【感想・ネタバレ】女の子たち風船爆弾をつくるのレビュー

あらすじ

少女たちの知られざる戦争体験

日露戦争30周年に日本が沸いた春、その女の子たちは小学校に上がった。
できたばかりの東京宝塚劇場の、華やかな少女歌劇団の公演に、彼女たちは夢中になった。
彼女たちはウールのフリル付きの大きすぎるワンピースを着る、市電の走る大通りをスキップでわたる、家族でクリスマスのお祝いをする。
しかし、少しずつでも確実に聞こえ始めたのは戦争の足音。
冬のある日、軍服に軍刀と銃を持った兵隊が学校にやってきて、反乱軍が街を占拠したことを告げる。
やがて、戦争が始まり、彼女たちの生活は少しずつ変わっていく。
来るはずのオリンピックは来ず、憧れていた制服は国民服に取ってかわられ、夏休みには勤労奉仕をすることになった。
それでも毎年、春は来て、彼女たちはひとつ大人になる。
ある時、彼女たちは東京宝塚劇場に集められる。
いや、ここはもはや劇場ではない、中外火工品株式会社日比谷第一工場だ。
彼女たちは今日からここで風船爆弾を作るのだ……。

膨大な記録や取材から掬い上げた無数の「彼女たちの声」を、ポエティックな長篇に織り上げた意欲作。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

気軽に読み始めたんだけどとても重かったしよかった。

始まりは昭和10年。雙葉や跡見や麹町に通い宝塚歌劇を見にいく女の子たちの豊かでモダンな日常とその後景の軍国主義と翼賛の描写。よく史料で見る昭和初期の奇妙に明るい都市生活が活写される。まもなくその後景はずいずいと前へ出てきて女の子たちの生活を塗り潰し、兵器の製造に加担させるまでになる。

主語は「わたし」だが匿名で複数の群。歴史上の有名人も「〜した男」と匿名。「わたしたちの兵隊」「わたしたちの飛行機」という繰り返しは女の子たちも戦時体制と一体であり第三者ではないことを意識させる。あるいは読者もか。人称の使い方が非常に効果的。
その中で靖国などには名を刻まれない、非業の死を遂げた民間人の名前は明記され、影帽子の群れの中で不意に個人の顔が浮かび上がるかのよう。綿密なリサーチに基づいており小説なのに膨大な脚注が付いている。記憶を後に残そうという無数の人々の意志と努力がありそれを調べ受け取って編まれた小説である。
そして占領地で、日本で、女たちが差し出され、姦されたことが繰り返し淡々と記される。宝塚の団員まで尊厳を奪われる瀬戸際に置かれたことも。容赦がない。その流れで戦後に来る婦人参政権制定の記述が眩しい。

それにしても昭和10年代、どの文化芸能も軍国主義と翼賛だったことは既知だがファシズム賛美の度合いは知らなかったのでかなり引いた。宝塚も日劇も流行歌でもハイルヒットラーと歌っていたとは。
あと、宝塚歌劇などは不要不急だと舞台の上の銀橋に立って吐き捨てた大政翼賛会宣伝部の男が戦後「美しい暮らしの手帖」を創刊って、端的な事実としては知っていたけど状況の描写を読むと言葉を失う。

ところで第三幕の数字の意味がわかっていないのだけど何だろう。

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2025年11月16日

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