あらすじ
戦後のジャーナリズム研究で、鈴木庫三は最も悪名高い軍人である。戦時中、非協力的な出版社を恫喝し、用紙配給を盾に言論統制を行った張本人とされる。超人的な勉励の末、陸軍から東京帝国大学に派遣された鈴木は、戦争指導の柱となる国防国家の理論を生み出した教育将校でもあった。「悪名」成立のプロセスを追うと、通説を覆す事実が続出。言論弾圧史に大きな変更を迫った旧版に、その後発掘された新事実・新資料を増補。
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Posted by ブクログ
この本を読んでいる間に参議院の選挙がありました。選挙期間中、そして選挙結果に覚える心のざわめきと本書の描く昭和になる前後から日中戦争、太平洋戦争に突入までの社会の空気がなにかシンクロしているようで非常に強い読書体験になりました。トマ・ピケティ「21世紀の資本」を読んだ時、戦争が社会格差を解消するイベントである、という指摘に動揺したを覚えています。本書を読んで戦争だけでなく軍隊も階層格差を平準化を可能にする装置として存在していたのだと感じました。第一章の始めに記載された松本清張「紙の塵ー回想的自叙伝」の「ここにくれば、社会的な地位も、貧富も、年齢の差も全く帳消しである。みんなが同じレベルだ」という言葉が象徴する持たざるものの能力発揮が主人公の鈴木庫三の希望であったのだ、と思います。自身の圧倒的な勤勉さによる努力による人生デザインは陸軍内では陸大出身者「天保銭組」に対する対抗心、出版界においては既得権を持つ人々への指導として一貫しているのでした。平等に対する信念が社会主義的なものに近づいていきましたが、本人は全くそこには無自覚な純粋さ…組織の外では反発され、組織の中では浮いてしまう、そんな人物に光を当てた著者の長年の研究に尊敬を感じます。(増補版あとがきは研究活動のバックヤードとして必読です!)鈴木庫三が「国防国家」のために目指した「教育国家」が戦争の勝利を必要としなかったという結語も心に刺さります。そしてそれが現代の問題であることも。それにしてもメディアの戦争責任回避策としての歴史の改竄問題も極めて考えさせられるテーマでした。リアル、フェイクはデジタル時代に生まれたわけではないのです。