あらすじ
その惑星では、かつて人類を滅ぼした異形の殺戮生物たちが、縄張りのような国を築いて暮らしていた。幼馴染を殺害する罪を犯して祖国のヌトロガを追われたマガンダラは、放浪の末に辿り着いた土地で、滅ぼしたはずの“人間”たちによる壮大かつ恐ろしい企みを知ることとなる。それは惑星の運命を揺るがしかねないものだった。マガンダラは異種族の道連れたちとともに、再び足を踏み入れれば即処刑と言い渡されている祖国への潜入を試みる。日本SF大賞受賞作。/解説=円城塔/※『宿借りの星』の電子版では、電子書籍端末で見やすいようレイアウトや絵柄に手を加えたため、紙版とは異なる箇所があります。ご了承ください。
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Posted by ブクログ
ある星に移民した人類は、異星生物と意思疎通も不可能のまま交戦状態に入り滅亡。それから200戦。(年なのかな)人類は異性生物体内の寄生生物に形を変えて生き残っていた。すごい設定だ。
人類(の成れの果て)に寄生された宿主は精神が変容し、やがて彼らの社会も変えていってしまう。人類は昆虫に寄生するハリガネムシのようだ。
造語の嵐で当初は困惑しますが、非常に濃厚な読書体験でした。
Posted by ブクログ
奇妙な世界。文字通りならおぞましい世界。
だけれど、途中からとても魅力的で、なぜか居心地の良さすら感じる。
とても(語弊があるけど)素敵な、ずっと旅していたい世界だ。
まったく異質な生態や文化が、そこに住む者たちの視点で次々描かれる。我々…卑徒(ひと)に向けた説明はない。
あれはなんだこれはなんだ。
けれど読み進めると、我々卑徒にもなんとなくこんなものかな?がわかってくる。
事細かに詳細を説明しなくても、その文化がわかってくる。
最初は面食らう異世界だけれど、主人公たちとめぐるうちに「身についてくる」。
そう、語座跨ぎって本来はタブーだよね…。
そうして、異質な世界、異様な生態で生きる者たちのことも、知り合いか親戚、職場の苦手な人や友人のような気持ちになる。
実に不思議。
主人公、その相棒?、彼らのお目付け役の夫婦…彼らも異様で異常な生命体だが、どこまでも親しみをもって読める。
あの3人組(4人?)は本当に好きだ。
ラストは久々に泣きそうになった。
うーん、この展開は弱いなぁ。
以下、より卑徒な感想。
「おぞましい世界観なのに、まったく後味が悪くなく、むしろ登場人物を中心に愛おしく、素敵な物語」。
この話に近い印象なのは、アニメ『JUNKHEAD』。
異様な地下世界で、人死も出るのだが、出てくる登場人物はクセがありながらも、割合普通な人が多く、時に優しさや、卑徒臭さも感じられて、愛おしくなる。それに近いかも。
結局は世界観以上にそこの住人次第なんだろう。
お昼のドロドロドラマより、人間関係がこじれるイベントのある青春小説より、こちらの世界のほうがストレス無しで読める。
そして、日本に住む卑徒としては
「漢字ってすげえ、日本語ってすげぇ」。
これに尽きる。
Posted by ブクログ
そこに広がるのは、虚空。黒々と深淵たる、虚空。
カニとサソリを足して2で割ったようないかつい姿のズァングク蘇倶・マガンダラと、アリが直立したような姿のラホイ蘇倶・マナーゾの、異世界弥次喜多珍道中。
・・・と思いきや、最後の最後にとんでもなくスケールの大きいハードSFの芯がぶっ刺さり、文字通り世界がひっくり返る、壮大無比な作品です。
作品の舞台となる惑星・御惑惺様<みほしさま>には、かつて卑徒<ひと>を滅ぼしたといわれる甲殻類めいた生き物たちが、様々な蘇倶<ぞく>に分かれ、ある時は闘い、ある時は協力し、ある時は捕食し捕食されながらも、独自の社会を形成し、巨大な甲殻類の御侃彌様<おかんみさま>を核とした倶仁<くに>を築いています。
この生き物たちが、もぅとんでもなく魅力的!兄貴肌のマガンダラ、おっちょこちょいに見えて意外と気が利く子分肌のマナーゾ、マガンダラを敵視しつつも親しみを感じているズンバルカ、泰然自若とした頑固肌の砲載様・・・姿かたちは人間から全くかけ離れているのに、マガンダラと一緒にこの世界を旅することで、いつのまにか彼ら彼女らに親しみを覚え、その生き様に慈しみを感じるようになっていきます。特に、ガゼイエラとラジュリンワの両姐さんの、小股の切れ上がった女っぷりの良さといったら(甲殻類ですけど)!心底惚れ惚れしますわ。
登場人物たちのみならず、衣食住や土地の様子などの世界観を、酉島節全開の造語を駆使しながら分厚く緻密に織り上げてゆく様は、まさに酉島作品ならではの面白さです。やっぱり長編向きの作風なんだなー。
そんな楽しくユーモラスな世界の中に一石を投ずる、卑徒<ひと>の姿をした「仲裁者」の登場。
どうやら卑徒<ひと>は姿を変えて生き残っており、ある策略を長期に渡って秘密裏に進めていることが、物語の中盤で明らかにされます。
そして最後に明かされる、驚愕の真実。
御惑惺様は、もともとこの宇宙にあったのではなく、別の並行宇宙に存在していたこと。
その「別の宇宙」は、この宇宙よりも年老いてエントロピーが増大し、「熱的死」を迎えつつあること。
マガンダラたち各種蘇倶<ぞく>は、「別の宇宙」の諸惑星から御惑惺様の意思によって寄せ集められた者たちの末裔であること。
御惑惺様が生き物たちを集めたのは、自らの表面(!)に存在するワームホールを通って若い並行宇宙に移動し、「熱的死」を避けるためであること。
しかし、その結果、この宇宙全体の質量総量が増大してしまい、時空のバランスが崩れてしまったため、御惑惺様は卑徒<ひと>=地球人類によって破壊される運命にあること。
破壊を免れるには、再びワームホールを通って元の宇宙に帰還するしかないこと。
卑徒<ひと>=地球人類によって体内に卑徒虫を宿した者たちは、この宇宙に残ることが許され、御惑惺様を離れます。
しかし、マガンダラは御惑惺様に留まり、それまで宇視<うみ>の底の穴だと認識していたワームホールを潜り抜け、元の宇宙に到達します。
遠くない未来に熱的死を迎える宇宙は極限まで広がっており、目に見える範囲に恒星はほとんど瞬いていません。
そんな漆黒の深淵を、永遠の虚空を、仰ぎ見るマガンダラ。共に元の宇宙にやってきた、今は亡きマナーゾの妻と子供たちを守り抜くことを心に決め、この物語は幕を閉じます。
御惑惺様がマガンダラたちを載せて自らの表面にあるワームホールを潜り抜ける描写は、圧巻の一言です。古典落語「頭山」の世界ヽ( ´—`)ノこれぞSF、といえる驚愕の世界が広がります。
しかし、この物語の本質は、ラストシーンでマガンダラが虚空を仰ぎ見て感じる壮絶なまでの寂寥感にあると、鴨は思いました。それもこれも、ここに至るまでの登場人物たちの楽しくて豊かなやり取り、いつの間にか引き込まれてしまう異世界の描写が徹底しているからこそだと思います。
読者の「酉島伝法リテラシー」が試される作品ではありますが、前作長編「皆勤の徒」よりも遥かにエンターテインメント性が増して読みやすいです。ぜひチャレンジしてみてください!