あらすじ
生物進化はいたるところで起きており、そのうち時機を得たものだけが爆発的成功を遂げる。そして車輪が何度も発明された末ようやく広まったように、人類のイノベーションにも同様の法則が! 進化生物学が解き明かす、この世界の隠れたルール。解説/吉川浩満
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Posted by ブクログ
進化論では、突然変異が起こって新しい特徴や能力を持つ生物が生まれた後、自然淘汰によって、その生物が繁栄したり絶滅したりする。このとき、突然変異と自然淘汰の時間的間隔は小さいと想定されるのが普通だ。適した変異はすぐに広がるし、そうでないものはすぐ消える。
ところが、本書はそれに異を唱える。多くの生物の特徴が、進化によって誕生した後も長いこと「眠って」いて、その後に環境の変化によって繁栄を迎えたという。
その根底にあるものの一つが、有用な変異すなわちイノベーションの容易さだ。イメージに反して、革新的な進化は容易に生じる。眼やカフェイン分子は、生命の歴史上、複数回“発明”されている。そのもとになるDNA変異や酵素のゆるい特異性についても紹介する。
同様の論を、ヒトやその他の動物の文化、発明、芸術などにも展開する。歴史上、多くの革新的なものが複数回別個に発見されている。また、発見されても、それが成功を収めるまでに長い眠りが必要となる場合があることも、進化と相同性がある。
ではどうすればいいのかというと、適した環境を待たねばならない。というのは、なんだか悲しいことなのかもしれないけれど。
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進化そのものは容易に頻繁におきているというのは、少し驚きながらも納得しながら読んだ。細菌の進化が短期間で実験的に、再現を取れる形で起こせるのは興味深い。
進化に淘汰圧が必要だということを分かりやすく示す説明でもあると思う。
分子生物学的な知識の説明も詳しい。逆にいうと、それを知っている人からするとやや冗長に感じるかも。
人の発明とかにまで論を展開するのは、蛇足のような気がしてしまった。
Posted by ブクログ
【眠れる進化】 アンドレアス・ワグナー 著
何かのイノベーションが起こるには、「時期が来るまでじっと待ち」、それを「受け入れる環境が見つかってはじめて成功する」ということを、前半では著者の専門の進化生物学を通じて、後半では技術や文化の事例を取り上げて記述しています。原題は「Sleeping Beauties」(眠り姫)で、眠り姫が目を覚ますには、王子様が必要という例えです。
これだけを読めば「当たり前」なのですが、詳細な記述からは、これまでの進化やイノベーションが複合的に重なり合って生み出されていることが理解できます。
昨年、知床に行き、森の中の新しい苗木は、15年たっても30㎝ほどしか伸びないのに、大きな木の倒木で「日の当たる場所」になると、3年でそれ以上伸びることを目の当たりにしました。「みんな、日が当たるのをずっと待っているんですよ」というガイドさんの言葉を思い出しました。「苗木の力」に加え、偶然にできる「日の当たる場所」の両方が必要ということを本書を通じて再確認しました。