あらすじ
毛利藩を飛び出した武士コンビの冒険! 新シリーズ
時代は文化文政。
豊後毛利家の徒士並・神石嘉一郎は貧しい生活を強いられていたが、三神流の遣い手として、武士の勤めを果たしていた。しかしある日、身に覚えのない罪を着せられて脱藩を余儀なくされてしまう。
豊後を離れて、大阪へ向かう船で嘉一郎を待ち構えていたのは、豊後毛利藩の三男で、藩では「控え」「もどき若様」などと軽んじられていた毛利助八郎。この助八郎が家宝の刀を持って藩から抜けようとしたことで、
騒ぎは大きくなっていき――
なぜか旅をともにすることになったものの、カネもない、伝手もない。
果たしてこの「負け組コンビ」に未来はあるのか?
待望の新シリーズ始動!
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
佐伯泰英「助太刀家業(一) さらば故里よ」(2024年7月文庫本書き下ろし)
時は1820年10月、主人公は九州の佐伯藩毛利家の家臣(神石嘉一郎、23歳)。貧乏侍ながら剣の腕は三神流の遣い手で右に出る者はいない。その神石嘉一郎が藩上役の不正の罪を被せられ、逃れるために脱藩して一人大坂への武者修行の旅に出る。
その嘉一郎を追ってその旅に同行を強いて来たのが、毛利家の妾腹の三男で若様とは呼ばれずに“ワの字”と馬鹿にされて呼ばれる(毛利助八郎、19歳)で、嘉一郎と同じ道場の門弟仲間でもあった。佐伯藩には自分の居場所はないと考えての脱藩だが、路銀の代わりに毛利家の宝である銘刀“古備前友成”を持ち出して来ていた騒動が降りかかることになる。
そしてその“古備前友成”を取り返す役目を負ったのが嘉一郎の上司で浦奉行兼銀奉行の(下野江睦、38歳)で助八郎を追う。
嘉一郎の旅の目的は”武者修行“で助八郎は邪魔な存在ではあったが、無理矢理同行してきて、嘉一郎の剣術道場での稽古を金儲けの道具にしようとする。嘉一郎は大坂で評判の”三宅八左衛門道場“の門弟との稽古に臨み、高弟7人衆との稽古で圧倒的な力の差を見せ、暫く三宅道場に居候して指導することになる。
そして嘉一郎が脱藩せざるを得ない状況を画作したのは助八郎かも知れないことを聞き、助八郎を問い詰めると助八郎は江戸へ行くために一人京へ向かったことを知る。ここでどう言う訳か嘉一郎と関わる助八郎の存在が消える。
そこに”三宅道場“の嘉一郎の元へ下野江睦が助八郎を訪ねてやって来る。助八郎が京へ向かったことを知ると嘉一郎を説得して助八郎を追って一緒に京へ船で向かうことになる。
その船の中で強盗事件が起き、3人の浪人の強盗を嘉一郎が川へ叩き落として、船の乗客をも助けるのだが、その乗客の一人、京の旅籠「たかせ川」の隠居(梅鴛)と親しくなる。
そして紹介された朝廷と関わりある京一と言われる金裏一刀流の「荒賀道場」で稽古をするとその特殊な舞うような動きを瞬時に会得してしまう。
その能力に驚いた道場主(荒賀公麿)と師範(和倉)に梅鴛は進言し、嘉一郎は臨時師範として通いながら稽古をすることになる。
梅鴛からその人間性をも蔑まされた下野江睦は離れざるを得なくなり、嘉一郎は一人武者修行に戻り、ここで下野江睦とも縁を切り、嘉一郎と関わる下野江睦の存在もここから消える。
次に梅鴛は嘉一郎に『助太刀稼業』と名付けた稼ぎ仕事を提案するのだが、その仕事とは大名家の京屋敷への借財の取り立ての用心棒のような仕事だった。そして最初の仕事で果たし合いの末、相手を斬ってしまうこととなる。評判が広まれば一緒に顔出しするだけで『助太刀家業』になると言うが、大金を稼ぐ『助太刀家業』ではなく嘉一郎は自分なりの『助太刀家業』で武者修行を続けたいと思い、京を出る。
また一人で江戸を目指そうと琵琶湖沿いの湊町に来たところで竹刀を打ち合う音に惹かれて「伊賀一刀流 山波結城道場」に寄り、門弟とすぐに稽古を始めるのだが、門弟にも請われ、道場主(山波結城)の家族(妻/和乃、娘/藍16歳、息子/小太郎10歳)とも打ち解けてひと月滞在後、必ず戻って来ると約束して、また武者修行の旅に出発する。
東海道を伊勢、尾張、三河、遠江と東行しながら剣道場等で稽古をする武者修行の旅だ。そして強い剣者になることが武者修行の目的ではなく、どのような剣術家を目指しているのかを見定めるのが武者修行の目的だと確信するのだった。
ふた月後、大井川の奥の寸又峡に仙人の噂を聞き会いに行く。仙人の視線を感じながらひたすら一人稽古をする毎日で、嘉一郎は見られることで嘉一郎の稽古が充実していくのがわかった。
時は1821年晩春、「寸又峡での稽古は終わり、また未知の土地を目指して武者修行を再開する」と言うことでこの物語は終わるのだが、一番気になっている毛利助八郎と下野江睦はどうなったのかが不明。
多分次の続編でまた登場するのだろうとは思うが、この第一巻では神石嘉一郎が武者修行の旅に出た背景と嘉一郎が桁外れの剣術遣いであると言うことだけはわかった。
そして多分嘉一郎を自分の脱藩の伴にしようと企てて陥れたであろう毛利助八郎、助八郎が持ち出した毛利家家宝の銘刀を取り戻す使命を受けた下野江睦、この二人の嘉一郎との関わりだけはわかったが、嘉一郎の武者修行の行方にこの二人が第二巻以降どう関わって来るのかが気になる。関わらないことはないだろうと思うのだが…
Posted by ブクログ
剣術修行と聞くと剣の業を磨き強くなることだけを目指すイメージだったが、主人公の神石嘉一郎は剣の業だけではなく、世の中や人生についても剣を通して学んでいくのがとても斬新で面白いなと思った。
剣術修行するにも、行く先々で必要なのは金、金、金。ところが嘉一郎の性格は金儲けには向いておらず。しかし、金には換えられない様々なものが舞い込んで来る。嘉一郎みたいな生き方を理想としたいなぁ…
共に脱藩した助八郎とのやり取りがかなりコミカルだし、全体的にコメディ寄りの作風でとても読み易かった。時代小説が苦手だなと思っている人にもオススメ出来そう。