あらすじ
論理的思考法は世界共通ではない.思考する目的をまず明確にしてその目的に合った思考法を選ぶ技術が要る.論理学・レトリック・科学・哲学の推論の型とその目的を押さえ,価値に紐付けられた四つの思考法(経済・政治・法技術・社会)を使い分ける,多元的思考を説く.不確実なこの世界で主体的に考えるための一冊.
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
仕事をしながら、上司や同僚の求める論理性になんとなく違和感を感じていた。
「ロジカル、論理的である」の定義が文化によって異なるのではないか、という本書の問題提起に、もしかしたら違和感のヒントがあるのかもしれないと思い、手に取った。
作文教育の中で「なんのために書くか、伝えるか」という目的をどう設定するのかが、論理性の文化に影響を与えており、その論理性の文化を分類すると、経済・政治・法技術・社会という4領域となるようだ。
ビジネスの場面では自分自身の現在の利益を最大化する「経済領域の論理」が採用されるが、政治の面では最も多くの人の害を最小化できるように複数の利害を調整する「政治領域の論理」が採用される。利害調整ではなく、日常生活に秩序をもたらすのが「法技術領域の論理」であり、社会の中で自分自身をよりよく変えていこうとするのが「社会領域の論理」である。
日本の作文教育では書くことによって、自身の経験を振り返り、経験した事象の前後で「自分自身がどのように変わったか」を表現させる。
これは、事象と自分自身の価値観に因果関係を見出す訓練をしているとも言える。
対象が何によって、どのように変化したか、それが読み手によっても因果関係を見出しうるのかが評価にされる。
他者も同様に因果関係を見出しうることを「共感」と呼び、この共感をもって社会の秩序、統制をとっているのが日本の価値観だといえる。
一方で、経済領域の価値観を反映したアメリカの5パラグラフ・エッセイは、現在、全世界でビジネスにおける文書の基本形として受け入れられている。
これは自身の主張を、根拠を添えて相手に伝えるかこと目的としており、主張を支えられる事実以外の情報を削ぎ落とすことで、主張のメリットのみを効率的に伝えるものである。
仕事の中で「論理的に」と言われる際の最も大きな違和感は、「結論を先に述べる=論理的」といわれる点だ。
結論や主張は、検討の結果であり、時系列的には最後になる。
それを先に提示することを要求するのは、読み手、あるいは聞き手自身が、結論について検討をする意思がないと感じる。
また、「結論」は必ずしも経済領域の論理でいう主張ではなく、話のテーマを指していることもある。
「論理的」とは、相手が期待する文章構造に従って説明されること、というのがわたしの理解だ。
相手が期待する文章構造は文化によって異なり、単に日本の作文の結びを先頭に持ってきただけでは、相手が理解しやすい説明になるわけではない。
相手が、確かに結論と補足説明の間に因果関係≒共感を感じられるような伝え方が、日本においてのコミュニケーションでは最も効率が良くなるのではないかと感じた。