が過ぎて解放されるのを待つだけだった。

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2025年01月30日

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ネタバレ

この本を読んで社会学の本質の一つは、『NARUTO』の名セリフ「逆だったかもしれねェ…」だと思った。この本には著者岸政彦さんが6人のフィールドワーカーとして活躍する社会学者との対談が収録されている。6人の社会学者との対談で頻繁に出てくる話題が「当事者性」。調査対象者と深く言葉をかわし合い、中には調査対象者と生活をともにするフィールドワークという手法は複数の事象に当たって法則性を探す帰納的なアプローチや膨大なデータを集めて解析を行う統計的なアプローチに比べ普遍的・合理的な解を導くにはコストパフィーマンスが悪いように思える。  しかし、調査対象の行動の一挙手一投足を生活の状況、社会構造などそこに至る文脈をしっかりと表現することで読み手に「当事者性」が生まれてくる。この本を読んでいると、調査対象の人生にどこまで調査者が介入していいのかなど、フィールドワーカーならではの悩みが様々出てくる。そのような対談を読んでいくうちに読者の私にも「自分がフィールドワーカーだったらどうするか」「自分が調査対象者と同じ立場だったらどうするか」という「当事者性」が生まれてくる。  統計的・帰納的なアプローチはある意味合理的で正しい結論が得られる。しかし、こと人間においては正しいけれど適していない場合があると思う。この本の中では沖縄戦の集団自決の生き残りの男性の話が出てくる。彼は集団自決で一人だけ生き残るという経験がありながら、米軍基地には賛成という立場を取っている。人間の思想・行動は規範的な議論には落ち着かない。だからこそ、自分と相容れない思想・行動をする他人に出会ったとき、根底に流れる生活、社会構造などに目を向けながら「逆だったかもしれねェ」と考えることが大事なのだと感じた。

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2025年09月17日

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ネタバレ

岸政彦がフィールドワークを行っている研究者にインタビューをして、その研究での聞き取りの苦労を明らかにしていくものである。岩波は面白くないのが普通であるが、これは他の本と違いとてもおもしろいので、学生がフィールドワークを行う時に気休めに読んでみるのもいいと思える本である。

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2025年05月09日

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最近年齢のせいかプライベートで色んな人と会うことが減って、1年ぶりの再会みたいなことが多くなってきたが、この本における「調査する」ってその時の友人との会話みたいだと思った。会ってなかった時間を確認しながら、時に脱線して、色んなことを話すあの感じ。「調査する」という言葉の中には、興味とか敬意とか尊重みたいなことが含まれていて、意外と身の回りの人に対する接し方には当てはまるのかもしれない。自分は社会学者でもないし、誰かの話を聞いて論文を書くわけではないけど、そういう姿勢で色んな人と接して、学べる大人ではありたい。

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2025年04月23日

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ネタバレ

質的社会学について。読んでいてたまにわからなくなることもあったけど、意味合いは理解できた。
自分は統計学を大学では学んでいたので、一般化することで汲み取れきれないことが多々あることを感じていて、p183にあった何%の人は〜という表現になってしまうというのにはたしかに…となった。
191 普遍的な法則を発見するのが目的じゃなくて、ひたすら例外を見つけていく。
194 言葉で埋めて近づく

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2025年02月16日

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面白かった。社会学者の岸政彦さんと、同じような研究者の方たちとの対談。奥さんとの対談、面白すぎるが、ちゃんと学者として話しているのもそれはそれで面白い。大変だったね、で終わらないためには。社会学の本はいろいろ大学生時代に読んだが、インタビューなど生活史、人としての人生を学問にする、というのも不可能や、意味のないことではなく、そういうもの自体があることの意義を考えさせられた。

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2025年09月04日

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社会学における「生活史調査」とは、調査者がある属性における個人の人生を記述するという要領で、社会現象と人間行動の関係性を紐解きながら理解しようとするもの。本書が特徴的なのは、この手法に長けた研究者が、まるでその調査方法の被験者のごとく、語らせられる。調査の難しさとかインパクトあるエピソードとか、調査において重要視している事とか。

ある人は沖縄のヤンキーの生態を理解する為に、くっついて回るだけではなく、自らその集団に入り込んで土建業でも働いてしまう。参与観察のスタイルだ。他にも、ボクサーの対戦相手を派遣するフィリピンのボクシングジムに入り込んだり、沖縄の風俗女性から話を聞いたり。

この本だけだと、武勇伝が語られがちで、「より困難な参与観察する人はスゲー」みたいな状態なので、偏ってインパクトのある標本の個別的事象を扱うだけになりそうな印象がある。実際の調査結果を別の本で読まなければ、より因果を紐解き一般化させて捉えていくには難しい印象。

例えば今なら「闇バイトは何故生まれるのか、参与観察した」みたいなテーマ設定し、暴力的な中核に迫っていくみたいな感じだろう。社会的な動機、発生を許容する制度の穴、ツールとしての環境、操作可能な弱者の存在など。社会に一定数存在する弱者は属性を変えやすく、磁力に吸い寄せやすい。だから利用しやすい、みたいな事が多分聞き取れれば分かるはずだ。

実際には、属性を偏らせていく私立受験などせず公立の学校に行けば、あらゆるバックボーンの人間がいるので、参与観察する私たちスゲーみたいな感覚にうすら寒さを感じるかも。受験のふるいによって同質性を高めていく事は没個性の選択圧でもあるため、勉強を自分のペースでやれるなら、学校は色々な人がいる環境でも良いと思う。社会的に同質化された人たちが、そこを卒業して多様性を謳っているような説得力のなさ。実は「この多様性には頭と育ちの悪い人は入らないんだよ」というグロテスクな感じ。参与観察のそうした「選ばれた・守られた自己」による「社会科見学・上から目線」が鼻につきはしないか。

だが、そういう分野があるんだなと学ぶ。動物行動学の人間版という感じか。目指せローレンツ。ヤンキーと対話可能なソロモンの指環を手にして。

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2025年05月04日

Posted by ブクログ

社会学者の岸政彦さんと6人の研究者との対談をまとめた本。社会学者として調査対象とどのように関わってきたのか、その中でなにを感じていたのか書かれている。

以下気になったところメモ
・社会学の目的、単に問題解決を目指すのではなく、まず「理解したい」。社会学はリカバリーやサルベージのような、答えを出すものではなくて、すでにあるものの価値を見つめ直す、拾い上げる学問。

・中動態とは「自分が行為の主体でもあり、同時にその行為の影響を受けている」という状態。つまり、「する」と「される」が切り分けられないような行為。(部落問題や差別、福祉、貧困といった社会学的テーマでも、「自分のせいなのか」「社会のせいなのか」という二択で語れないことが多い。そこで、中動態的なまなざし=行為の複雑さを理解する視点が必要)

・なぜ外国籍の人を怖がるのか、部落問題に拒否感をもつのか、生理的嫌悪でもなく、リスクという言葉でも片付けられない、これが差別論。

・責任の話。人の行為は偶発的に決まるところもあるのに、その人が自分で選んだからといって責任をかぶせることに問題があるのでは。

・加害者を書くことが責任解除につながる(DV加害者の「自分語り」は、ときに「自分もつらかった」「こうするしかなかった」といった言い訳や正当化を含み、それをそのまま書いてしまうと、読者にとっては「加害を理解し、共感する」形になる可能性がある)


途中途中、言葉を調べながら読んだ。
社会学者は、多くの人の人生を集めながら、そこに語られる共通点を探してその奥にある理論を見つけていく。でもそれを見つけたからといって、すぐに何かが変わるわけでもない。不思議な仕事だなと思ったり。

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2025年04月25日

Posted by ブクログ

ここに出てくる対談相手は朴さん以外本を読んでいるし、もちろん岸政彦も読んでいるし、「質的社会調査の方法」は類稀なる名著だと思っているが、その上で言う。
岸政彦、各章で同じようなくだばかり巻いてないで、そろそろ社会学の論文を書いてくれ!

私は「地元で生きる」を読んで本当に感動したし、沖縄ひいては世界に対する解像度が上がったと感じてものすごい知的興奮を覚えた。社会学に憧れるきっかけになった。
洗練された学術的な様式で初めて伝わる知識や感動というものはあると思う。
きちんと学術書の形で、あの興奮と感動を、もう味わわせてくれ!!!

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2025年03月11日

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