【感想・ネタバレ】岩に牡丹のレビュー

あらすじ

鉱山の指導で秋田を訪れた平賀源内にその画才を見出され、『解体新書』の絵師に大抜擢された下級武士の小田野直武。故郷に戻って安穏と暮らしていたが、江戸出仕の密命が下る。源内は老中・田沼意次と秋田の佐竹家を強請ろうとしていた。講釈の発禁本、銀札の改定、蘭画、相次ぐ変死など、史実に基づく歴史ミステリの佳品。

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Posted by ブクログ

初出2023〜24「小説新潮」

 秋田藩(久保田藩=佐竹家)の家臣に小田野武助(直武)という画家がいて、江戸で平賀源内・司馬江漢から蘭画を習い、杉田玄白の「解体新書」の挿絵を描いたというのは史実なのだろう。

 源内が佐竹家の存亡にかかわる密書を持っているという情報がもたらされたため、この武助が源内の許に密偵として送り込まれる。武助の才能を見出したのは直接の主人である佐竹一門の又四郎だったが、藩主となる次郎に紹介したため武助は次郎のそばに仕え絵を教えていた。この3人の微妙な関係と、久保田藩が置かれている財政難と、10年余以前の銀札騒動での改革派藩士の大量処分事件の余波が物語の背景にあることがだんだんわかってくる。
 武助は源内から密書を手に入れるが、それは源内のパトロンだった田沼意次の貿易品横流しの犯罪証拠で、佐竹藩がらみではなかったが、田沼によって源内が消される恐れがあって、武助は安全のために「謹慎」とされて久保田に戻されたものの、暗殺される。
 それぞれの人物の絵への純粋な情熱が、血生臭い権力闘争によって阻まれるのがやりきれない。

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2025年03月19日

Posted by ブクログ

「六郷宿は、雪の訪れこそまだないものの、吐く息が白くなるくらいには冷え込んでいたはずだ。」「道端の小暗い木陰には霜が降りていたかもしれない。」という描写が冒頭にあり、「おや」と首を傾げた。この小説はどういう視点で書かれているのだろう。想像や予測、そんな視点は作者自身の視点でしょうか。少なくとも、この2文、語り手は現場にいないのだね、と思いながら読み進めたが、これ以降はすべて、語り手は現場に寄り添っていた。ここだけなのですね。
ストーリーは面白かったのですが、もう一点、読み進めるのに抵抗を感じたのは、途中に出てきた「怒り心頭」という表現。歴史小説・時代小説をその当時の言葉だけで書けなどという、そんな無理無体なことを言うつもりは毛頭ないのだが、「怒り心頭に発する」からの後半省略するような言葉遣いがこの作品の雰囲気にふさわしいかというと、私にはそうは思えなかったのです。
作品全体は、とても面白く読みました。
小田野直武の死は、いまだ定説がないような状況で、それに一つの解釈を見せてくれたのはとても興味深いものでした。秋田蘭画を作った3人が、それぞれの思い、地位、で動いていく、そのすれ違いや交流が、なんとも悲しく、美しく描かれています。それに対する源内の奇矯さは内容十分であるものの、そこにいたる経緯をもっと書いてほしかった。田沼の不気味さももっと書いてほしかった。
「背景が沈んでおればこそ、鮮やかな花に目がゆくもので……」途中で出てきた言葉。印象に残ります。
これは、一冊の本としてまとめて読むより、連載の形のまま、一章ごとに時間をおいて読んだほうが味わいのある作品かもしれません。語り手と時間の動きがそのように作られていると思いました。

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2025年09月03日

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ネタバレ

良い。
品のある作品。
江戸時代、戦は無かったが、武士の時代で血なまぐさい組織を守る水面下の戦いはあった。なんか、組織のために個人が犠牲になる構図は今も変わらない。

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2025年01月25日

Posted by ブクログ

平賀源内が武助に託した密書。其処には一体何が書かれていたのだろうか…己の保身に権力を行使し、描画を嗜む彼らを無き者にする田沼意次に憤慨。田沼の底知れぬ欲深さは噂通りであり、また源内の最期は想定外だった。

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2024年11月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

秋田蘭画と佐竹騒動の後始末を巡る歴史ミステリー。

小田野直武と秋田蘭画はなんとなく知っていましたが、本作の三人の主人公たちの画に対する真摯な向き合い方が清々しい。
美術歴史小説としても、お家騒動時代小説としても面白く作れそうな素材を源内の死や直武の死をミステリー仕立てにしているところが面白いです。
ちょうど同じ時代の大河ドラマを見ているのですが、源内、田沼以外で共通登場人物は平沢常富で、尾美さんのイメージで読んでしまいました。
大河ドラマと違ってこの小説の田沼は怖いですが、それ以上にお家大事の主人公たちの前の代の老臣たちはもっと怖いです。
後味の悪いエンディングですが、各話のタイトルとなっている絵があるのはありがたいもののできればカラーで見せてほしかったです。

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2025年05月21日

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