あらすじ
【内容紹介】
私は、本書を通じて、ある希望にみちた仮説をみなさんと共有したいと思っています。
その仮説とは、社会運動・社会批判としての側面を強く持つビジネス=クリティカル・ビジネスという新しいパラダイムの勃興によって、経済・社会・環境のトリレンマを解決するというものです。
私は2020年に著した『ビジネスの未来』において、安全・快適・便利な社会をつくるという目的に関して、すでにビジネスは歴史的役割を終えているのではないか?という問いを立てました。原始の時代以来、人類の宿願であった「明日を生きるための基本的な物質的条件の充足」という願いが十全に叶えられた現在、私たちはビジネスという営みに対して社会的意義を見出せなくなりつつあります。
この問いに対する前著での私の回答は「条件付きのイエス」というものでしたが、その後も、営利企業あるいはビジネスの社会的存在意義に関する議論が沈静化する兆しはなく、世界経済フォーラムをはじめとした会議の場においても、この論点は主要なアジェンダであり続けています。
ここ数年、世界中で盛り上がりを見せている「パーパス」に関する議論も、この「このビジネスに社会的意義はあるのか?」という、素朴だけれども本質的な質問に対して応えることのできなかった人々が引き起こした一種のパニック反応だと考えることもできるでしょう。
私は、本書を通じて、このウンザリさせられる問いに対して、ある仮説としての回答を提唱したいと思います。それが前述した命題、すなわち「社会運動・社会批判としての側面を強く持つビジネス=クリティカル・ビジネスという新たなパラダイムの勃興によってそれは可能だ」という回答です。
【著者紹介】
[著]山口 周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストンコンサルティンググループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?(光文社新書)』でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める独学の技法』『ニュータイプの時代』(ともにダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『自由になるための技術 リベラルアーツ』(講談社)、『ビジネスの未来』(プレジデント社)など多数。神奈川県葉山町に在住。
【目次抜粋】
■第1章 クリティカル・ビジネス・パラダイムとは?
■第2章 クリティカル・ビジネスを取り巻くステークホルダー
■第3章 反抗という社会資源
■第4章 クリティカル・ビジネス・パラダイムの背景
■第5章 社会を変革したクリティカル・ビジネスの実践例と多様性
■第6章 アクティヴィストのための10の弾丸
■第7章 今後のチャレンジ
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Posted by ブクログ
今後の企業の在り方を考えさせられました
資本主義をハックする、という切り口のためには、
もっと頭を柔軟にしておかないといけない
読書メモ
・いち早く問題意識を持った企業によるマーケティング・コミュニケーションによる市場の教育が大きく寄与する。今日の社会では、公共メディアによる報道やジャーナリズムよりも、私的な企業によるマーケティングコミュニケーションこそ、社会変革の大きな役割を担っている。
・本当に考えなければいけないことは、「SDGsの17個のアジェンダは実行あるのみ。あなたは18番目に何を掲げたいですか」ということ。
・社会運動、社会批評としての側面を強く持つクリティカルビジネスのパラダイムにおいては、競合企業は必ずしも打ち倒すべき敵ではなく、同じ社会的問題の解決を目指す同志の側面を併せ持つことになる。
・プラスサムゲーム。市場の大きさは可変であり、市場の拡大によって参加者すべての売り上げや利益を増やせる状況。クリティカルビジネスによる啓発や教育を通じ、新たな価値やニーズを創出している。
・社会には常に不完全さがあり、その不完全さに対する反抗がなければ社会は進歩しない。
・テクノロジーやイノベーションが経済を成長させるという主張は、一種の宗教。科学的なエビデンスがないにも関わらず、単に「そう信じたい人が、そう信じているだけ」だから。
・公共性への関心が低い社会では、クリティカルビジネスは生まれにくい。この点こそ、西欧の社会において存在感を示すようになったクリティカルビジネスが、日本の社会からなかなか生まれない本質的な理由があると思っている。
・能力レベルの高い人はそれに見合う挑戦的な課題を求める。「難易度の高いアジェンダ」は優秀でモチベーションの高い人を引き付け、逆に凡庸でモチベーションの低い人を遠ざける非対称性がある。
・一般的に私たちは敵をつくることを避けるが、クリティカルビジネスでは逆に「意識的に敵を作り出し、その敵の持つエネルギーを反作用のように利用している。
・言葉は情報でできており、情報はエネルギーを生み出す。社会運動は情報を食べて前進のエネルギーにする。
Posted by ブクログ
クリティカル・ビジネスは社会や市場の現状に対して批判的な視点を持ち、既存の価値観や慣習に挑戦することを目指す。
従来のビジネスが市場や顧客のニーズに応えることを重視してきたのに対し、クリティカル・ビジネスは社会や市場の現状に対して批判的な視点を持ち、既存の価値観や慣習に挑戦することを目指します。
市場教育・啓蒙の役割: 市場や顧客の要求に従うのではなく、むしろ市場や顧客を教育・啓蒙し、新たな価値観や行動を促すことを重視します。
Posted by ブクログ
ビジネスにおいて、「儲ける」、以外の価値軸を加えることはできるのか、というお話かなー。
サブとしては、理念に基づくパーパス経営や、サステナビリティを一つの評価基準とする動きは近年活発になっている。ソーシャルビジネスでは、利益よりも社会課題の解決を優先とする。
著者のクリティカル・ビジネスと呼ぶものは、ビジネス事態を通して社会課題を定義し、社会の変革を促す。
社会運動のツールとしてのビジネス。
抵抗としてのビジネス。既存の体制、価値体系、社会の在り方に対して。
企業の成功の新たな価値軸として、「センス」を打ち出しているのかな、と思いました。
先日読んだ、ク゚チネリさんの本を思い出しましたが、途中、彼の会社についても触れられていました。
…
普段思っていたことなど、共感できる点がいろいろとありました。
社会運動!
個人的には、ビジネスはこれまで社会運動をしていなかったのか、とまず問いたいと思います。かなり、著者は本書で、ビジネスの社会における大きな力について述べられています。
企業広告 国内年間 約7兆円
政府広告 国内年間 約100‐200億円
どれだけ私たちは民間企業の宣伝広告に影響を受けているか。
これは社会運動だと思います。ビジネスの手により、私たちの社会は大きく変革されているに間違いない。消費社会を形作り、加速させているのは、日々目にし続け耳にし続ける企業広告。今のビジネスが創り上げてきたパラダイムが、この大量消費社会であり、価格の高いものをもってステータスを表現する社会、といったようなことなのではと思います。
その強大な民間企業の運動によってつくられた私たちの欲望、需要が市場を作り、その市場ニーズにさらに応じる形で、企業が成功を求めて争っているのではと思います。
なので、本書で論じられているクリティカル・ビジネスは、そんな既存のニーズ、顧客のペインポイントに応えるのではなく、アルタナティブ、対抗軸を打ち立てるもの。
抵抗!
私はわりと抵抗を通して自分の存在意義を確認しているところがあるので、ビジネスでもそれを当てはめる、というのは入ってきやすかったです。カミュの『反抗的人間』については、知りませんでした。興味深い。
ピーター・ティールさんの問いー世界に関する、世界が認めていない、君自身が重要と考えているアジェンダは?
革新的なものは初めは敵としても認知されない。
デザイン思考が既存の社会枠組みを打ち破るような影響を生み出せなかったのは、顧客がすでに持っている課題を解決することを追求するアプローチだから、といいます。
人々がいまだ問題視していない問題…
今の市場ニーズに応えることは、社会を崩壊させること。
一定の人々のニーズが満たされた、というのは企業の功績でもありますが、その目的を今は達成してクリティカルな目的を失っているともいえるのかもしれません。
今は消費が、他者に見せびらかす記号と化している、と述べています。
また、少数によるニーズについては、リターンが小さすぎて回収できない。利益が至上主義的に求められる従来のビジネスでは解決できない。
センス!
無教養な専門家、品格のないビジネスの危険性。
センスの低い顧客という考え方。カスハラが社会問題化している今日ですが、低俗な人々を相手にすることの危険性。
オルテガ・ガセットのいう、文明の恩恵で甘やかされた「大衆」が引用されています。
なので、人々を啓発する、意識変革を促す、それにより、人々の欲求を変える、新しいニーズを打ち立てる、社会運動。
仮想敵国、~でない、否定を明確にした時の団結力。資本主義を強烈に叩くマルクス、ディストピアを描いたジョージ・オーウェル。
カギとなる、共感。伝えるものの鮮度。小さく、手元にあるものから、とにかく始める。
モデルとなる企業
テスラー2003年創業当時のEVシェアは全自動車市場の0.01%だったにもかかわらず、電気自動車の特許をオープンソース化し、ゼロサムではない、プラスサムのアプローチで、新しい価値観と顧客を作っている。
ブルネロ・ク゚チネリさんの会社ーサステナブルで上品な水準の利益しか求めない。共感に欠かせない、細部の言行一致の極み。
市場利益よりも重要なもの。センスのありかたを問うこと。