あらすじ
正反対の武士コンビは、江戸の刀剣商に駆け込むが
故里の毛利藩を出て、波乱の旅を続けてきた嘉一郎と助八郎。毛利家家宝の刀を江戸の高名な刀剣商・備前屋へ持ち込んだ。助八郎の勝手に振り回されながらも「助太刀稼業」で名を挙げる嘉一郎はある日一万八千両もの借財があるという譜代大名の屋敷へ赴くことに。案内の小姓の姿が消えた時、不穏な声が響き、危険が迫る――
剣の修行と商人の交わりを通し、世の中を学び成長する武士の爽やかな姿を描く、シリーズ第二巻!
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Posted by ブクログ
佐伯泰英「助太刀家業(ニ) もどき友成」(2024年8月文庫本書き下ろし)
一巻で助太刀家業をしながら武者修行の旅で豊後国(九州の大分あたり)から大坂、京へと渡った神石嘉一郎は目指した江戸を前にして小田原の直心影流長沼道場で稽古をする。滞在を請われたが何か応対が気に掛かったので辞去し、江戸へ向かうと川崎宿で毛利助八郎が待ち構えていた。何と安易な再会である。もっと劇的な再会を想像していたので肩透かしな感じで、自分勝手で横柄な立ち振舞いも変わっていない。
もうこの御仁との関わりには感動的なことは期待出来ないと判り、嘉一郎の前から完全に消えて貰って結構と思いながら読んでいくことにしたのだが、その助八郎を打ちのめすことが起こる。
佐伯藩毛利家から持ち出した銘刀“古備前友成”が偽物であることが、刀剣商「備前屋」の大番頭(国蔵)の鑑定で明らかにされたのだ。
そして助八郎と共に嘉一郎が「備前屋」と関わったことで“助太刀家業”に拍車がかかることになる。「備前屋」の裏稼業が“金貸し”であったためだ。すなわち国蔵の“貸し金取り立て”に嘉一郎の“助太刀家業“が大きく寄与していくことにになる。
それにしても借りた金を返さない御仁が次から次へと登場することに先ず呆れるが、いずれも腕の立つ用心棒を抱えており、勿論全て嘉一郎は難なく倒して何千両という大金を「備前屋」は簡単に取り返すことができてしまうのも気持ちいいを通り越して呆れてしまう。ちょっとリアル感がない。しかも嘉一郎の前任の「備前屋」の用心棒達が何人も死去していて、それで「備前屋」の稼業が続いているのも何か変な気がする。
因みに嘉一郎の「備前屋」の“助太刀家業”で「備前屋」が貸金の取立てでの金額は3件で20,924両になる。
1件目は『赤坂氷川明神社』、30年前に社殿建替えた折りの「備前屋」の貸金が574両。嘉一郎の立ち会う相手は明神社の権禰宜(正代祐禎)が雇った刃と柄が同じ長さの長巻を操る武芸者(大沼湛斎)だったが、稲妻が長巻に落雷しあっけなく死去する。嘉一郎の報酬額は29両。
2件目は『弔い屋/椙田伝兵衛』、8年前に平賀喜藏から借り受けた2350両の回収を平賀喜藏から請け負った「備前屋」、伝兵衛が雇った鞭を操る願人尼(文乃)を峰打ちで倒す。嘉一郎の報酬額は117両2分。
3件目は『丹後宮津藩 松平家江戸家老 佐久間万葉』、佐久間万葉がある目的の為に「備前屋」から借入した18000両、万葉は浪人や柳生新陰流の剣客を雇って国蔵や嘉一郎を殺して証文を奪おうとするが、ことごとく嘉一郎の剣の前に屈服し、「備前屋」は18000両全額の回収に成功する。嘉一郎の報酬額不明。
しかし嘉一郎は報酬を受け取らないのだが、「備前屋」国蔵は預り金として記し、いつでも使える資金として嘉一郎も承諾している。
助太刀家業が板について来た嘉一郎、1820年10月に豊後国佐伯藩を脱藩してから3年が経ち、もう1823年の春先になっているらしい。毛利助八郎と下野江睦がどうなったのか、またもやわからない。
嘉一郎の道場や助太刀家業での剣客としての並外れた強さに感動さえ覚えるが、この時代助太刀家業というのは許されたのだろうか、許可なく果たし合いで人を斬ってもよかったのだろうかと疑問を持っていたが、今回は斬らずに倒したので、助太刀家業はこういう方向なのかなと勝手に思ってしまった。
どちらにしても金のための用心棒であることに変わりなく、これでいいのかなとちょっと考えてしまう。並外れた剣術の強さが更に磨かれ、嘉一郎が目指した武者修行の目的を達成することを願わずにはいられない。
Posted by ブクログ
舞台は江戸へ。助太刀稼業が軌道に乗り、益々冴え渡る神石嘉一郎の剣戟がスピーディ且つ迫力満点の筆致で描かれ手に汗握る。
剣の修業を通して世間を知り、金にまつわる事件に巻き込まれる内に嘉一郎がさらに逞しくなって来たようで思わず目を細めた。
恋の予感もあり、目が離せない!
それに比べて助八郎の情けなさには拍車が掛かるばかり。歩けばトラブルを招聘するから甚だ迷惑極まりないが、何故か憎めない。
古備前友成が贋物と分かっても愛着が湧いたと言い出したり、へらへらしてても内実妾腹を気にしていたり人間味が豊かだからだ。
このふたりのやり取りがユーモラスで面白く、ずっと見守っていたい名コンビだと思うのだが、次巻で完結とは寂しい限りである。