あらすじ
恋愛リアリティショー「DTOPIA」新シリーズの舞台はボラ・ボラ島。ミスユニバースを巡ってMr.LA、Mr.ロンドン等十人の男たちが争う──時代を象徴する圧倒的傑作、誕生!
第172回芥川賞受賞作
安堂ホセは、物語の磁石を持っている。現実世界で排除された不都合で不穏でヤバい砂つぶてのような言葉を、暴力と倫理の磁石で吸い寄せ、反発させ、交渉させ、渦巻かせる。あらゆる倫理が覆され、暴力が吹き荒れている今、「暴力から暴を取りはずす旅」の物語が出現したことは、一つの事件だ。
読もう! 旅立とう! 旅によって運ばれるのは、あなた自身だ。
──柳美里
いくつもの物語が交じり合い、壮大な展開が繰り広げられ、「失われた歴史」が復元されるラストに感動した。
──高橋源一郎
強烈な皮肉とクールな文体。
私たちの眼差しを切り開く手術(オペ)のような小説。
どこへ連れていかれるのかわからず、ひと晩で読み終えた。
──佐藤究
語りと構造、ストーリーの面白さの中に、資本主義や植民地主義、ウクライナ戦争やガザでの虐殺についての鋭い批判が、当然のように滑り込む。
極めて刺激的かつ、開放的。国境を越えて、世界にリコメンドしたい。
──須藤輝彦
この小説を読むことは自らの感性を問い直すことである。
異性愛主義や人種という不適切なカテゴライズにあらがうための、必読の一作。
──渡邉英理
典型的な物語に閉じ込められないための強烈な意志、ねじ伏せられない悪意と復讐がこれほどまでに徹底された作品はなかなかない
──水上文
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
恋愛リアリティショー「デートピア」のロケを舞台としつつ、その出演者である二人の主人公の過去や、ショーを見た未来の視聴者の視点が混ぜ合わせられて構成されているから、標題のショーはある意味で退屈なのに物語自体には緊張感が漂っている。
過去の事件や未来の出来事の語られる順番によって、人物や台詞、舞台の持つ意味、読者に与える印象が刻々と変わっていくのは、物語構造の面白さを感じさせた。
最終盤は、そこに至るまでの展開やその不穏さに比べ落ち着いていて、少し物足りなさも感じるくらいだったけれど、時間もルーツも愛も力も暴力も、何もかもがミックスされて意味が変容していく世界を描いた小説だったから、明確なカタルシスがない方がふさわしいのかもとも思う。
Posted by ブクログ
怖くてとばしとばし読む。
それでもキレっキレだなと思った。
改めて読み返したい。
読めたところで言うと、「幸せになろうとすると反社会的になる人はどうしたらいいか」ということを扱っていて、これは私にとっては『13歳のハローワーク』ぶりで、印象に残った。
Posted by ブクログ
前半は超絶面白かった。ただ、後半のキースが裏社会で働いているくだりは、ちょっと自分にとって現実味がなさ過ぎて心が離れてしまった。でも再びデートピアの時間軸に合流してからはしっかり面白かったし、全てが理解できなきゃいけないとも思っていないので、総合して良い作品だと思う。
賛否ありそうな、映像字幕を過剰に意識したような細切れに『』で区切られたセリフは確かに読みにくかった。けど、「これは映像だぞ」と過剰に印象付けるようなこの演出もあって、とにかく「映像を読んでいる」感が凄かった。本当にネットフリックスの国際系恋愛リアリティーショーを観ているかのような気分だった。そして、番組の企画、番組が世間にもたらした効果、視聴者たちのトレンドなどの描写には、「よくこんな面白いこと考えるな!」と何度も思わされた。一視聴者として踊らされる楽しみと、それら全てを俯瞰できる楽しみの両方を味わえた。そして、頻繫に「おまえ」と呼びかけてくる語り手は一体誰なんだ、という謎は中盤で明かされるが、「あ、語り手その中にいるんだ!」「え、元々男なん?」「いやカッターで手術すんなよ!」という、情報の後出しタイミングがいちいち絶妙。
この作品のメインテーマの人種のルーツ的な話は、純日本人の自分には正直理解しきれない部分も沢山あった。作者の詳細も知らないし、作品だけで評価するべきだと思っているので、「この人がこの作品を書いた意味」みたいなのもよく知らない。けど、間違いなく正直に書いたんだな、というのは伝わってくる。好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、分からないものは分からない、おかしいものはおかしい、と率直に言い切る気持ちよさがあった。
Posted by ブクログ
国籍、性的嗜好など、ポリコレ問題が雑多に流れてくるような小説。それぞれのテーマが1つの主張や方向性に向かって行くわけではなく、私たち読者はそれぞれについて考えたようでいて、対して考えられていない状態で情報を受け入れ、流していくことになる。まさにTikTokやXなどのSNSを見てるような感覚。
人々にとってそれぞれ重大であるはずの問題を、1情報として処理していってしまうような現代の空気感を再現していると思った。作中の本人たちでさえ、当人の問題を他人事のようにどこか冷めて捉えている節があって、今っぽいなぁと思った。
私たち、世界は、めちゃくちゃ問題を抱えているのに、あまりに情報が多すぎて、どこか本腰を入れて考えない空気になってるよなぁと思ったりした。考えてるんだけど、要領が足りない感じ。どこから解決していけばいいのかってお手上げな感じ。情報が多すぎて自分のことを理解できない感じ。
この情報が多すぎて問題がより細分化され拡大していく世界で、どう生きていけばいいんだろうね。
Posted by ブクログ
題名だけ見ると、最初「マッチング」を主題とした小説かなとも思ったが、読み初めてみると数ページまでは「女王様とマッチョ系美男子」の逆ハーレム小説かなと思ってしまった。感想が変わったのは、「キース」の幼馴染みである「モモ」が登場してから。ここからの展開でまず感じたことは、まず読み辛さ。書かれている「おまえ」が、たぶん「キース」だろうと思うが、もしかしたら「モモ」かも知れないと思ったり、或いは他の誰かなのかも知れないとも思った。また話している人、行動している人も「キース」視点なのか「モモ」視点なのか、もしかしたら「ファイヤード」かも、或いは「ダイモン」か。比較的分かり安いのは「マルセル」と「ミスユニバース」くらい。何より、この小説が何を描きたかったのだろうかさえよく分からなかった。
まぁ、私に読解力がなかったせいだろうと思うが、芥川賞受賞作は私のような頭の悪い人間には理解出来ない作品が多いのかも知れない。特に読んでいて腹が立ったのは「親が子供に大きくなれと言うことも暴力ではないか」と言うところがあった。何を言ってやがると思った。また、ガキが一丁前に屁理屈言ってんじゃあないよと思ったところもあった。
最後の方で文中に「そうして加害者と被害者を強制的に引き分けにするための仕組まれた子供たちが島に多く生まれた。」とある部分があり、2~3ページ後に「仕組まれてない命なんてないのかも」と言う台詞があった。確かに、親や兄弟、親戚などに、或いはクラスメートや上司、教師、警察さえにも運命を左右されることがあり、その時点で「仕組まれていない命なんてないのかも知れない」と思ってしまうかも知れない。ただ読み終わって、たぶんこの小説の登場人物はみんな「自分の命は仕組まれてない」と思っているのだろう。とそう思う。DTOPIAに仕組まれても、自分たちは抵抗出来ると思っているかも知れない。
ただ、それさえも誰かに仕組まれた運命かも知れない。
しかし、「キース」や「モモ」には、「仕組まれた、仕組まれてない」など関係無い自分だけの命があるように思われる。
単なる私の浅読みによる感想だけれども。
Posted by ブクログ
南国での恋愛リアリティーショーの進化版のような話かなと思って読んでいました。
トラッキングシステムとか面白いなと思っていたのですがそれは全然本筋ではありませんでした。
モモの登場あたりから(最初から語りとしては存在していたけれど実際に登場してきてから)
全然違う話になってきて、人種の話やらLGBTQ的な話、思春期的な苦悩の話が
入り混じってどんどんゴチャゴチャしてきて頭の中はパニックになり
脱線のはずが脱線したまま全然戻ってこずに最終盤まで行ってしまうという何とも不思議な小説でした。
文章中で印象に残ったフレーズ。
「あらゆる芸術の中で最もキャンセルしづらいのは青春時代に聴いた音楽かもしれない」
漠然とした感覚を的確に表していると思う。