【感想・ネタバレ】ポトスライムの舟のレビュー

あらすじ

芥川賞受賞作
29歳、社会人8年目、手取り年収163万円。
こんな生き方、働き方もある。新しい“脱力系”勤労小説

29歳、工場勤務のナガセは、食い扶持のために、「時間を金で売る」虚しさをやり過ごす日々。ある日、自分の年収と世界一周旅行の費用が同じ一六三万円で、一年分の勤務時間を「世界一周という行為にも換金できる」と気付くが――。ユーモラスで抑制された文章が胸に迫り、働くことを肯定したくなる芥川賞受賞作。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

芥川賞受賞作『ポストライムの舟』とその前日譚とも言えそうな『十二月の窓辺』。
やはり『ポストライムの舟』がかなりよく、『十二月の窓辺』はちょっと迷うところ。だけど『ポストライムの舟』は「こんな書き方あるかぁ!」と感嘆。なので迷いましたが、やっぱり★五つ。

以下、解釈&ネタバレ。
『ポストライムの舟』』の主人公・長瀬由紀子。このフルネームは最初の一文にだけ使われて、あとは「ナガセ」で統一される。ではなぜ、最初だけフルネームか?
「脳内並行世界の確立にナガセが成功した」という個人的な感想を抱いている。本体は長瀬由紀子であり、ナガセは様々な長瀬由紀子のうちの一人。でも実際のナガセは前職、パワハラで辞職しており、なかなか辛い人生を送っている。彼女が薄給の中「そうか163万円で世界一周旅行にいけるのか」とケチケチ&土日も働く生活を始める。ナガセの周囲の、お金に困っていない友人・店の経営者の友人・旦那からモラハラを受けている友人、また会社の先輩の岡田さんの夫はどうも不倫しているらしい。そんななか、ついにナガセは体を壊してしまう。しかし復帰したら、なんと会社からボーナスが出て、163万円たまっていた! でもナガセはすぐには世界一周旅行にはいかない。恵奈という友人の娘に、イチゴの苗を買ってやろう、なんて考える。唐突に「また会おう。 何者にでもなくナガセは呟いた」、そして物語は終える。
ナガセは脳内並行世界ですでに世界一周旅行に出かけた自分を見て、そしてそれは今の世界の自分でも、絶対にいつか行ける、行こうと思えば行けるんだ、ということを無意識に悟ったんじゃないかな? その心強さ。肯定感。
一方の『十二月の窓辺』の主人公ツガワは女上司からパワハラ受けている真っ最中。会社の周りには暴漢が現れるらしい。そしてその暴漢がある人物であることが最後にわかるが、全体として暗い印象が否めない。この唐突な犯人暴きも、たぶんミステリーとして読んでしまうと「は?」となってしまうのではないか。たぶん「脳内並行世界」みたいに読むと、犯人は犯人であって犯人でないのかもしれない……ツガワ自身も「ヨーグルト菌の大量虐殺」を行っているし、表裏がわからなくなっている。

『ポストライムの舟』はまた読みたくなる作品でした。

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2025年11月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

主人公・ナガセの一年を追いながら、仕事やお金、生き方について何度も考えさせられた作品でした。
年収163万円という現実味のある数字と、そこから始まる節約生活や世界一周資金作りは、夢というより「自分にも起こりうる選択」のように感じられて、とてもリアルでした。

作中で、思うように貯金できず、働きすぎて体調を崩し、それでも働き続ける彼女の姿には胸が痛くなった。でも同時に、小さな幸福を拾い集めながら生きていく姿に、静かに励まされました。
ポトスライムが水だけで増えていくように、ナガセも自分の力で生き方を模索していく姿が重なって見えたことが印象的でした。

また、友人関係の描写を通して、誰もが表に見えない苦しみを抱えて生きていることを思い出させられた。自分の世界だけで完結せず、もっと周りにも目を向けたいと思えました。

読後、すぐに何かが変わるわけじゃないけれど、「自分にも小さな一歩が踏み出せるかもしれない」と思わせてくれる本でした。

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2025年11月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

文庫本に収録されていた2作品の感想を記します。
○ポトスライムの舟
社会の波に揉まれて傷ついた人たちに向けた作品だと思いました。最後まで優しい雰囲気の文体で物語が進んでいたのでストレスなく作品を楽しむことができました。
作品の雰囲気を維持するためだと思いますが、主人公の過去のことは最後までわかりません。

○十二月の窓辺
パワハラに悩む主人公が退職するまでの心情が生々しく描かれています。つらい気持ちになりましたが一気に読みました。理解力不足のため、通り魔の正体に納得していません。時間をおいて再読しようと思います。

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2025年10月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

あらすじが気になって読むことにした本。
労働へのモチベーションが、まるで自分と違っていて面白かった。
あっさりとした読後感で、さらりと読めてよかった。
文章の構成が独特で、最初はつっかえてたけど読み終わる頃には慣れてしまった。
ほかの作品も買ったので、読みたい。
軽薄だけど、私は主人公が世界一周するところを見たかったと思っちゃった。
そこはご自分でってことかな。

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2025年08月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ポトスライムの舟
ポトスライムは水だけで増えるうえに強い観葉植物だ。ほんとうは世界旅行でカヌーに乗りたい。そのためにお金も貯めた。
だけど、現実的には色々なことが起こり、そのたびに出費が嵩む。なので、さらに働く。そうすると、身近な友達に会う時間的余裕がなくなる。
ほんとうに自分を満たすものは何だろう。体調不良に悩まされながら働き続けることで満たされるのだろうか。
いや、そうではない。ナガセは、身近なポトスライムの水をかえてやるような、ありふれた足元の生活こそ大事にしたい。

今、ナガセの得たいものは、安定性の高いカヌーに乗って得られるのではなく、強く丈夫に、水だけでイキイキとしぶとく生きるポトスライムの舟に乗ってようやく得られるものなのだ。

お金も貯めて、使う方向性を変えた時、また違った世界が見えたのだろうと思う。

密度の濃いストーリーだった。

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2025年06月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

オーディブルで聴いた。

短編2篇が入っているのだけれど、オーディブルで聴いていたので、同じ話の続きで、突然視点とが変わったのかと思い、それがまとまることなく終わったので、「え?これで終わり?どうゆうこと?」と思ってしまった。
微妙に繋がってる話だったのかな?ちゃんとよく味わえなかったと思う。

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2025年08月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

この間ピースボートの話になって、あれって実際どうなの?と夫がサッと生成AIに聞いたら、「ピースボート実際に乗って感じたメリット・デメリット!」みたいなブログ記事を要約した回答が戻ってきた。
ピースボートと言えば、新宿や渋谷の、やっすい居酒屋のトイレにポスターが貼ってあるイメージで、そこになにがしかの希望を託してしまう感覚はイマイチ分からない、という気がした。

一方で、そのためにお金を貯めよう、と思って、日々節約しては出費をメモっていく感じとか、その割によく分からないこだわりの出費をしているような辻褄の合わなさみたいなものは、ふと自分にも身に覚えがある感じがして、ひやっとする。

津村記久子さんの小説は、きらきらじゃない、やりがいとかじゃない、儲かるとかじゃない、生活のために粛々とやらねばならない仕事とその職場と、そこにある謎の雰囲気やルールを、謎だけどありそう、という感じで描くのが好きなのだけれど、この作品は、そこにかなりの閉塞感が漂っていて、ちょっと息苦しい。

というか、いつもより読みづらいな、芥川賞っぽいな、と思って読んでたら、芥川賞受賞作だったっていうね。相変わらず芥川賞の作品とはなかなか相性がよくない。

私自身、氷河期世代で、就活も大変ではあったけれども、なんとかそれなりにやってこれていて、それは「恵まれていた」ということなんだろうけれども、どうにも「私だって頑張ったし」という感情が抜けきらず、作品に入り込めなかった。

2作とも、主人公の悩みをベースに展開しているのだけれども、どちらも決めて一歩踏み出しちゃえばなんとかなるよと、「そうじゃない」と怒られそうなポジティブアドバイスをかましたくなる。うじうじされるの、苦手なんですよ。
どちらかというと、ウザがられていた友人とか、いじめていた係長とかの背景のが気になってしまう。きっと彼らも悩んでるんだろうなとか。

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2025年07月11日

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