あらすじ
現代アメリカ文学を牽引し,その構図を一変させた稀有の作家による,革新的な批評の書.ウィラ・キャザー『サファイラと奴隷娘』,ポー,トウェイン,ヘミングウェイらの作品を通じて,アメリカ文学史の根底に「白人男性を中心とした思考」があることを明るみに出し,構造を鮮やかに分析すると共に,その限界を指摘する.
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
やさしく持論を説明してくれることはなく、非常に難解なので、訳者解説にたいへん助けられる。しかし、モリスンは「アフリカニズム」「ロマンス」などのことばを使って難解な理論を提示するに終わらせず、テクスト読解を実践するそれを読むと、読者はモリスンの言いたいことが具体的に理解できるようになる。すなわち、白人男性中心主義をあぶり出すべく、モリスンがトウェイン、ヘミングウェイなどのテクストを読解して見せるくだりはたいへんスリリングである。
Posted by ブクログ
そうか、わたしはアフリカ系の人が書いた本を読んだことがないんだ。
いままで意識していなかったけど、本書を読み進めるうちに気がついた。
「奴隷たちの心や想像力や振る舞いに目を向ける学問には価値がある。けれども、主人たちの心や想像力や振る舞いに人種のイデオロギーがどんな影響を与えたかを見ようとする本気の知的努力にも、同様に価値がある。」
モリスンは「白人男性至上主義」「進歩史観による人種主義」これらで構築された、普遍的な価値が評価する、アメリカ文学を「黒人奴隷が白人アイデンティティに与えた影響」として、ヘミングウェイやハックルベリーフィンの冒険を例に具体的に考察している。
黒人たちは、強制的にアフリカから連れてこられたにもかかわらず、白人の自己保身のために動物的な階級へ格下げされ、人間的な意思疎通の可能性を閉ざされ、呪物化されて恐れられ、白人たちの醜さを投影され、貶められた。
当事者側からなされたこうした指摘や考察は、今後あらゆる分野で必要になってくることだろう。
ジェンダー、フェミニズム、貧困格差。
当事者の視点を受け入れなければ、それはいつまでも前時代的な何かのまま、止まってしまう。
本書を読んでいる最中、偶然、日本の音楽グループがMVでコロンブスとナポレオンとベートーヴェンに扮して、新大陸発見と類人猿との踊りを演出し、炎上したというニュースがあった。
知らないということがどういうことなのか。
それを改めて知る良い機会となった。
Posted by ブクログ
フォークナーの「アブサロム アブサロム!」を読み、彼を敬愛し、習った作家群にいるトニ、モリスンを久しぶりに手に取りたくなった。
そこで「ビラヴド」「青い眼が欲しい」を立て続けに・・たまたま 返却に行った際、返却棚にあったこれをチョイス。
薄いと思った私を小ばかにされそうなほどの難解さ。
読み下すのに呻吟・・まさにそういった大学の講義を聴いている感覚に浸った。
皆さんが書いてあるように、解説で目から鱗。
真っ暗悩みを手探りで歩いた後、フットライトを受け取り、周囲の景色が見渡せた想い。
モリスンの聡明さは、思っていた以上で素晴らしい。
100年経ても生き残る存在に挙げられると思える。
無知の塊である私を慈雨隠させられた時間が文を追うその時…ヘミングウェイの側面を分析する手法に舌を巻く。
ネイティブアメリカンの土地をおびただしい流血でもぎとった白人・・その白人とて思い上がりで勝手に一部がでっち上げたのはほぼWASP
その「白人」がアフリカン黒人を奴隷にして今日に至る土台を作り上げていった。
フランス系、スペイン系南欧人種、は後続組。ロマやユダヤらが参入できるようになったのは20世紀になって。
従って今日云われるレイシズムはアメリカという劇場で語るとすれば、きわめて歪んだ流れが渦巻いた上に愚かしくも作り上げられた虚構。
二グロという響きは悍ましくていやだ。そう言う「黒人」はアフリカから連れてこられ、性的屈辱の200年余を経て血が世界中と混じっても・・未だ貼られるレッテルは黒。
モリスンが そういった【暗闇の領域】に押し込められた】死角としての影に光を当て、「見えないふりをしてみなかった」・・あたかも白人の闇を投影しているかのような世界を見せつける 言葉を編み出した!
それを文学と言ってひとくくりにしないで、彼女以前、彼女以降の文学のテクストを学ばなければ無意味になってしまうと感じた。
Posted by ブクログ
タイトルから小説と思っていたが、評論であった。大学での授業をもとにして議論を進めたと書かれている。様々な小説、ヘミングウェーの小説の問題点も指摘している。アメリカ文学を卒論で扱うときには必須の本であろう。解説が1/4以上を占めているし、本文も140ページしかないので、解説から読むのもいいと思われる。
Posted by ブクログ
都甲先生が訳していたので。
ブロティーガンやブコウスキーを読んだ時からの何となくの直感だけど、アメリカ人の抱える悲しみは絶対日本人のそれに通底するところがある。
被差別階級を非人間的な存在として苦しみから逃れるとか、いやもっと言語的なレベルで…
本編もよかったけど、先生の解説だけでもかなり読む価値がある。今まで白人が差別してきた人々が自由を獲得し、境界線を侵犯してくるのではないかという不安を描く上でゴシックロマンスという形式が最適であったとか、「中立的」「科学的」言説と人種主義の強い力だとか。
ヘミングウェイと看護師もフェミニズム的に読むと面白そう。白人が白人ぽさを出すために髪を染めるとか、すごくかなしいなとも思った。