あらすじ
刃が頭をかすめた。髷がばらばらになる。頭の先が皿となって飛んだのだ。飛んでそのまま川面にふわりと浮いた。白い脳味噌がとろりと流れだした――。激動の幕末、京洛。土佐勤王党の領袖・武市半平太に飼われ、「天誅!」の一声とともに佐幕派を屠り、震え上がらせた男。暗殺におのがすべてを賭け、修羅界を歩んだ凄絶な姿を描く、著者の独壇場!
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Posted by ブクログ
時代小説特有の質の高い虚構を活かしながら、以蔵の生涯を追った重厚な小説。以蔵を扱った小説の中でも、女性関係が多岐に渡って描かれている点が特徴的でもある。そうした点が苦手な方は注意されたし。
「武士ではない」という言葉が繰り返し使用されるように、自身が足軽であることを認め、武士になりたがらない以蔵がそこにはいる。武士になりたがる人々の間に位置づけられる、武士になりたがらない以蔵こそが、武士の無い社会――身分差が無い社会という、もっと先の世の中を目指していたのだ。
また、以蔵は武市を恨むはずがなかったというのが作者の見解であり、武市も以蔵を恨まない。しかし、恨みといった激しい感情こそ現れてはいないものの、作品の中には一貫して哀しみが流れているようにも感じられる。