あらすじ
昭和とは何だったのか?
関川氏の一連の作品は、この問題を考えるヒントに満ちている。
本作で描写される「戦後」は、貧困に苦しみつつ、つねに明日を信じて努力した時代であった。一瞬の光芒を放ちながら、やがて輝きを失い、うつろな社会へと変貌していくその短い青春の時間を、著者自身の経験に拠った、一人称視点の主人公によって織りなされる小説と、時代を映したベストセラー(『山びこ学校』から田中角栄『私の履歴書』まで)の評論で、交互に照らし出す。
巻末には、「自著解説」を新たに書き下ろす。
「私説昭和史」三部作の第一弾。
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Posted by ブクログ
昭和史。番号1なので,まだ戦争があっだ昭和から始まり、田中角栄,オイルショックまで。いろいろ読んで知ってるつもりだったが、実は全然知らない時代だった。著者は、その時代に売れた本や映画、事件、世相と,それをなぞるようにしてその時代特有の雰囲気の物語を交互に書いて,その構成が面白い。冒頭のクリスマスイブの客、かつて軍隊が一緒だったという男が不在の父をたずねてきて寒い冬の夜母と子が駅までその男を送る物語がものがなしくていかにも戦争があっだ昭和。
評論部分で取り上げられている作品は、
山びこ学校,石坂洋次郎の青春小説、にあんちゃん、小田実なんでもみてやろう、二十歳の原点、田中角栄私の履歴書。
テレビやラジオで同じ情報を共有していた時代。良くも悪くも,そこから生まれる空気,日本に特に強く分厚い空気,分厚いけど砂のようにチリのように軽い、どのエピソードも評論も、須賀さんの言う精神の空白をそんな空気を吸い吐き忘れ、今なら消費して、という私たちの日本の社会のありよう、今の様々な社会問題に至る、つながる様を提示している。
新潮文庫版解説は、須賀敦子さん。
空虚な,精神の後進国である日本,
この国では、手早い答えを見つけることが、競争に勝つことだと、そんなくだらないことばかりに力を入れてきたのだから
人が生きるのは、答えを見つけるためでもないし、誰かと何かと競争するためなどでは決してありえない。ひたすらそれぞれが信じる方向に向けて、自分を充実させる。そのことを私たちは根本のところで忘れて走ってきたのではないだろうか。
平成8年とある須賀さん解説の言葉は20年以上経つ今より濃厚に受け止めるしかない。