あらすじ
「"小心さ""臆病さ"こそが武器である」「"怯えた動物"のように環境に鋭敏であれ」「"数字"の裏の裏の裏を読む」「目先の危機の"その先"に目を凝らす」――。約50年間にわたってグローバル・ビジネスの最前線で戦ってきた元CEOが教える、不確実な世界を生き抜く「経営の鉄則」!
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Posted by ブクログ
「原理原則」から外れてはならない
このように、経営において重要なのは、「真に恐れるべきものは何か」を見極めることです。
そして、私は、さまざまな経験を積み重ねることで、こう考えるようになりました。
経営には「原理原則」がある。経営者が真に恐れるべきなのは、その「原理原則」から逸脱することなのだ、と。
どういうことか?
先ほどの例に即して言えば、私が「原理原則」だと捉えたのは次の三点です。
第一は、為替変動は誰にもわからないということ。第二は、日々の事業活動によって適正な利益を生み出す「実力」こそが、経営にとって重要であるということ。そして第三に、その「実力」の源泉となるのは、現場の従業員との「信頼関係」であるということです。
しかし、当時のブリヂストンのように、事業を成長させる投資を行うために、銀行などからも多額の借入れをしているほか、装置産業という性格もあり、大きな資産を抱えている企業にとって重要なのは、すべての資産の効率化が求められる「ROA」だと考えました。
また、ROAの適正かつ理想的な数値は、産業や個々の会社の特性によって大きな幅がありますが、ファイアストン・タイヤのリコールの傷がいまだ癒えない状況や、ブリヂストンが掲げる「名実共に世界ナンバーワン企業の実現」という大目標を踏まえて、当社の歴史上初のグローバル連結目標としては十分チャレンジングな「6%」を目標に設定しました。
6%をグローバル連結ベースで達成すれば、当社としてはかなりよいレベルの企業体質になり、これを通過点として、さらに全社が一丸となって愚直に改革を進めていけば、必ず「名実共に世界ナンバーワン企業」になれると、深く考えた末に結論づけたのです。
このように、「自社にとって何が最適か?」という観点で、「経営指標」を活用することが重要だと思います。
私も「ROA6%」という目標を掲げた時点で、3兆2000億円ほどあった総資産額を、数年で2兆9600億円くらいまで圧縮しました。
しかし、それは単にROAの数字の見栄えをよくするためではなく、「名実共に世界ナンバーワン企業になる」という大目標を実現するために、次のような戦略を策定・実行していった結果にほかなりません。
戦略の根本に置いたのは、鉱山用超大型・大型タイヤ、高インチ乗用車タイヤなどの「高付加価値商品群」の強化・拡大です。それを実行できるようにR&D(研究開発)体制を強化するとともに、製造部門は、老朽化して競争力を失った工場を閉めて、今後拡大する「高付加価値商品群」を製造できる最新鋭の工場を増設するほか、これから市場が拡大する地域に競争力のある新工場を建設することを決定。さらに、既存の営業部隊を大規模に再編成して、確実に「玉」を売り切ることができる体制に強化していったのです。
では、どうすればいいのか?
私の答えは、「リーン&ストラテジック(Lean & Strategic)」です。
「リーン」とは「ぜい肉がなく引き締まった筋肉質」という意味。つまり、「ムダなお金は使わない」「節約できることは節約する」「意味のあるお金だけを使う」ということです。
そして、「ストラテジック」とは「戦略的」という意味。つまり、「ムダなお金は使わない」ことで、ぜい肉がなく引き締まった健全な組織体を築き上げるとともに、そこで浮いたお金を戦略的な「投資」に回すということです。
重要なのは、「ローコスト・オペレーション」のように「コスト削減」一辺倒に陥るのではなく、「リーン」と「ストラテジック」を必ずペアで考えること。そうすことで初めて、現場の協力を得ながら、「経営の質」を高めることができるのであり、その結果として「持続的成長」を遂げる企業にすることができるのです。
では、経営者はどうすればいいのか?
私にも確たることが言えるわけではありませんが、これまでさまざまな経験を重ねるなかで、経営者が絶対に押さえておくべきポイントが少なくとも二つあると考えています。
ひとつは、経営者自身が「この仕事(事業)には価値がある!」と本気で思っていること。もうひとつが、従業員一人ひとりの「自主性」「自発性」を尊重するということ。この二つのポイントを押さえておくことが、従業員が仕事に対するモチベーションを上げる基本条件ではないかと思うのです。
ただし、どうしても外してはいけないことがあります。
それは、「誠実さ」です。ここで言う「誠実さ」という言葉は、「職務に忠実である」といった意味合いで使っています。言い方を換えれば、「私的利益を追い求めるのではなく、どこまでも組織目標を達成することに徹する」といった意味合いです。
この「誠実さ」さえ備えていれば、どんなに尖った性格の人物であっても、必ず組織にとって有益な働きをしてくれると、私は思っています。
先ほどの財務担当者もそうでした。彼は、「周囲の人に対する共感性が低い」傾向が顕著で、軋轢を起こしやすい性格ではありましたが、彼の言動の根底には「組織にとって正しいことを成したい」という信念がありました。
だからこそ、彼は付度なく「鋭い指摘」をすることで、関係部署との軋轢を生み出しましたが、マネージャーである私が介入することで、「何が組織にとって正しいのか?」という共通の物差しを軸に、対立した部署との間で建設的な対話をすることができるようになったのです。
最後の最後は「これ」で決まる
ところが、なかには、このような「誠実さ」に欠けた人物がいるのも現実です。
もちろん、そういう人物に対しても、いたずらにネガティブなレッテルを貼って、能力を発揮する機会を奪うようなことをすべきではありません。
たとえ「誠実さ」に欠けた人材であったとしても、マネージャーがその欠点をカバーすることで、その人材をできる限り活かすことを原則とすべきだと思います。そして、その人なりの能力を発揮して実績を上げた場合には、しかるべき職位に引き上げることも、公平性の観点から重要なことでしょう。
ただし、それには限界があります。
端的に言えば、人事権が付与されるほどの職位にまで引き上げてはならないと思うのです。なぜなら、「誠実さに欠ける人物」が、人事権という強力な武器を手にするのは極めて危険だからです。
すでに述べたように、私が言う「誠実さ」とは、「私的利益を追い求めるのではなく、どこまでも組織目標を達成することに徹する」ことです。つまり、「誠実さに欠ける人物」が人事権をもつと、その武器を「私的利益」を守るために使い始める可能性が極めて高いのです。
「中途半端なジェネラリスト」は通用しない
これこそマネジメントの理想型ではないでしょうか?
最大のポイントは、シューマッハが思い描く「理想のドライビング(=あるべき姿)」に、チームメンバー全員が強く共感していたことだと思います。
そして、シューマッハの「理想」が共感を集めた理由は、それがそもそも魅力的だったこともありますが、それ以上に、「うまくいかなかったときにも、誰かのせいにするのではなく、常に自分の問題」として改善を続ける」とか、「メンバーに対する敬意を忘れず、お互いに納得しあえる〝最適解』をとことん追求する」といった姿勢にメンバーが共感していたからだと思います。
さらに注目したいのは、「プロフェッショナリズム」の重要性です。
シューマッハは、自分自身がドライビングというプロフェッショナリズムを極めていたからこそ、メンバーそれぞれの専門領域におけるプロフェッショナリズムに深い敬意を払っていたのだと思います。
一方、それぞれに尖った能力をもつチームメンバーたちが、シューマッハに対して深い敬意をもったのは、彼が卓越した実績をもつドライビングのプロだったからにほかなりません。
つまり、「プロフェッショナリズム」というものを軸に、メンバー全員が結束したからこそ、「激論を交わしながらも、きわめて高いモチベーションを発揮する」という高度なマネジメントが実現したように思うのです。
まず第一に、正しく怯えることが大切です。
経営者になったからといって、人間として立派なわけではありません。気を抜けばすぐに愚かなことをしでかす、不完全な存在にすぎません。そして、「権力」などという恐ろしいものを、完全に御することなどできないとわきまえたほうがいい。
そして、「自分が『騙し絵”に惑わされているのではないか?」「周囲におだてられしいるだけではないか?」「そのために誰かを苦しめているのではないか?」「組織を傷つけているのではないか?」とときに怯えるくらいでちょうどいい。このような自己チェックを常に欠かさないことは、経営者としての基礎動作ではないかと思います。
だから、私はCEOに着任して早々に、「トラブルは順調に起きる。仕事をしていれは必ずトラブルが起きる。いや、トラブルが起きているからこそ、仕事は順調だと考える」と宣言しました。
ビジネスというものは、どんなに完璧を期したとしても、こちらの見込みどおりには進まないものです。仕事をしていれば必ずトラブルは起きます。ましてや新しいことを始めるときには、すんなりとうまくいくことのほうが例外なのです。
そして、部下から「よい報告」を受けたときには、「そんなはずはない。順調にトラブルは起きるもんだ。そんな報告は信じないよ。第一、よい報告は必要ない。悪い報告でなければ報告とは認めない」と返事することを徹底しました。
これに最初はみんな驚いていましたが、CEOである私がそう言い張るものだかこ部下たちは仕方なく、特段のトラブルがなかったとしても、ちょっと気になることも教えてくれるようになりました。
それに対して、「そうか、それでどう対応しようとしているの?」と冷静にコミュニケーションを図って、解決策を共有すれば、部下たちも「これなら、トラブル報告をしても大丈夫。むしろそのほうが得だな」と思ってくれるようになります。
そして、だんだん「社長によい報告は不要。もっぱらトラブルを報告すればいい。そうすれば一緒に解決策を考えてくれる」という口コミが社内で広がっていったのです。このとき初めて、不祥事が起きにくい企業文化が芽生えるのだと思います。
だから、私は自分に何度もこう言い聞かせていました。
経営者は「原理原則」から絶対に逃げてはならない、と。
「生命を大切にする」「環境を大切にする」「嘘をつかない」「高い品質を保証する」など、当たり前の「原理原則」を愚直に守り続ける。それができたときに初めて、社員たちに課した「業務上の遵守義務」に内実が伴うのです。
経営が「原理原則」をおざなりにしておきながら、いくら熱心にコンプライアンスを社員たちに求めたところで意味はありません。
社員たちは、鋭い観察眼で経営者の「真贋」を見極めています。そして、経営者が一切の妥協なく「原理原則」を遵守する姿を認めたときにはじめて、社員たちも緊張感をもって「業務上の遵守義務」に向き合ってくれるようになるのです。
そして、侃侃諤諤の議論のすえ、次のような「企業理念」を策定しました。
ブリヂストンの「使命」として「最高の品質で社会に貢献」という言葉を掲げたうえで、「誠実協調」「進取独創」「現物現場」「熟慮断行」という四つの「心構え」を定めるとともに、それぞれの言葉の意味内容を、次のような短い文章で提示しました。
誠実協調:常に誠意をもって、仕事、人、社会と向き合うこと。そして、異なる才能、価値観、経験、性別や人種といった多様性を尊重し、協調し合うことで、よい結果へと結びつけること。
熟慮断行:物事を遂行する際は、様々な場面やあらゆる可能性を想定し、深く考えること。「本質は何か」を見定め、進むべき方向を決断すること。そして、スピード感をもって、忍耐強くやり遂げること。
Posted by ブクログ
2025/04/20「臆病な経営者こそ『最強』」荒川詔四
経営は数字ではなく「創造」
そして「人材」を最も大事にする
極めてオーソドックスで愚直だが、言い続けることは難しい
①米国のMBA経営が主流との思い込み
②新しいアイデアでないと受けないとの思い込み
いずれにしても90年代からの
欧米かぶれと日本的経営の否定が長い停滞をもたらした
「人を大事に、経営者の直観を大事に、そして前向きの投資を!」
これを取り戻さないと日本の経営に未来はない。
経営者は優秀さより「情熱を」大切にしてほしい。
先日亡くなった野中郁次郎先生の
「日本経営の失敗=3つの過剰」が思い出される
①計画の過剰
②分析の過剰
③法令遵守の過剰