【感想・ネタバレ】とるに足りない細部のレビュー

あらすじ

1949年8月、ナクバ(大災厄)渦中のパレスチナ/イスラエルで起きたレイプ殺人と、現代でその痕跡を辿るパレスチナ人女性。二つの時代における極限状況下の〈日常〉を抉る傑作中篇。

この作品の「細部」に宿っているものは、私の精神世界を激しく揺さぶり、皮膚の内側を震えさせる。この本の中の言葉の粒子に引き摺り込まれ、永遠に忘れられない体験になり今も私を切り刻んでいる。
——村田沙耶香氏(作家)

かき消された声、かき消された瞬間と共にあるために、この小説は血を流している。
——西加奈子氏(作家)

*2023年、本作はドイツの文学賞であるリベラトゥール賞を受賞。しかし同年10月、イスラエルによるガザへの攻撃が激化するなか、フランクフルト・ブックフェアで開催予定だった授賞式は同賞の主催団体リトプロムによって中止され、ブックフェアは「イスラエル側に完全に連帯する」との声明を出した。この決定に対しては、作家や出版関係者を中心に、世界中から抗議の声が上がっている。

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

あまりに痛ましいレイプ殺人の描写。全く救いようがない話で暗鬱な気持ちになる。これは書かれるべくして書かれた。

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2025年10月30日

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パレスチナ生まれの作家が書いた小説。
何といっても自分の国が理不尽に奪われ、殺され続けることは許せんでしょう。ホロコーストの被害者であるユダヤ人が一番わからなければ。西欧(日本も)がイスラエルを批判しきれないのは大間違いです。

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2025年01月26日

Posted by ブクログ

現代パレスチナ文学の騎手である、アダニーヤ・シブリーが2017年に発表した小説。
1949年8月、ナクバ渦中のパレスチナで起きた実在の少女強姦事件から着想を得た作品とのこと。
本作は第一部と第二部で分かれており、第一部では1949年8月のその事件をイスラエル軍の兵士の目線で語る。
そして第二部は飛んで2004年現代のイスラエルで暮らすパレスチナ人女性が少女強姦事件の記事を見たことでパレスチナに渡って事件の痕跡を辿るという物語。
虐殺は個々人の人生を大きな出来事として括ってしまい、彼ら彼女らの人生を剥奪してしまうものだ。「とるに足りない細部」として。
この物語はそんなパレスチナで人知れず個人に降りかかる最悪をすくい上げるような作品であった。

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2024年12月19日

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「訳者あとがき」で、この作品が政治的な文脈で捉えられ利用されることに作者が強い違和感を持っている、との記述があった。その気持ちはわかる気がする。一人ひとりの人間に起きた出来事をその人のリアルな生の流れの中で描き出すための工夫や、二部構成で悲劇を巧みに変奏してみせる技量こそ、この作品の評価として取り上げられるべきだろう。とは言え、イスラエル/パレスチナに生きる人々のひとつの現実を思い知らされることも確か。いずれにしても、多くの人に読まれるべき本だと思う。

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2024年12月15日

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アラビア語の原題は“تفصيل ثانوي”、英語では”Minor Detail”。 ثانويはminorやsecondaryにあたる言葉らしく、副次的や従属的を指し、いずれにしろ「主流ではないもの」を意味するようだ。

著者はパレスチナ生まれ。現在はエルサレムとベルリンを拠点にしている。
本書の原著はアラビア語で書かれている。各国語に訳されているが、邦訳は重訳ではなく、アラビア語から訳されている。
第一部と第二部に分かれた中編。
いずれもテーマは、1949年8月、ナクバ(「大惨事」)に付随して起きた、イスラエル兵によるベドウィン少女の集団レイプ殺人である。第一部では、当事者のイスラエル軍将校の目から見た事件が描かれ、第二部は現代、パレスチナで暮らす女性が事件を知って起こす行動が一人称で綴られる。

第一部は三人称なのだが、視点はほぼ将校から離れることはない。任務はアラブ人の残党を一掃すること。しかし、日々、あまり大きな変化はない。宿営地から砂漠地帯のパトロールに出て、また戻り、眠る。そうした日々の詳細を淡々と追っていく。ある時、寝ていた彼は何かに刺される(文中には記載がないが、サソリだろうか)。その腫れはどんどんひどくなっていく。何日かして、パトロールでベドウィンの一団に出くわし、(おそらく大半を殺し)少女を一人宿営地に連れ帰る。
少女に対する記述も相変わらず淡々としたままだ。
食事の際、彼は兵士たちに向けて演説をする。アラブ人、特にベドウィンに対する偏見に満ちた捉え方は驚くほどだが、なるほど、本気でそう思っているのならば自らの正当性を疑うことはないだろう。
彼にとって、少女の一件は、何かに刺されてできた傷の腫れよりも「とるに足りない」ことであったのかもしれない。あるいはそう思おうとしていた、のかもしれないが。

第二部の主人公は、新聞でこの事件のことを知る。事件の日は、たまたま、彼女の誕生日のちょうど四半世紀前だった。彼女はその「とるに足りない」細部に引き付けられる。それでどうしても、その事件のことを自分で詳しく調べたくなる。そうするためには、自分が行くことのできない土地に向け、いくつもの検問を通り抜けなければならないのだけれど。親切な同僚や知人の力を借り、彼女はそこへ向かう。その詳細や彼女の思考が、丹念に、ほとんど改行もなしに綴られていく。
彼女の旅はどうにかこうにか進むが、最後に悲劇が起こる。

本作は、各国で高い評価を受け、ドイツでは2023年10月、ブックフェアで授賞式も行われるはずだったのだが、「反ユダヤ的」であるとの批判が起こり、式は中止された。ハマスの急襲に続く紛争の只中だったことも理由であろう。
確かに政治的に受け取られがちな作品ではあろうが、著者は自作が安易に現実や政治に重ね合わせられることを望んではいないという。
あくまでフィクションとして読んだとき、読者の胸に残るのは何だろうか。
大義や正義や主義主張、何かしら大きなものの陰で、とるに足りない、些細だと見なされたものは蹂躙されていく。それこそが実は人が生きる理由であるのかもしれないのに。
縦2メートル、横50cmの穴に横たわる少女は何を思うだろう。どうかその魂が安らかでありますように。

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2025年03月10日

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ネタバレ

登場人物2人の行動について、なぜその行動を取るのかわからないと思うことが度々あった。淡々とした記述が余計に描写をくっきりさせていて、状況は眼前に浮かんでいるのにそこにいる人の気持ちを理解できず、かなり動揺しながら読んだ。なぜそこまでするのか。わからないのは自分が今平和と幸せの中にいるからなのかなと思った。そして自分がパレスチナ問題についてあまりに無知なせいもあると思った。調べてみよう。

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2025年02月26日

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第一部 過去の痛ましい事件
第二部 事件を知った今に生きる人物がその痕跡を探す
今に続く人種差別、戦争。
過去の と書いたけど、決して風化していない現在進行形の厄災。
痛みは続いている。

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2024年11月23日

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パレスチナで起こっていることの片鱗、当事者の痛みや虚無感を苦しみとともになんとか言葉に変えて伝えていて、読みにくい重いと言ってる場合でなく最後まで読まねばならない と感じた。

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2025年09月10日

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イスラエル・パレスチナの知識が何もないまま読んでしまったので背景がうまくつかめず。とるに足りない細部に心を捕らわれてしまった女性が、自身も「とるに足りない細部」の一部になってしまった、というような話かな?

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2025年04月08日

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重い内容だった。

と書くことすら、不謹慎に思える。
今の日本で生活している私には、
空気、空の色、臭いそんなものも
別物に感じてしまうほど、
というか、想像出来ない環境。

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2025年01月18日

Posted by ブクログ

1949年にイスラエル軍がベドウィン少女を殺害した日と自身の誕生日が同じという些細なことがきっかけで、現代に生きるパレスチナ人女性が、まだイスラエルの占領が続く中でその事件の真実に近づこうとするお話。抑制された筆致で、現在のイスラエル/パレスチナ問題を文学に昇華させている。純粋な文学作品だと思った。

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2024年11月19日

Posted by ブクログ

いきなりの空気感で始まる小説。
イスラエルの地で起きた少女レイプ事件が加害者側から描かれた第一部と、事件の詳細を語るパレスチナ女性目線で描かれた第二部からなる。

なんの予習もなく始まるのでこの地域に何が起きているのか、地理やその気候を知っておくと入り込めそうだ。

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2024年10月20日

Posted by ブクログ

とても悲しく思う。しかもこれらが史実とは。
国という概念を持たず国境を意識せず自由に彷徨うベドウィンに想いを馳せた。

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2024年10月15日

Posted by ブクログ

感想
誰も気にしない。気にしたところで何も変わらない。人間の意識が届かない。だけれども確かにそこにある。人間の生活の空隙に。覗いている。

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2024年09月20日

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