あらすじ
人口が爆発的に増え、「代替伴侶法」が施行された近未来。伴侶を失い精神的に打撃を被った人間に対し、最大10年間という期限つきで、かつての伴侶と同じ記憶や内面を持った「代替伴侶」が貸与されることとなった。それは「あり得た夫婦のかたち」を提示すると同時に、愛の持つ本質的な痛みを炙り出すことともなったのだった――。
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Posted by ブクログ
「Timer」が荒唐無稽すぎて、もう白石一文やめようかと思ったけど笑、やっぱり気になってこちらも読みました。
こちらも相当荒唐無稽ではあったけど、面白くて1日で読んでしまいました。
設定はやはり近未来。人間型のアンドロイドを作成して、記憶を複写させ、本人と同じように仕事もし、生活できるという設定はかなり荒唐無稽ではある。
しかし、その設定の中で描きたかったのはやはり「真実の愛とは」というテーマだ。愛し合う夫婦が「子どもがほしい」と望み、それがかなわないときに、真実の愛がどうなるのか、という、複雑なようでシンプルなテーマだ。
代替伴侶であるアンドロイドの「隼人」と「ゆとり」が生活を始めるまでのなりゆきが少々複雑だ。
2人は愛し合って結婚したが、隼人の精子に問題があって子どもができない。ゆとりは焦り、悲しみ、ふとしたはずみで他の男との子どもを身ごもってしまう。未来の社会では、生物学上の親子のつながりがある家族が最優先されるようになっていて、選択の余地なくゆとりは隼人と離婚し、子どもの「本当の父親」と家庭を築くことになる。
残された隼人は委員会に「代替伴侶」を申請し、ゆとりのアンドロイドと暮らし始める。アンドロイドは自分はアンドロイドであると認識できない。そして人間の伴侶を決して裏切らないようにプログラムされている。
ところが、次はその隼人が自分を裏切らないアンドロイドの伴侶「ゆとり」を裏切り、はずみで他の女と子どもをもうけてしまう。そしてその女性との子どもの「本当の父親」として家庭を築く義務を負う。
人間の隼人とゆとりは、どうしても子供が欲しいと思っていたわけだから、望みはかなったことになる。
残されたアンドロイドの「ゆとり」は、自分がアンドロイドであるとは知らずに、隼人に去られたショックから委員会に「代替伴侶」を申請する。
というわけで、互いに自分はアンドロイドだと知らず、相手はアンドロイドであり自分を裏切ることはない、子どもはできないと認識しながら2人で暮らしていくことになる。
お互いに相手を裏切ってしまい、他の相手と子どもをもうけて暮らす人間のふたりにとって、アンドロイドの自分の「ツイン」どうしの暮らしは、「真実の愛」の可視化したものになる・・・!?
っていうなかなかあり得なくて恐ろしい設定だけど、不妊治療に悩む夫婦とか、子どもが生まれたことで何かが変わってしまった(愛がなくなった?)夫婦とか、いくらでもいるよね。逆に、「子どものいない人生」を選んだ夫婦が、本当にずっと仲良く、お互いを大切にしあうっていうのも、よくある話かもしれない。
この物語では、代替伴侶のアンドロイドどうしが、真実の愛にたどり着いて、それをもとの人間のふたりが確認する、みたいになっている。
私は夫を愛しているし、お互いを大事にしあってともに暮らしているけど、やっぱり子どもが生まれてしまったからには、夫より子どもの方が大事だと思ってしまうな(笑)。夫と子どもが同時に危機的な状況に陥っていたら、迷わず子どもを先に助けるだろうし、逆の状況でも夫もそうすると思う。それには何の疑問もない。それに、二人だけで暮らしていたときと、子どもが出来てからでは、互いの優先順位はかなり落ちる笑。でも、子どもを優先する、子どもを大切にすることはやはり、「あなたと私の子だから」っていう大義名分?のもとに成り立っている気がする。
私の好きな、白石一文作品を読んだあとの「真実の愛って何」ってずっと自問する感じを存分に味わえる小説でした。
あと、「決っして自分を裏切らない存在」って、ペットの犬みたいだなと思った。犬って、なんであんなに主人に忠実なんだろう…。