あらすじ
二度と戻らないつもりでいた桜の町に彼を引き戻したのは、一本の電話だった。
「高砂澄香が自殺しました」
澄香――それは彼の青春を彩る少女の名で、彼の心を欺いた少女の名で、彼の故郷を桜の町に変えてしまった少女の名だ。
澄香の死を確かめるべく桜の町に舞い戻った彼は、かつての澄香と瓜二つの分身と出会う。
あの頃と同じことが繰り返されようとしている、と彼は思う。
ただしあの頃と異なるのは、彼が欺く側で、彼女が欺かれる側だということだ。
人の「本当」が見えなくなった現代の、痛く、悲しい罪を描く、圧巻の青春ミステリー!
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Posted by ブクログ
あらすじを知らずに読んでみたら、お勧めする人が多いのも納得の、すごい作品だった。読み終えてもぐるぐると登場人物たちの未来や、自分だったらどうしたか、考えてしまった。まず設定に驚いた。でも監視社会がもっと進んだらこんな世界もありえないとは言えず恐ろしい。
知らない番号から主人公のもとに、過去のトラウマに関係のある女性が自殺したと告げる電話がかかってくるところからストーリーが進み始めるので、彼女に何があったのか、そもそも主人公とどんな関係にあったのか、どう展開していくのか予想がつかずどんどん読み進められる。だんだんとこの世界の仕組みが明らかになっていき、いくつも衝撃の事実が浮かびあがる。とにかく悲しい、苦しい話ではあるんだけど、だからこそ中学時代の尾上、澄香、鯨井の3人での楽しい時間が美しく輝いて見えてさらに苦しくなる。終盤、過去の出来事がすべて明らかになったあとの鯨井の最後の言葉はずっしりと心にのしかかってきた。現在が苦しいほどに、過去を思い返して「あの時ああしてなければ」とたくさんの仮定を考えてしまうよね。最後に少しの希望が見える終わり方で救われた。
Posted by ブクログ
タイトルからの印象とは異なり、カバーからも予想できるように、冬の物語だ。物語の舞台は明示されていないが、たぶん東北地方のある冬の長い、桜の季節はまだ遠い先のことである場所だと思う。
「さくら」はこの小説では、植物の「桜」のほか、そのもう一つの「サクラ」の意味も重要なポイントとなっている。もし、「サクラ」が人間関係のなかで当然のように存在するものになったら、私たちの日常生活はどのような影響を与えられるのだろうか。
物語の設定は少しSF小説的な要素がある。けれども焦点を当てられるのはその技術的なものではなく、注目されるのは、人々はその技術についてどう反応するのか、そしてその技術がもたらした様々な「制度」が、人々の人生にどのように介入しているのか、ということだ。
人間の心は複雑だ。その機微を解することが難しい。それを解決するために設けられた「制度」は、サポートでありながら余計な世話とも言え、勲章でありながら消耗ともなる。ある人が助かったと同時に、ある人が苦しみのどん底に追い込まれたこともある。小説全編を貫いた澄香の謎はその制度と深く関わっている。「制度」は主人公たちに多大な影響をもたらした。
とはいうものの、取り返しのつかない事態に発展させた最も肝要なものは、私たちがよく知っている、極めて典型的な感情。これはとても印象深い。
でも、だからといってがっかりしたということもなく、真相をわかった瞬間、言いようのない悲しさが波のように覆ってきたのだ。
人の心の優しさと残酷さを繊細に描き出す、切ない、哀愁の漂う物語。読み終わった後はただ祈る。これから「ひとつひとつの記憶に貼りつけてあった〈偽物〉の印を取り外」すことができるように (299)。いつかすべてを振り返るそのときは、もう制度の呪いから解放されるように。そして、いつか桜が再び咲き誇る日がくるように。
気づいたら読み終わっていた…
気づいたら最後のページで時間を忘れて読んでしまいました。設定から心情描写までしっかりと書かれていて最後のページを読んでスっと腑に落ちました。すれ違いの際の各個人の心情を読む度に自分もこういう事があったのかなぁと自分自身の経験照らし合わせてしまいました。最後の文章でハッピーエンドではないものの主人公としてはなにか心が救われたのかなと思いました。
Posted by ブクログ
面白かった
欺く側と欺かれる側
そんなキャッチコピーに惹かれたが、それだけではなかった
なにか信じるということ。本心だったり気持ちを聞く勇気、伝える勇気があれば起きなかったことが立て続けに尾上のもとにおきる。
サクラではないんだなー。
たしなに、自分も好かれようと演じている部分は少なからずある。それが本当の自分なのかと問われるとむ?とも思うが、そういう部分も含めて自分なのだと思いたい。
Posted by ブクログ
初めて読む作家。
かなり印象的な小説。
自身の身の回りにいる友人やふいに話しかける人が「サクラ」だったら?
我々は孤立している人に、良心だったり好奇心で話しかけたりするが、それは何なのだろうか?
自分でない自分として目の前にいる人に振る舞うのは本心なのか演技なのか?
ある意味、孤独を救済する小説かもしれない。
Posted by ブクログ
まず題名から騙された。そっちなんね。ゆくゆくは桜も出てくるんだけど、そんなん普通テーマにしないよ。
そしてそんな設定というか世界をよくも考えつくな。あり得ないんだけど、ほんの少しの可能性を秘めた世界線。故に怖くもある。
自殺を止める為の人材、プロンプター。
偽りの親友、恋人設定、ノー天気な人間なら幸せなんだろうけど、自殺を考える人間が繊細なわけが無い。
そこへバレた日には当たり前に人間不信になるよ。
でも騙されたと思っていた親友、恋人は本物だった。ありがちなすれ違いなはず、尾上は歩み寄ろうとせず、澄香は天才過ぎてプロンプター制度を利用しようとして墓穴を掘る。霞も同様。
頭が良すぎて暴走した感が更に悲しくさせる。
悲しい話、結末のはずだけど、実はだたの中学生の幸せな記憶だけだったんかな。後味は悪くない。
Posted by ブクログ
澄香が何を考えていたのか掴めずに物語が進行するが、最後に鯨井の手記から"尾上を自分のサクラにすることで、自分がサクラだという疑いを晴らして尾上にまた会いたい"という一心で突き進んできたことがわかるのが面白かった。
腕輪型デバイスで自殺リスクを計測される近未来的で無機質な世界で、孤独だった尾上に澄香が突然好意的に近づいた理由はプロンプターに選ばれたからという推察は合理的で自然に思えるが、本当はただ何かが琴線に触れ、恋に落ちただけという人間的で温かい情動によるものだったのが異質で美しく感じた。
英語タイトルのA Town of Fake Cherry Blossomsもサクラの訳が秀逸で素敵。
Posted by ブクログ
木の桜をイメージして読み始めたので、すぐそっちのさくらかとビックリした。特殊な設定で登場人物の性格もかなり特殊で、そんなことになる?って感じで暗い。
Posted by ブクログ
面白かった。ストーリーというより物語全体の雰囲気が切ない感じで好きだった。特にカスミと凍死の予行練習に至る流れは、物語の転調を予感させるもので読んでいて熱が入った。
設定や展開には都合が良すぎる点はあるものの特に気にならなったが、欲を言えば、実はスミカがドンデン返しで生きているラストを期待していた。
Posted by ブクログ
終盤で物語のヒロイン、澄香のことがわかってきて、やっぱりなーという気持ちと思ったより狂ってるぞという気持ちに。でももう少しどうこうならならなかったのか。
でも、鯨井と澄香と尾上の短くて、儚い友情がキラキラしてて好きだった。
この女の子との出会いは一生ものだと天啓のように思わせる運命の女の子を演じるのが天才的に上手い澄香、でも澄香の欲しいもの、考えていることは誰にも伝わっていなくて、理解されないまま死んでいったのが悲しい。鯨井だってせっかく友情を手にしたのに、澄香に狂わされたまま死んでいって、妹は罪悪感を抱えて死んでいく。主人公の周り、全員狂っててしんどい。