あらすじ
智恵は、勘定所で普請役を務める夫・信郎と、下谷稲荷裏でつましくも幸せに暮らしていた。信郎は若くして石澤郡の山花陣屋元締め手代まで登りつめたが、真の武家になるため、三年前に夫婦で江戸に出てきたのだ。そんなある日、三度目の離縁をし、十行半の女になった姉の多喜が江戸上がりしてきた。一方、その頃、信郎は旗本の勘定から直々に命を受け、上本条付にひとり出向いていたが……。己の「励み場」とは何か?家族とは何か?──直木賞作家が描き切った渾身の長篇小説。(解説・池内紀)
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Posted by ブクログ
するっと読めて特に文体の形を感じない、水のような自然さ。
しかもキャラクターの心理をたんと掘り下げてる『時代物』。
なので、青山文平はすごいと思うの。うっかり今日一日で読破してしまいました。前に読んだ『かけおちる』よりも、ちゃんとした終わり方が美しい一作。
Posted by ブクログ
うーむ青山文平はしみじみ良い。名子っていう聞き慣れない概念が物語の鍵なんだけど、初めて知りました。背後から姉に声をかけられるシーンで泣けた。面白かった。
Posted by ブクログ
遅咲きの直木賞作家の作品。
直木賞は2016年「つまをめとらば」で。
徳川幕府が始まって150年のころ。
農業も改良や開墾などで収穫高が高くなり米の値段は下がる。
かたや武士は未だ禄高で収入を得ていて、ジリ貧の勝手事情。
徳川が日本を統一するころ、武士を捨て領土に土着する武士集団がいたが、150年も経つと、その立場もずいぶん変わっていった。
豪農の次女として生きた智恵(ともえ)は、養母、喜代が亡くなって以来家の中に息苦しさを感じていた。
子を成さぬということで家に帰される出戻りでもある。
姉の多喜(たき)は、美しく明るく2度も結婚しながら戻ってきたが天真爛漫に振る舞っている。
そんな中、百姓から、代官所に務め、その才能を買われてどんどん出世する「笹森信郎(のぶお)」から求婚される。
名主に対して名子という言葉の説明などを始め、当時の農村の生活や経済の仕組みなど、会社組織のような武家の役人のピラミッド。
信郎のいまは、契約社員と言ったところか。
その出自や来し方が彼の生き方を作り、智恵の生き方も作る。徐々に解き明かされる家族の真相。
揺らぎのないほどの史実を盛り込んだ設定の中で、登場人物は生き生きと悩み喜び涙する。
登場人物の言葉にも自然、重みがあり、脇役であっても人となりが見えてくる。読み応えのある1冊でした。
Posted by ブクログ
青山文平は平成の藤沢周平と呼ばれているらしい。藤沢周平の訃報に接したとき、もうい読めないのかと思った時のことを思い出しつつ、青山文平と出会ってよかったとつくづく思った。この作品は私にとり三冊目であるが、静けさの中に固い芯があり、艶があるというのか、そんな物語である。「名子」の背景の説明や智慧、多津にまつわる因縁が少しわかりづらく、わざとそうしているのかもしれぬが、藤沢周平よりずっと入り組んでいる気がする。
Posted by ブクログ
名子、元武士の名主の家来たった者で、江戸時代の半ば頃は一般の農民より低い戸籍もない人だった。お互い想い合っているのに相手の為にと思って逆になっていた夫婦が お互いを分かり合える!