あらすじ
100年安心は、まやかしなのか、不安を煽ったのは、誰か──。
2025年、国民の5人に1人が後期高齢者になる。この国の年金制度はどうあるべきなのか。その解は、年金官僚たちの壮絶な攻防のドラマの中にちりばめられている。
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私は「年金ブーム」の1年半ほど、ほぼ毎号、『週刊ポスト』の年金取材に明け暮れた。徹夜もしょっちゅうだったが、20代後半という若さ、知識を吸収する喜びがあり、記者としての手ごたえを感じた時期だ。私の記者人生の〝青春〟であった。
ただし、いくらメディアが激しく批判をしたところで、法律が大きく修正されることはなく、順調に成立した。社会保険庁は解体に追い込まれたが、それで国民生活が良くなったのか、今もって実感がない。
恥を忍んで言えば、「マクロ経済スライド」が人口減少、平均余命の延びによる調整に過ぎないことを、私は本書の取材で初めて理解した。制度の本筋とずれた所を、懸命に掘り下げていたのである。年金取材にどっぷり浸かった私ですらそうだから、一般国民が知るよしもないだろう。
2005年に『週刊文春』に移籍してからも、編集部は私に、年金の記事を数多く担当させてくれた。年金は、私にとって〝背骨〟のような取材対象であり続けた。
本来、私は記者として何を報じるべきだったのか。こうまでメディアを、私を、惹きつける年金とは一体何なのか──。それを解き明かし、ノンフィクション作品として世に問いたいと決意したのが、本書執筆の動機である。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
社会保障政策のルポ作品。
戦後から直近に至るまでの年金改革について言及されていた。奇しくも、読み終えた日は、2024年度の出生数が発表された。また、2025年は、団塊世代の人々が後期高齢者になる年でもある。こうした社会の変遷は待ったなしであるため、今後どのように舵を切っていくか、早急に対応してもらいたい。
Posted by ブクログ
非常によかった。
ページ数が多いが、読みやすく面白い。
公的年金制度の成立から、現在までを官僚の視点、官僚の動きを主に扱った作品
公的年金の歴史を官僚へ取材して動きを追った作品はあまりなかったのではないかと思う。
なぜ年金制度は今のようになっているのかを知るのにも非常に良い。
あとがきにあるように、年金社会保障は極めて、複雑な利害関係の絡む、壮大な多元連立方程式である。
利害関係が複雑で多く、みんな自分の見たいものしか見ていない、そして複雑故に制度をほとんど理解していない。
一方的な政治、批判、官僚批判、単純に今の制度が悪いと非難する風潮に疑問に思う。
Posted by ブクログ
2025.06.16
この本は読者の立ち位置から読後の感想が大きく変わると思います。
わたしは年金官僚の奮闘ぶり、特に若くして病魔に敗れた官僚の多さに慄然とし、国会議員でも年金制度を理解している人ほど早死にしているという悲しい現実が今の年金制度をかたち作っていることに残念な想い。
この本で一番酷い輩は「俺たちは与党だったことを忘れないといけない。野党に徹しないといけない」という厚顔無恥な放言とふるまいを示した山井和則だ。387ページ前後を読むとよくわかる。
年金制度は、民主党政権でコースアウトして、自公政権に戻ってからは政権の道具に成り果てていることもよくわかる。
大変勉強になった。
Posted by ブクログ
官僚人事や人間関係は個人を知らないのでちょっと分からなかった。読み方間違ってるかもしれないけど年金政策から見た政権運営の本として楽しめた。GPIFの始まりなんかもよく分かってなかったから勉強になった。
Posted by ブクログ
実名入りの生々しい厚生官僚の政治・メディア・学界・大蔵・(社保庁職員)との闘い。直接会っている人もいるし、その点でも生々しい。
・マクロ経済スライドは「マクロ経済」ではないとは思っていたが、やはりごまかしのネーミング。
・政治に翻弄さえるだけでなく、出生率やデフレにも翻弄されたのは不運だった。しかし、制度設計をいくらうまくやっても国民の理解を得なければ。
Posted by ブクログ
制度設計は真っ直ぐには進まない。利害関係者の荒波をどう乗り越えるか。
複雑な年金制度の内容と経緯、関係者の思いの一側面を垣間見る。
政治による改革、政治による翻弄。
Posted by ブクログ
年金制度の立案や運用に携わった「年金官僚」に焦点を当て、我が国の年金の歴史を紐解く。
まさにドキュメンタリー番組を見ているかのような読ませる文章で、かつての年金官僚たちの奮闘や、政治により年金制度が翻弄される様などがよく伝わってきた。
「マクロ経済スライド」が人口減少、平均余命の延びによる調整に過ぎないことなど、年金制度についての理解も深まった。やはり年金制度は複雑怪奇で、今までわかっているようで、全然わかっていなかったことがわかった。
本書で年金官僚の歴史を振り返ってみて、行政学で指摘されているように、日本の官僚の趨勢が、昭和の頃から現代にかけて、国士型官僚、調整型官僚、吏員型官僚と変化してきたということを再認識した。小山進次郎氏や山口新一郎氏などは、まさに国士型官僚であり、この方たちの下で働いた年金官僚たちはめちゃくちゃたいへんだったろうが、とても働き甲斐があっただろうなと思う。
一方、著者も年金官僚の〝顔”が見えなくなってきていると指摘しているが、年金官僚に限らず、近年の官僚が小粒化しているのは確かだと思う。本書の最後で紹介されている現職の年金官僚による「官僚的書面回答」が全てを物語っている。かつての国士型官僚が理想の姿だとは必ずしもいえないとは思うが、官僚たちにはもっと気概、人間味を持って政策立案に取り組んでほしいものである。
Posted by ブクログ
年金制度を巡る、官僚と政治家とマスコミの綱引き。
官僚も「きちんと」制度設計しようとしたり、政治に食い込んで暴走したり、まあなんというか国民の側からしたら、年金だけで優雅に食ってたと思しき前の世代を見てるから、あれが年金生活だと信じてるからな。年金だけで生きていけないとなると発狂する。
無理やん。
入ってくるものがなければ出せない。
そんな当たり前の議論を、政治がさせない。
何やるにしても経済のパイを大きくするしかないと思うのだが、それをしないで使い方の議論しても万策尽きるわなあ。
制度を維持することと、その制度が生活を維持するかは別だし。
それにしても、金を、それも他人の金を握らせると、権力は碌なことをせんものやな。
Posted by ブクログ
力作。
年金官僚が、優秀で、国民・国の事を考え、苦労を重ねてきた事がわかった。
時の政治家は世論の受けを狙って分かりやすい政策を取ろうとするが、素人が多く、官僚が苦労してきた事が分かった。
大作すぎて、途中で挫折。