【感想・ネタバレ】女たちの平安後期―紫式部から源平までの200年のレビュー

あらすじ

平安後期、天皇を超える絶対権力者として上皇が院政をしき、それを支える中級貴族や源氏・平家などの軍事貴族、乳母が権力を持つようになる。そのなかで巨大な権力を得た女院たちが登場、莫大な財産は源平合戦のきっかけを作り、武士の世へと移って行く。紫式部が『源氏物語』で予言し、中宮彰子が行き着いた女院権力とは? 「女人入眼の日本国(政治の決定権は女にある)」とまで言われた平安後期の実像がいま明かされる。

■目次■

はじめに

平安時代後期二〇〇年の年表

序章 平安後期二〇〇年の女人たちとは
武人貴族と日本中を走り回る人々、そしてその妻たち
乱立する権門――政治・権力の多チャンネル化、忖度とロビー外交の時代
「女人入眼の日本国」――平安後期を生きる女性権力者の新しい道
『百人一首』の女流歌人たちのスポンサーが女院たちだった
紫式部の描いた「女院」の予言――『源氏物語』のもう一つの〈サクセスストーリー〉

第一章 寛仁三年に起こった大事件――〈刀伊の入寇〉
刀伊の襲来
〈刀伊入寇〉と「暴れん坊」藤原隆家
〈刀伊の入寇〉についての太政官会議
刀伊の攻撃を防いだ者は
〈刀伊の入寇〉と『源氏物語』と現地の女性たち

第二章 彰子が宮廷のトップに立つまで
『源氏物語』のころの彰子
一条天皇亡き後の彰子
彰子、道長を任命する
望月の歌と三人の后
そして彰子がトップに立つ
上東門院をめぐるある事件

第三章 道長の孫、禎子内親王が摂関政治を終わらせた
三条天皇皇女、禎子内親王
姉たちとの格差
道長の野望と新たな計画
禎子内親王の結婚と摂関家
藤原頼通とその妻、隆姫女王の動向――具平親王の子供たち
藤原嫄子、入内する
具平親王家を継いだ人
禎子内親王の自立と藤原能信
藤原頼通と斎王と伊勢神宮
斎王良子をいじめたのは誰だ
我慢する禎子の切り札とは
禎子、勝利の時

第四章 貴族と武者と女房と――〈斎王密通事件〉と武士
斎王を襲った武者
平致光と平致頼
九州の海の武者と平致光
武人貴族が社会のスキマを埋めていく
「朝家の守護」、源頼光と渡辺綱の関係
清原致信殺害事件とその立ち位置
歌人としての武者と女房たち――相模の立ち位置
そして、斎王を襲った男ふたたび

第五章 躍動する『新猿楽記』の女たち
『新猿楽記』に見える芸人たち
「あるある下級貴族」の日常コント
どんどん個性的になる女性たち
たくましい女性たちが語るもの

第六章 院政期の中心には女院がいた
「行き当たりばったり」白河天皇と母と妃と皇子たち
未婚女院第一号、郁芳門院――白河天皇の暴走①
未婚の高位内親王――白河院の暴走②
閑院流の姫、待賢門院と白河院――白河院の暴走③
藤原親子と六条藤家――「天皇の乳母」の力①
藤原光子と「夜の関白」――「天皇の乳母」の力②
鳥羽院と「九尾の狐」にされた傍流藤原氏の美福門院
女院の熊野詣

第七章 源平の合戦前夜を仕切った女性たち
奥州合戦と安倍氏と藤原経清の妻
〈保元・平治の乱〉と女性たち
源義家から平忠盛へ
祇園女御という謎
平滋子と平時子――「平氏」から「平家」を生み出した女性たち
フィクサー藤原成親と女性たち

第八章 多様化する女院と皇后、そして斎王たち
女院が歴史に埋もれたのはなぜか
二条天皇と育ての親、美福門院
二代の后になった若き太皇太后多子
六条天皇准母藤原育子、外戚のいない天皇の母として
悲劇の女院、建礼門院徳子、そして斎宮・斎院をめぐる変化

第九章 究極のお嬢様――八条院暲子内親王と源平合戦
いきなり女院の八条院
八条院の財産と武力
八条院と源平合戦
女院と結びつく清和源氏
「女人入眼の日本国」の裏で
もう一度八条院に戻って見えてくること
八条院たちが残した華麗な文化
八条院領の終わり

第十章 それから――鎌倉時代以後の女性の力
『百人一首』の語る平安時代の折り返し点
消された定子皇后
女性は家長になれない時代
しかし女性家長はいた
それでも女院には力があった
斎宮は物語の中へ

おわりに

あとがき

主要参考文献

付録 歴史を描いた女たち(『栄花物語』一口紹介)

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

日本史系の本を読んでいると、なんの前触れもなく突然「美福門院」だの「待賢門院」だのという言葉が出てきて、ため息をついた記憶が一度や二度ではない。
本書は、その女院という存在について、形成される過程から丁寧に解説してくれた。
そういう内容と知らずに読み始めたので存外の僥倖だった。

0
2025年08月13日

Posted by ブクログ

紫式部や清少納言の活躍した平安中期—よりも後。
平安前期は、あまり資料もなく、よくわからないというイメージがある。
一方、平安後期は、やたらに人がたくさんいて(裏を返せば「キャラ立ち」する人がいない)、入り組んでいて、とかく複雑、というイメージ。

さて、私の典型的な平安イメージ=西暦1000年ごろを起点に、その後を描いているのが本書。
西暦1000年ごろを境に、中世という歴史区分がはじまる。
では、筆者は中世の専門家かというと、実は古代だというので、また驚いてしまうのだが、そこは斎院・斎宮を専門としている研究者であるとのことで、女院や内親王など、高貴な女性たちが「権門」となっていく状況を説明していく。
中宮や皇后が文化サロンの中心となる時代は彰子の後徐々に終わり、その後は内親王や女院たちのサロンが中心になるのだそうで、言われてみれば、と思う。

冷泉・円融の二系統に分かれていた皇統を一つに束ねることになる、三条天皇皇女にして後朱雀天皇皇后の禎子内親王。
頼通の養女嫄子(敦康親王の娘)との間で、どちらから皇太子が出るかという争いを制したのは、禎子。
禎子所生の皇子、尊仁親王即位により、摂関政治が終わる。
禎子と夫の後朱雀との夫婦仲は冷え切っていたとあるので、歴史の偶然も皮肉な感じがする。
しかし、このあたりの話は、他の本でも読める内容。

著者ならではなのかな、と思うのは、第四章の斎王密通事件を扱った部分。
花山朝の斎王に選ばれ、嵯峨の野宮で潔斎中の済子女王が、滝口武者平致光と通じたといううわさが流れたという事件だそうだ。
この件、直後に起きた寛和の変により、結局うやむやになったというが、この致光が十年後の長徳の変(伊周兄弟が失脚する事件)、伊周兄弟と一緒に逃亡していることもわかっているとか。
この致光は、坂東平氏に属し、この一家の一世代上で、あの将門の乱がおこっている。
この人物は、筆者の推測によれば中関白家とかかわりがあり、それゆえ、道長の金峯山詣での暗殺計画での実行者として噂されたり、長徳の件でも一緒に逃亡したのではないか、といい、更に斎王の滝口になれたのも、そのコネクションによるものだったのでは、とする。
かつ、相模の例を挙げ、武人の娘が貴人の女房になる可能性も示唆し、女房の手引きで致光が済子に近づくことができ、その背景に中関白家の意向があったのでは、と指摘する。
この推測の妥当性を判断することは自分にはできないけれど、「やりかねない・・・」と思えてくる。

六章以降は女院が権力を得ていく状況を描いていて、これも面白かった。
白河天皇が制度をかき回す。
例えば鍾愛の内親王媞子(やすこ)が、三歳で斎王となり、准三宮の地位を与え、息子の堀川天皇が八歳で即位するときには退下していた媞子を准母とする。
そして堀河の後見人として、なんと未婚のまま中宮の地位を与えられる。
その後「郁芳門院」という女院になるのだが、ここまでくるともはや驚かない。
十一世紀前半にはそれほど内親王が高位であることを求めてこなかったのに、後三条朝あたりから、天皇の権威を演出する存在として高位内親王、高位斎王を利用し始めたそうだ。
その帰結が、未婚立后であるとのこと。
こうして、中宮彰子=上東門院とは違う形で、高位の女性が「権門」となっていく。

とはいえ、権力構造は複雑。
女院は軍事貴族やら、院やら、力を持つ男性の手ごまの一つとなり、衰退する。
斎王は源平の争乱の中で制度が途切れ途切れになり、やはり衰退する。
北条(平)政子など、女性家長も生まれはするが、貴族・武士の間での女性の存在感は失われる。

雑にしかまとめられないが、こんな趣旨の話だった。
著者の語り口は、序盤はそうでもないのだが、だんだんこなれていくのが面白い。
白河院を「第二のいきあたりばったり」と呼んだり、「〇〇氏の説に激しく同意する」といった言い回しをしたり。
系図や表をまめに掲出してあるので、だいぶ読みやすいのだが、それでもたくさんの人名に翻弄される感はある。
最後まで読み通した自分を、とりあえず誉めてやろう。

0
2025年07月21日

Posted by ブクログ

平安後期、摂関政治から院政に移行していく時代に、女院に焦点を当て、読み解いている。

日本の権力構造は、鎌倉幕府や室町幕府の細川京兆家のように、権力者の内側に権力を操る人物が出てくる入れ子形式になり勝ちである。天皇親政から天皇の外戚が権力を握る摂関政治へ。譲位した天皇が、上皇法皇となって権力を握る院政へと変わっていく時代に、その経済力を一手に集中させる機関として女院が機能していることがわかった。

資料が少ない時代ながら、時には推測も交えながら、また筆者の思考が変遷していく様も書いてあり、面白く読んだ。

0
2025年05月15日

Posted by ブクログ

面白かった! 筆者はこの本を上梓したくて前作『謎の平安前期』をとりあえず書いたのではないかと思う。ノリノリで書いている姿が頭に浮かぶ。平安後期、従来の摂関政治が終わり、院政へと移行していく中で「女院」という存在がいかなる力を持っていたかということを生き生きと描いている。後の時代を描く書の中で「軍事貴族の○○は○○門院に仕えていた」というような記述がなぜあるのか不思議に思っていたが、本書を読んで腑に落ちた。そして、相変わらずの榎村節! 一般読者には分からないような特殊用語を使わず、現代に引き寄せて説明してくれる。たとえば、『今昔物語集』を平安後期の大スキャンダル事典と言ってみたり、「成人した天皇と関白はマウントを取り合うものだ」という叙述、あるいは、後白河天皇のことを「帝王学や和歌・漢詩などの天皇に必要な教養を身につけず、流行歌である今様にハマって喉をつぶすという、今なら学問そっちのけでバンド活動やカラオケに熱中するような青年時代を送っていた」と描くなど。だから、めちゃめちゃイメージしやすい。読んで楽しかった、良かった!

0
2025年05月08日

Posted by ブクログ

『謎の平安前期』と同じく、エピソードの断片から紡がれる豊かな歴史見取り図を堪能できる。よく知らない女院たちに多くページが充てられているのが珍しい。

0
2025年05月02日

Posted by ブクログ

紫式部による『源氏物語』の執筆や藤原道長の権力の確立から源平合戦に至る約200年の平安時代後期について、女院などの女性にスポットを当て、その実像を描く。
著者の『謎の平安前期』の続編ともいえる書で、著者お得意の軽妙洒脱な語り口で平安時代後期のいろいろなトピックが紹介されていて、面白かった。女院のことなど、自分としてあまりよくわかっていなかった平安時代後期について理解が深まった。特に、当時の社会をコントのように生き生きと描いた『新猿楽記』という史料の紹介が興味深かった。

0
2025年04月22日

Posted by ブクログ

平安時代にも女帝が登場するかもしれなかったなんて!
驚きです。
こう考えると、明確なルールがない故に天皇制は続いていった?
と、これは私の感想です。

0
2025年01月17日

Posted by ブクログ

<目次>
序章   平安後期200年の女人たちとは
第1章  寛仁三年に起こった大事件~刀伊の入寇
第2章  彰子が宮廷のトップに立つまで
第3章  道長の孫、禎子内親王が摂関政治を終わらせた
第4章  貴族と武者と女房と~斎王密通事件と武士
第5章  躍動する『新猿楽記』の女たち
第6章  院政期の中心には女院がいた
第7章  源平の合戦前夜を仕切った女性たち
第8章  多様化する女院と皇后、そして斎王たち
第9章  究極のお八条院八条院暲子内親王と源平合戦
第10章  それから~鎌倉時代以後の女性の力

<内容>
前作『謎の平安前期』に続き、平安時代を朝廷や摂関政治、院政の男たちから描くのではなく、女性、特に斎院を中心に描く。斎王博物館の研究員なので当たり前なのだが、ちゃんと俯瞰しているし、教科書的な部分もきちんと描いてくれているのでわかりやすい。ただ高校レベルの日本史知識を持っていないとちょっとつらいか。歴史の裏的な知識が増える本。八条院なんて、教科書じゃ一言だからね…。

0
2024年11月16日

「学術・語学」ランキング