あらすじ
才走った性格と高すぎるプライドが災いして人足寄場に送られてしまう栄二。鈍いところはあるがどこまでもまっすぐなさぶ、ふたりの友情を軸に、人の抱えもつ強さと弱さ、見返りを求めない人と人との結びつきを描き、人間の究極のすがたを求め続けた作家・山本周五郎の集大成。「どうにもやるせなく哀しい、けれども同時に切ないまでに愛おしい」(巻末エッセイより)、心震える物語。(エッセイ/高田郁、編・解説/竹添敦子)
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愚鈍で真面目なさぶが主人公と思いきや、さぶの親友で頭の切れる、男前の栄二がメインの物語。無実の罪で安定した生活を追われどん底に叩き落とされた栄二は、人間不信となり復讐を誓い心を閉ざしてしまうが、さぶを始めとした他人の温かみに触れて更生していく。心に沁み入る金言が散りばめられている。
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江戸の表具店に弟子入りしたさぶと栄二を見舞う不幸と、それに抗ううちに成長する栄二。周五郎最高傑作、集大成と煽られ読む。なるほど味わい深き一遍です。
冒頭のシーンから引き込まれる。表題から主人公はさぶだと思いきや、栄二であることが髄分読み進めて見て気づく。最初こそ逃げ出す素振りを見せたさぶだが、終始ぶれない姿勢、自分を、呼び戻してくれたことに対する栄二への恩義を貫き通すし、主人公の栄二はプライドの高さから自分を貶めてくすぶり続ける。石川島でのエピソードも計算され尽くした構成で読み手を引き込む。栄二世間への批判から殻に閉じこもる内情の変化が徐々に現れるところが秀逸。
綺麗事だけではない、おすえの終盤の告白など人の悲し性も悲しくも表現され、人の生き方において大事なことを教えてくれる。
周五郎作品をもっと読みたくなる傑作。
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名作。
人間は簡単に人を疑ったり、思い上がったり、何かあると、すぐに不運、幸運と決めつけたり。でも、「お前は気がつかなくとも、この爽やかな風にはもくせいの香が匂っている」に全ての答えがある。
能力があり、どこにいても一目置かれ、優遇される栄ニ。何をしても不器用でとろく、馬鹿にされるさぶ。この本が問うのは、その事実だけからはわからない本質の部分。
結末には、ちょっと言葉がでない。
最後のエッセイと解説もよかった。
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秋風に香るモクセイの匂いがわかるか???
この物語はすべてここに集約されてると思います。今の私たちが、今一番考えなければならないことなのかな。秋風に良い香りがすることに気づいて感謝して生きて行く。
物語的にもとても面白くて、どのキャラクターも魅力的で、話自体も満足なのですが、そのなかで伝わるこうした教訓のようなものが心に残るからこそ、多くの人が一生大切にしたいと思う名作たりえてるのだろうと思います。
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22年間の短い人生の中では一番涙を流した本。
栄二やさぶより少し長いくらいの人生しか生きてないので、彼らが幼いとかよくわからなくて、誰も救えないところまで塞ぎこんだ栄二の心がゆっくりゆっくり開いていく過程にただ涙。
江戸っ子言葉が気持ちいい!
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栄二は自分であり、我が息子、人間だなあと思った。未熟さに読んでいてイライラするし、はらはらする。少しずつ成長するけれど最後にまた、さぶを疑うところなんか、またかと思う。人間なかなか成長しないんだなあと思い知らされる。
一方、栄二を決して見捨てない。何を言われても怒らず、栄二につくすさぶのまっすぐさは、人間離れしている。主人公は、栄二だったけれど、題名はさぶ。目指すは「さぶ」です。
おのぶとおすえ。どちらも強い女だけれど・・。おのぶはさぶだなあ。
竹添敦子さんの解説と高田郁さんのエッセイもよかった。
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冒頭からさぶの世界に引き込まれた。巧みな情景描写で、読み易い。
人は一人では生きられない、どれだけ成果をあげて注目されている人でも、その人一人ではその成果をあげることはできない。日の当たるところだけが全てというわけではないということを教えてくれる。
人それぞれの生き方、周りの人への感謝を考えさせる物語。
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地球温暖化の影響かどうかわからないが、今年2012年の秋は11月になってモクセイの香りをかいだ。モクセイの香る季節になると、この本を思い出す。
「お前はどうだ?」ふた呼吸ほどして岡安は静かにきいた「風の肌触りに秋を感じたり、送られてる花のにおいを楽しんだりしたことがあるか…」…。栄二を慰めるように話をした後、岡安はこう締めくくった。「お前は気がつかなくとも、このさわやかな風にはモクセイの香が匂って居る、心を沈めて息を吸ってみると、お前にもその花の香りが匂うだろう、心を沈めて自分の運不運をよく考えるんだな。…さぶやおすえという娘のいることを忘れるんじゃないぞ。」
この本を手にしてから30年以上の年が経つが、今でもこの季節になり、秋風に金モクセイの香りをかぐと、また1年が経ったことに思い至る。そして、私の見過ごしてきた多くの優しさに取り囲まれている自分にふと立ち戻るものである。ああ、みんな元気にしてるだろうか。。・°°・(>_<)・°°・。
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書き出しが印象的。心情の変化やそれぞれの登場人物の人間性、言葉のひとつひとつが心に染みる作品。ラストを読んだあと、もう一度始めから読み直してみたくなった。
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人はどんなに賢くっても、自分の背中をみることはできない…。当たり前の事なのだが、私たちの多くはこの事実を受け入れていない。傷つけられ、痛みを抱えた人間だけがもつ優しさ、それは自分の弱さを受け入れたゆえの優しさである。人は権力や力ずくでは変えられない。弱さを知る者の粘り強い優しさが頑な心を溶かしていくものなのだとあらためて感じた。
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表題は『さぶ』だが、話は江戸の経師職人の英二の視点で描かれた人情話。
真面目に働いてきた英二が、身に覚えのない罪を着せられて、そこから人生のどん底まで転落する仕儀となるが、
さぶをはじめ、周りの人達に助けられ、英二も次第に立ち直って、また堅気の職人として再出発をするお話。
人間の本質に迫る作品です。
ラストの告白のシーンで誰を疑うか、
そこで人間性を試されているような気がします。
良著!
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題名はさぶだけど、主役はさぶじゃない?
素直だけど、要領があまりよくないさぶと、手際はいいが、自分でも少し持て余すぐらいのプライドとちょっぴりのやんちゃ度を持つ栄二は同じ店で働く親友同士。
どちらかと言うと、栄二を主役に物語は織られていく。
栄二は或る時、無実の罪を着せられて、店を放免となってしまう。心の底から心配するさぶを横目に、プライドが邪魔をして世間をうまく渡りきれない栄二。意地を張りとおして、最終的に、人足寄せ場で働くこととなる。
最初は長年働いた自分の話を聞く事も無く自分を駆逐した店の関係者を恨んだり、目付を恨んだりするが、同じく社会からのはみ出し者が集められた寄せ場での経験を踏まえて、事情を知り、栄二に親切な役員や仲間達と出会い成長していく。
人足寄せ場は世間より理不尽な事が、実は少なかった。そこから出たくないと怯える人足も多くいる。栄二もそう思い始めたが、ついに、自分を見舞うことで店をくびとなり、さらに余裕のない実家でも冷遇されるさぶ、そして思いを寄せる女性と人足寄せ場の外に出て、立ち上がる決心をする。
その頃には、栄二の心から復讐心がなくなっていた。そんな時、嫁として迎えたおすえが、嫉妬心から栄二を陥れた張本人だと発覚。おすえを許す栄二。
犯人がおすえにした理由って、人生は想像しているほど悪くもないってことかな?さぶをタイトルにした理由は、栄二目線から見た物語で栄二にとって大切な存在だからだろうか?
いい本だったし、読む人はみんな栄二の幸せを願いながら読む本だと思うけど、うまく感想がまとめにくい本。世の中、ままならぬ事が多いけど、一生懸命生きていれば、それなりに悪くない世界であるってことかな?
Posted by ブクログ
初めて山本周五郎さんの時代物小説を読みました。しかも英傑を主人公にしたものではなく、江戸の一般庶民の物語。その昔TVで見た時代劇の舞台中継を微かに思い出しました。一度は復讐の為だけに生きようとした主人公が、周囲に支えられて自分が今あることに気づく物語。何故か小説のタイトルは主人公ではなく、若い頃から彼をずっと慕い支えてきた「さぶ」の名前がタイトルになっています。
Posted by ブクログ
頭がよく経師屋としてもうでのたつ栄二と不器用て愚直なさぶの青春の描いた作品。
無実の罪をかぶった栄二のひねくれ加減が半端なく、意固地なまでに復讐心に囚われてしまうが寄場での人の親切に触れ次第に大人になっていく様は現代の若者の頑固さと幼さ、人との関わりを通して成長していく道筋と何ら変わりはないなと思いながら読んだ。
栄二を好いているおのぶが「亭主が仕事にあぶれたとき、女房が稼いでどうして悪いの、男だった女だっておなじ人間じゃないの、この世で男だけがえらいわけじゃないのよ」と仕事がなく女房のおすえに内職をさせていることをぼやいた時にいった言葉も女性である私には印象的な言葉だった。