あらすじ
組織不正は、いつでも、どこでも、どの組織でも、誰にでも起こりうる。なぜなら、組織不正とは、その組織においていつも「正しい」という判断において行われるものだからだ。組織不正を行わない方が得策と言えるにもかかわらず、組織不正に手を染めてしまう企業が少なくないのはなぜか。燃費不正、不正会計、品質不正、軍事転用不正の例を中心に、気鋭の経営学者が組織をめぐる「正しさ」に着目し、最新の研究成果を踏まえて考察。
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Posted by ブクログ
組織不正に関して、伝統的な「不正のトライアングル」とは異なるアプローチをし、積極的な動機があるのではなく、むしろ不正に消極的で無関心であることが不正を引き起こすと説明する。
また、「外部環境」、「組織」、「個人」の持つ「正しさ」がそれぞれ異なり、差異を埋められないことが組織不正の原因であると言う。
例えば、自動車の燃費不正は、ガラパゴスかつ実行困難な燃費計測法を課された各メーカーが、国際標準に沿った方法で計測していたことが、結果として法律違反の状況を招いた。
東芝の不適切会計では、トップとミドルの時間感覚の差が、ミドルを不正をせざるを得ない状況に追い込んだ。
ジェネリック医薬品の品質不正では、ジェネリック医薬品の比率80%という目標が先にあり、それと並行してあるべき品質規制が不十分だった。
思うに、これらは各主体ごとが各自の「言い分」を持っており、しかし弱い方が強い方に合わせる必要があるから、結果として組織不正が起こっているのではないか。
燃費不正であれば、計測方法が現実的なものか、各省庁は自動車メーカーとよく協議すべきだった。
東芝であれば、ミドルはトップと業績目標についてもっとコミュニケーションをとるべきだった。
ジェネリック医薬品80%という強烈な目標があると、そもそも対話自体が行われない。
本書でも自覚的かは分からないが、各章で対話が不足しているとの指摘がある。
書籍名は忘れてしまったが、日本が戦争に敗れたときのエピソードなどを引いて、コミュニケーションコストを払わない方が合理的というような論を見たことがある。そういえば、第一次大戦の開戦時にもドイツ皇帝にコミュニケーションロスがあったと聞く。
我々は、本書のとおり「正しさ」が複数、流動的であることを自覚するとともに、組織は放っておけばコミュニケーションを取らないでいてしまうことを強く学ぶべきだ。
Posted by ブクログ
タイトルを見て「?」と感じて読んでみた。読むと分かるが不正に加担する人は「正しい」という信念で動いている。組織に溶け込み組織のために働きたいと強く思うがあまり不正は起きるようだ。日本の事例を元に組織不正が起きる要因を探る。組織論を学びたい人にもおすすめ。
Posted by ブクログ
何が「正しい」かは、一つに絞れない。権限者が決めたことが、一旦は「正しい」。それに意見をし、議論して社会に通用する「正しい」を作り上げていく。「正しい」を探す、や「正しい」の間違い探しをするのでなく「正しい」を作り上げる。その心意気が必要なのかと。みんな真剣にやってるんだし。
Posted by ブクログ
興味深い内容だった。誰しも悪いことをしてやろうとして不正を行っているのではなく、行動の根底には正義と自分なりの正しさがあり、言い換えれば悪意のない悪意であると言える。とはいえ、結果が不正となってしまえば、それは取り返しのつかないことであり、第三者的な目線で物事を見れるチェック機能が極めて重要なのだろうと思う。
Posted by ブクログ
組織に不正が起こる時、過去の研究では、明確に不正する意図を持った人が要因で発生するとされてきたが、近年の研究では悪意なく不正に無関心の人々のその行動が結果的に組織不正に繋がるとされている。
自分たちの基準で正しいと判断したものも実は誤りを生んでいるかも。
Posted by ブクログ
組織不正はいつも正しい。なぜなら組織に構造的な欠陥があって、という話と思いきや組織論の話ではなく社会問題として扱っている。
この視点は自分になかったので興味深い。
読む前は毎年のようにどっかで聞いたような不祥事がニュースになり、再発防止やらなんやらしても何かしら出てきて人間の組織って進歩ないなって思ってたが、組織の問題ではないのである で目から鱗。
その時々のステークホルダー(組織と中の個人)が合理的に正しいことをすることで、時に雪崩が起きてしまうという。
不正の発生源はわかりやすい悪い奴ではなく、組織の中で真面目に普通に働く人が不正を担ってしまう構造がある。
なので、各々正しいことをして、全体としてバグった結果が出てしまう点が興味深い。
とくに、行政の観点はあまり報じられることがない(気がする)ため、この不正に至ったロジックや背景はなんだったんだろうか?と、組織不正を見かけた時には仮説を持って考えてみたい。
また、不正以外でも一見いまいちな組織の動きには、他の正しさとのコンフリクトがあるのかも?という視点を獲得できたのは一労働者目線でも面白い。
Posted by ブクログ
◾️組織不正に問題意識のある人は、この本を読むと納得することが多いだろう。逆に、単に知識として組織不正を知りたいと思って読んでもピンと来ないだろう。
◾️不正の中にある種の正しさがあると考えることは、矛盾しているが間違っていないと思った。漠然と感じていたことを文字にしてもらった感覚だ。
Posted by ブクログ
やや牽強付会なところもあると感じるものの、日本における組織不正は必ずしも実行者の「私利私欲」が原因ではないことも多く、ある意味誰でもある日突然「不正の当事者」になり得るという指摘はまさにその通りと思う次第。問題提起として、良書。
Posted by ブクログ
『全員が「正しい」ことをすれば、全体としては「正しい」方向へ向かうと考えられがちですが、そうでもないのです」という一説や、カプタインの「倫理のパラドックス」の内容は興味深い。
これという結論はないが、問題提起として自分なりに不正に対する認知や捉え方、考えることが必要だと思う。
たしかに心理的安全性ととても近しいものを感じる。
Posted by ブクログ
「絶対に正しいと思うことほど、絶対に間違う可能性につながっている」
正しさとは固定的ではないことを強く痛感した。閉じた組織の中での開かれた正しさ、大事な視点だと改めて。
Posted by ブクログ
もっと概要が中心の事例を多く読みたかったが、案件ごとの深堀が趣旨のようだった。専門用語が多く、細かいプロセスが記されているので、事例の詳細が知りたい人向け。
Posted by ブクログ
企業不正は悪意によって起こる──そんな常識を、本書『組織不正はいつも正しい』は覆す。不正は往々にして善意や使命感、「正しさ」の追求から始まるのだ、と著者・奥村昭博氏は語る。これは驚くべき逆説だが、多くの実例を通じて説得力をもって読者に迫ってくる。
不正の多くは、内部では「不適切行為」と呼ばれ、外部の〈第三者〉から見て初めて「不正」とされる。その背景には、人員不足の中で課された高い目標や、「現場なき方針」がある。たとえば小林化工や日医工では、達成困難な目標が現場に押しつけられ、不正な製造が行われた。これはまさに“非効率性の合理性”──変革にかかるコストが大きすぎて、非効率な状態が温存されるという構造的な不条理だ。
こうした状況を本書は「社会的雪崩(ソーシャル・アバランチ)」と表現する。個人の正しさ、組織の正しさが積み重なり、結果として社会を崩壊させる。この雪崩を防ぐ鍵は、「単一的な正しさ」ではなく「複数的・流動的な正しさ」にある。
その具体策として、本書が紹介するのが「異質性」の力だ。特に欧州の銀行を対象にした研究では、女性役員の割合が多い企業ほど不正による罰金が少なく、年間平均7.8百万ドルの罰金を回避しているという。異なる視点を持つ存在こそが、同質性が生む空気に対する抑止力となるのだ。
本書は、不正を「誰かの過ち」として断罪せず、「正しさを信じる私たち自身」への問いとして提示している。その視点が、まさにいま組織に必要な倫理なのではないか。
Posted by ブクログ
正しいは単一・固定的なものではなく複数・流動的であるということ。企業が不正をする時は意図的な場合もあるが、不正だとは思わず正しいからそのまま活動している場合もある。本書では、不正は起こらないと言い切る企業ほど起こってしまうものであることを述べてた。
Posted by ブクログ
題名どおり、組織不正は各個人が自分のもつ正しさに従って行動した結果として起こり得るものだという主張を最近の有名事例を交えながら展開していくもの。でも他の人がいってるとおり結論ありきで新しい発見はあまり無かった印象。
大川原加工機の事例は寡聞にして知らなかったので、こんな組織不正があってよいものかと新鮮に憤りながら読めた。
Posted by ブクログ
不思議なタイトルに惹かれ、手に取った。
組織不正において、不正のトライアングルという概念はよく説明されるが、本書ではそれぞれが正しいと思ってやったことが結果的に社会的雪崩(ソーシャルアバランチ)を引き起こし不正につながるという主張をする。本書内で取り上げられる事例を見ていても、確かに悪いと思ってやっている訳ではない(けど問題がある)という事例が多いことがわかってくる。
医薬品の品質不正の話は、個人的に関わりが深いところなのでどんな風に書いているかと思ったが、とても冷静に書かれており自分自身も考えを整理するのに役立ったと思う。
Posted by ブクログ
組織不正を具体例をもとに解説。
正しさとは何かという定義で感想が異なるように思えます。
僕はただただ正当化しているだけのように感じました。
会社だけでなく、様々な組織で
「誰トク?」という施策だったり、法案だったり、
がまかり通ること、常々疑問に感じており、
その解決になるかと思いましたが
ちょっと期待外れでした。
民間で勤務経験のない大学教授が解説すると
こうなってしまうのかもしれません。
Posted by ブクログ
不正が起こるのは誰かが利己的な理由からではなく、担当として正しいと思いながら起こしている問内容。
悪の陳腐さのアイヒマンの事例を知っているとすっと入ってくる。というか「まーそうだよね」程度の内容になっちゃう。
Posted by ブクログ
組織や企業の不正は他人事と感じることが多かったですが、意外と身近なことなんだと思いました。
「危うさ」や「正しさ」の中にも含めていることを学びました。
Posted by ブクログ
読みやすくサクサク読めたが抽象的な話題についてはイマイチ理解ができていない。具体的な事例をあげて説明された箇所は大変興味深く読めた。特に東芝の不正会計は利益の先取り損失先送りというやり方だということを知り、会議の生々しいやり取りは緊張しながら読んだ。経理担当者は、様々な理屈を捏ねて監査法人を納得させたのだろうが、その背景はトップの掲げた目標が、現場と乖離したまま、埋め合わせる対話がなかったということで身につまされる。ほかにも、ルールそのものが現場と乖離している製薬不正の事例などわかりやすかった。自分が今いる環境に違和感を感じることがあれば、それは不正の温床かもしれない。注意したい。