あらすじ
ロンドンはテムズ川沿いの閑静な高級住宅地リヴァービュー・クロースで、金融業界のやり手がクロスボウの矢を喉に突き立てられて殺された。門と塀で外部と隔てられた、昔の英国の村を思わせる敷地のなかで6軒の家の住人が穏やかに暮らす──この理想的な環境を、新参者の被害者は騒音やプール建設計画などで乱していた。我慢を重ねてきた住人全員が同じ動機を持っているこの難事件に、警察から招聘された探偵ホーソーンは……。あらゆる期待を超えつづける、〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズ第5弾!/解説=古山裕樹
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Posted by ブクログ
翻訳ミステリの売れっ子、アンソニー・ホロヴィッツによる「作家アンソニー・ホロヴィッツと探偵のダニエル・ホーソーン」(ホーソーン&ホロヴィッツ)シリーズの第5弾が本作『死はすぐにそばに』だ。
ホーソーン&ホロヴィッツシリーズの大きな魅力の一つが、実際は大して推理能力もないのに自信満々なホロヴィッツが、ホーソーンのアドバイスを無視して暴走し、痛い目を見るといったところにある。実際にこれまでに彼は2度も犯人に刺されているし、警察に逮捕されて留置所にぶち込まれてしまったこともある。前回の作品でも、ホーソーンがうまく立ち回ってくれなければ、起訴されて作家人生がそのまま終わっていてもおかしくなかった。
そういったドタバタぶりを楽しむファンにとってはやや残念なのは、本作はあらすじにも書いたように、過去の事件を取り上げているということだ。常に一応は解決したことになっている事件を取り上げるということで、当然アンソニーが実際の犯人に対して推理をぶつけるということもないし、ミステリー風に関係者一同を集めてホーソーンが事件の真相を話すということも、リアルタイムでは行われない。あくまで今回のアンソニーの仕事は過去の事件に対する再構築であり、取材者というよりは評価者といった趣にある。
とは言っても、もちろんこのシリーズのことだから、単に過去の事件を回想するだけといった話にはならない。物語には大きく2つの謎がしっかりと仕掛けられている。
その1つ目の謎は、シリーズ愛読者にとってはおなじみの、ホーソーンという人間は結局何者なのか、という問いだ。シリーズの中で、元警察官であったホーソーンは、幼児ポルノ関連の犯罪を犯した人間を階段から突き落とした疑惑で刑事をやめ、その後はロンドン警察のコンサルタントとして活動してきたことが語られている。
しかし、それほど忙しいとは言えないコンサルタント業だけで生活が成り立っているのかという疑問や、過去に何度かアンソニーも訪れたことがある殺風景な家に一人で暮らしている理由は何か、といった疑問に対しては、まだ明確な答えが得られていない。本作ではアンソニーが過去の事件を調べるといった口実で、少しずつホーソーンの正体に近づいていこうとする。これまでのようなドタバタはない代わりに、静かに一歩一歩、ホーソーンの正体が明らかになっていくというのが、本作の魅力の一つだろう。
もちろんこのシリーズはまだ続くだろうので、彼の謎にまつわるすべてが公開されたわけではないが、それでも彼が現在どのようにして生計を立てているかがわかるといったことだけでも、大きな一歩だろう。
そしてもう一つの謎は、本作でアンソニーが小説の中で取り上げる事件の対象となる、5年前に発生したリヴァービュー・クロースでの殺人事件だろう。鼻持ちならない大金持ちの隣人が、何者かによって喉にクロスボウを突き立てられて殺されたというこの事件は、物語の中では警察により隣人の犯行として処理がついている。正確に言えば、その隣人には明確な証拠はなかったのだが、遺書を残して自殺をしたことで犯人という形になり、事件は幕引きを図られてしまったのだった。
5年前の事件が発生した段階では、ホーソーンと、彼のかつての助手であるジョン・ダドリーは、真犯人に近づく有力な情報を得ていたのだが、管轄する刑事が積極的に捜査を進めなかったことと、あと一歩で詰めが甘かったことにより、犯人と思われる人間を取り逃してしまう。ホーソーンにとっては思い出したくない事件の一つであり、そしてこの事件をきっかけとして、かつての助手であるダドリーとホーソーンは袂を分かつことになる。
現在の助手役であるアンソニーは、小説の中でこの事件の犯人をもう一度洗い直すという作業をするとともに、かつての助手であるダドリーがホーソーンと別れることになった理由も追いかけようとする。最終的にこの2つの謎は1つの推測へと収斂していくのだが、なにせ劇中では5年前の事件であり、また容疑者が事件の発生後半年経って転落死をしたということから、永遠に真相は分からないまま、本作は幕を閉じる。
近代的な装いをかぶっているとは言え、本質的には古典的なミステリーの王道を行くこのシリーズにあっては、この結末が曖昧なままで終了するのは、かなり異色だとは思う。とはいえミステリーにおいては、「犯人は探偵が生み出す」という言葉があるように、実際に解決したと思われる事件であっても、時には名探偵が生み出した筋道に沿って事件が再解釈されているだけという場合もあることは、過去の名作があぶり出してきた一つの真実でもある。
そういった意味においては、アガサ・クリスティを範とすると言われているこのシリーズも、伝統的なミステリーのシリーズものの一つとして、本作のような作品が必要だったのかもしれない。本作を読み終えた今この段階では、結局のところ5年前の事件が本当は何だったのか、あるいはその後の真の犯人と思われる容疑者の転落死は誰が引き起こしたのかといった事件の謎だけではなく、ホーソーンという人間は何者なのかといった謎も、ほとんど解かれることなく、一つの解釈が提示されただけに過ぎない。それでも、おそらくまだまだ続くであろうこのシリーズにおいて、本作のような、いわば幕間の物語というのは、読者にとっても筆者にとっても、必要な寄り道だったのではないかと思わずにはいられない。
Posted by ブクログ
今作は今までとは違い、ホーソーンとホロヴィッツが出会う前の事件を本にすることになる。
事件が起きた過去パートと現在のホロヴィッツパートがありそれぞれが交差していく様が面白い。
今回はホーソーン自身の謎にも迫っている部分があって事件だけではなく読みどころが満載でした。
ラストの真実にハッとさせられました。自分のすぐ側にももしかしたら悪意が転がっているのかもしれないと思うと怖くなりますね
Posted by ブクログ
ホーソーン&アンソニーシリーズ5作目。
こんなにおもしろかったっけ!てくらい今回は先が気になった。翻訳物なのにこのわかりやすさもすごい。でも登場人物はなかなか覚わらない!笑
医者と歯医者が紛らわしい…
アンソニー、作者の謙遜なんだろうけど相変わらず会う人会う人なかなか歓迎されないし本もおもしろかったって言ってもらえない…現実との乖離。
今回は現在の事件についていくのでなく、ホーソーンの過去の事件にせまっていく。
金持ちばかりが集まるリヴァービュークロースで、“最悪の隣人”を殺害したのはだれか?
有名なオリエント急行の話もでてきたりして、めちゃくちゃ面白かった。
今回もまたしてもホーソーン自身には近づけず。次回作もたのしみ。
Posted by ブクログ
私の横溝先生(笑)を、ホロヴィッツ先生が評価してくださっている事が嬉しい。続編が楽しみだ。(2025-03-28L)(2025-04-16L)
Posted by ブクログ
ホーソーンが関わった過去の事件。
高級住宅地リヴァービュー・クロース内の新参者ケンワージー一家はいわゆる″最悪の隣人″だった。
深夜に大音響のカーステレオを鳴り響かせて帰ってくる。共有の私道に車を乗りつけ他の車の通路を塞ぐ。子ども達は制御が効かず中庭で暴れ放題。そうかと思うと他人のペットの立ち振る舞いには苦情をわめき散らす。
何とか穏便に和解しようと話し合いの場を持とうとしてもドタキャンにより不成立。
これじゃあ埒があかないと思っていた矢先、一家の主ジャイルズがクロスボウで喉を射抜かれ死体で発見される。
クロスボウの持ち主はリヴァービュー・クロース内の住人の一人のものだが、他の住人も持ち出すことは可能だったし、動機に至ってはここの住人全員が持っている。
困難を極めることが予想されたため、ホーソーンが招聘され調査に乗り出す。。。
やっぱりめっちゃ好きだー。
ときに出会うずーっと読んでいたいタイプの語り。
翻訳物なのに圧倒的にわかり易いし、ホーソーンの飄々とした皮肉っぷりににやにやするし、現実と溶け合うメタフィクション風味だったりがとっても面白い。
その時点、その時点が楽しいので結末が気にならない(さすがに言い過ぎ)。
本筋の事件だけではなく徐々にではあるがホーソーンの周囲(関わっている組織)が明らかになってきたところも本作の読みどころ。
すごいトリックとかがあるわけでもないし、むしろ終盤は尻すぼみ感のほうが強いかなーとも思うけれど、最終盤の2段落ちなどはホーソーンの真の人柄を補強する面のような効果もあり、このシリーズの行方が益々気になる読後感。
早く次作書いてー。
でも、anthonyhorowitz.com覗くとまだ原書でも次作は出てない模様。むしろ『Marble Hall Murders』が推されていたので、次はスーザン・ライランドものか。
ホーソーンものの方が好きなんだけどなー。
このミス2025年度版海外編3位。
Posted by ブクログ
これまでのシリーズ他作品とは異なり、ホーソーンが過去に関わった事件の話をアンソニーが書く形。ただ単に過去の事件の話を書くというのではなく、筆者であるアンソニーが現場を数年越しに訪れたり関係者と話したりなど、時間の交わる構成が面白い。事件自体も囲まれた高級住宅地という舞台やそれぞれちょっとずつ怪しい住人たちなど雰囲気が好みだった。
ただ、アンソニーがダドリーの存在からホーソーンの謎に踏み込んでいくのも面白くはあるが、事件とホーソーン(ダドリー)の謎という二つの軸で進んでいくためか、若干事件の方が物足りない感じがしてしまった。