あらすじ
経済成長の起爆剤として期待されるイノベーション。
将来への新しい希望であると同時に、「創造的破壊」と言われるように、人々のスキルや生活の基盤を壊す側面もある。
本書は「人」の観点から検討し、創造の促進は元より、破壊の打撃を軽減する方策を考察する。
創造する人、破壊される人の特徴とは?
抵抗と格差を縮小する教育投資、ミドル・シニア層のリスキリングとは?
希望と幸せのための二つのリスク・シェアとは?
■目 次■
はじめに
第1章 イノベーションとは何か
1 「創造的破壊」としてのイノベーション
2 不確実性がつきもの
3 創造の恩恵と破壊のダメージには時間差がある
第2章 創造する人の特徴
1 創造性は才能なのか、環境なのか
2 動機づけ次第で創造性が変わる
3 誰がイノベーションを生み出すのか
4 「創造的破壊」の張本人は誰か
第3章 破壊される人は誰か
1 誰が破壊されやすいのか
2 どのような人が破壊されてきたのか
3 破壊されるインパクト
第4章 新しいモノゴトへの抵抗
1 抵抗を生むイノベーション
2 政府はどちら側につくのか
3 抵抗がなくなる条件
第5章 アメリカ型をマネするな
1 世界をリードするイノベーション大国
2 広がる格差と増える絶望死
3 どこかに正解がある?
第6章 自己責任化する社会
1 リスクの取り方、分散の仕方
2 個人が引き受ける破壊リスク
3 広がる自己責任と、狭まる「他者への責任」
第7章 創造と破壊のためのリスク・シェア
1 政府の再分配
2 リスク・シェアのさまざまな可能性
3 イノベーションを方向づける
おわりに
謝辞
参考文献
註記
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
イノベーションの負の側面について、わかりやすく語る本。日本とアメリカの解雇のハードルの違いから、リスクを会社がとるor自己責任の違いが生まれているのが興味深い。日本で働く一中堅労働者として、どう自分の仕事をリスキリングするか、考え方のヒントが得られた。自分の今まで積み上げた強み価値を無力化する方向でのリスキリング、頑張ってみようと思う。
Posted by ブクログ
イノベーションには創造と破壊の両面がある。破壊の例はラッダイト運動。
アメリカは、国防費がイノベーションの下支えをしているが、日本にはこれがない。
新しいことで、経済的な価値があること、がイノベーションの条件=社会的余剰が増える必要がある。特許だけでは、経済的な価値がわからない。
新しい製品やサービスだけでなく、生産方法、新たな市場、供給源、産業構造などもイノベーションの対象となる。
わずかな改良でも、累積的にイノベーションになる=インクリメンタルイノベーション。
試行錯誤をすると失敗も増える。失敗を共有する仕組みがないと、失敗が活かされない。
創造の恩恵と破壊のダメージには、時間的な差異があり、これが抵抗を生み出す。リスクを共有する仕組みが必要。
天才は遺伝的ではないが、子供の頃の知能はおとなになっても差異は生じる。特に、空間認識能力の結果が将来の差異になる。
イノベーションを企図する人は行動の特性がある。
スタートアップに移民が多いのは、伝統的な仕事に排除されることが多いから。
カリスマ性は、イノベーションの創造とは相関がない。
新規性が高い技術は、結果的には失敗に終わることがほとんど。注目されないので目にすることはない。
累積的なイノベーションが多数の会社で起きると、社会全体の生産性が上がる=帆船効果。
賃金の上昇とエネルギー価格の低下は、イノベーションのきっかけになる。
中国のWTO加盟で、世界中で中国製品の輸入が拡大した。アメリカの製造業が低迷した理由。
自動化は一時的には雇用を減らした。最終的には、競争力がつくため雇用は増える。しかし同じ人ではない。
1969年に郵便番号の読み取り区分機の導入を巡って、新宿湯びんきょく前で座り込み運動がおきた。仕分けのスキルが不要になる。
蒸気機関が生み出されると、水車の性能も向上した。電球の登場でガス燈に進歩があった。ハイブリッド車の登場でガソリン車の燃費がよくなった。=帆船効果。蒸気船の登場で、帆船も進歩したことに由来する。
イギリスの産業革命は、ギルドの力が弱くなっていたことも原因。機械の打ちこわしは死刑になった。
既得権益者が政治と結びついた政府を収奪的な政府と呼ぶ。ロビー活動などで、既存利益を維持しようとする。
戦後の日本は、企業内の配置転換があったため、イノベーションに対する抵抗運動は起きなかった。終身雇用と年功序列は戦間期に生まれた。自分の所得を上げるには会社を成長させることしかない。雇用保護が強く、労働組合は企業別で企業と利害が一致している。
経済が成長していれば創造的破壊の抵抗が少なくなる。
リベラル型と調整型の社会=リベラル型では市場メカニズムが資源配分を行う。調整型では組織が役割を果たす。リベラル型は、雇用保護が弱く解雇が行われるが、新しい仕事も見つかる、調整型では配置転換が行われる。
調整型は、社内に失業者を抱えるため、撤退や新陳代謝が遅れる。停滞からの回復は穏やか。解雇が難しいので専門性を持つ人材の採用はためらう。高い専門性よりも高い潜在能力を求めるため、偏差値の高い大学卒の人材を求める。累積的なイノベーションが起きやすい。
リベラル型は、整理解雇が容易。撤退も容易。回復が早い。専門性を求める。ラディカルなイノベーションと相性がいい。
新規性の高いイノベーションは、そのままでは使い物にならない。必ず累積的なイノベーションを伴う。
人工知能は1956年にはアイデアはあった。自動運転も1978年のABSが始まり。
T型フォードの時代は、馬車、電気自動車、蒸気機関などの車が競争していた。T型フォードによって、内燃機関がドミナントデザインになったが、永遠には続かない。熟成すると、ラディカルなイノベーションが出現する。
所得を正確に把握することは難しい。
社会階層の移動は、ヨーロッパよりもアメリカのほうが難しい。
アメリカのスタートアップの急成長は、雇用保護の弱さにも一因がある。
労働組合のちからが低下している。強制仲裁を保証する代わりに、企業に訴訟を起こす権利を放棄させる契約が慣例となっている。企業側が強制仲裁する機関を選べる。
ドイツでは、労働組合が雇用の保護とリスキリングを求めた。
歴史的に見ると、戦争は格差を縮小させた。
アメリカは国防費が研究開発型のスタートアップを支えている。日本では同じことはできない。表面的な模倣は意味がない。
リスク分散は、投資家のポートフォリオの中で行われ、企業には領域に集中することを求める。これがスタートアップを支える。
人的資本は分散させることはできない。スキルが破壊するリスクは個人が背負うことになる。日本では、企業が多角化して配置転換のリスクを追っている。賃金が上がりにくいが、保険料を払っているようなもの。グローバル企業との競争では不利。
責任とは、他者を助ける個人の義務のことだった。今は自分で自律し、それを怠ったときの結果を引き受ける、意味に変わっている。
経済成長は、幸せに暮らすためには必要。パイが大きくならなければ、困った人に再分配する原資がなくなる。
ベーシックインカムや負の所得税は格差を是正できるか。
アメリカのスタートアップは比較的恵まれた家庭に育ち、学歴も高い。およそ70%が既婚だった。配偶者もキャリア志向で共働きの割合が高い。
付加価値配分計算書を作ったらどうか。
人手不足はイノベーションのチャンス。
Posted by ブクログ
イノベーションについて、人の観点から検討。想像のみならず破壊される側についてもちゃんとフォーカスした本とのこと。創造する人、破壊される人の特徴とは。抵抗と格差を縮小するには
メモ
・創造する人と破壊される人にはそれぞれ特徴がある
・創造の恩恵は浸透に時間がかかり、破壊のダメージは短期間に局所的に出る
・リスクシェアの仕組みをアップデートする
・経済学的に、需給曲線の変化でイノベーションを説明可能。プロダクトイノベーションによる需要曲線の変化、プロセスイノベーションによる供給曲線の変化
・創造性が高い人のパーソナリティ
開放性、外向性、協調性、誠実性、神経性
・ポーターの参入障壁7つ
規模の経済、差別化程度、巨額投資、スイッチコスト、チャネル確保、希少資源、政府政策
・最もイノベーションに代替されにくいのは
芸術性、独創性、交渉力、説得力、社会的知覚力、他者への援助と気遣いなどが重要になるもの
・イノベーションが破壊するものが人のスキル、人体資本だったりすることもあり、人は反対する
・イノベーションのリスク
資源を投じて何も生まれないリスク
これまでの物が代替されるリスク
・日本企業の多角化、高い保険料、雇用固定がある故に色々社内で内生
・パートナーがフルタイムで安定収入の場合、新しいビジネスへの投資や挑戦がしやすくなる