あらすじ
人は人生のそのときどき、大小様様な物語に付き添われ、支えられしながら一生をまっとうする――。『二十歳の原点』『木かげの家の小人たち』『あらしの前』『百年の孤独』。作家・梨木香歩は、どんな本に出会い、どんなことに想いを馳(は)せ、物語を紡いできたのか。過去二十年に亘(わた)り綴られた、数多(あまた)の書評や解説、そして本や映画にまつわるエッセイを通してその思考を追う、たまらなく贅沢な一冊。(解説・長田育恵)
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Posted by ブクログ
書評、解説、時々エッセイ。
梨木香歩の小説を読むと、彼女は理系の人だなあと思うことが多々ある。
割と自然科学に造詣が深いから、というだけではなく、書いてある文章の行間に込められた情報が多いような気がするのだ。
つまり、形としては散文なのだけど、実は詩なのではないかと思えるような文章を書く人だから。
それは誰に言ったこともなく、心の中でひっそりと思っていたのだが、実は初めての自費出版本は詩集だったと書いてある箇所をよんで、「やっぱりね」と一人強く頷いたのだった。
地球上で起こる出来事は、すべてこの地球上の生命に無関係ではない、ということを手を変え品を変え小説に書き綴ってきた彼女の書評は、浅薄な私の読書など足元にも及ばない深くて鋭いまなざしで世の中を捉えている。
『西の魔女が死んだ』を初めて読んだ時から、生と死、自然、宗教、人間関係等について考えさせられる、考えるきっかけを与えてくれる、彼女の作品が好きだった。
今回は、その彼女のベースとなっている本だったり、彼女の本の捉え方だったりが前面に出ていて、ファンとして非常にエキサイティングだった。
最後の方、コヴィット―19が作り出した新しい世界についてのエッセイを読んで、それはまだ5年もたっていない最近の出来事なのに、遠い昔のように感じる自分に驚いた。
今はもうコヴィット―19とは言わない。(医療関係では言っているのだろうけれど)
新型コロナが当たり前となってしまった世の中で、人は旅行にも行くし、満員電車にも乗る。
私はいまだにマスクをして外に出るけれど、それすらしなくてもよい風潮になってきている。
そうやってなし崩しにチェルノブイリは風化し、東海村臨界事故は忘れられ、東日本大震災後の原発事故も安全が叫ばれるようになった。
私はずっと覚えていようと思う。
たとえマスコミが何も言わなくなっても。