あらすじ
母はなぜ、義母だと嘘をついたのか。
明日見つむぎはごく幼い頃に父と母を亡くし、母方の親戚である奈緒に引き取られた。奈緒は心に不調を抱えながらも「義母」としてつむぎを懸命に育てる一方、心の距離を取ることにはこだわり、「母」と呼ばれることをかたくなに拒んでいた。
そんなある日、病院から奈緒が倒れたと連絡が入る。持病の子宮腺筋症が悪化し、大量に出血したのだという。急ぎ病院に駆けつけるつむぎだったが、そこで医師から奈緒の病状だけでなく、奈緒がつむぎの実の母親であることも告げられる。
信じがたい話に愕然とするが、医師が持つカルテには、たしかにこの病院で奈緒がつむぎを出産したことが書かれていて――。
母はなぜ、義母だと嘘をついたのか。18年間隠された出生の謎を追う、現役医師作家が描く圧巻の家族小説。
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Posted by ブクログ
産婦人科医・結衣子が過去に手を染めたグレーな医療行為は、さらに違法の医療行為につながり、結果的に様々な支障や問題を生じさせ、本人だけでなく、その母子に大きな暗い影を落とすことになるが、その時々の事情下で法律・倫理観と命を天秤にかけた時、それしか選択肢がなかった、それが最善の方策であったということに違和感を感じず、自分にはすとんと腑に落ちた。
現在国内で認められている不妊治療は非配偶者間人工授精までで、アメリカやイギリスで認められている非配偶者間体外受精や代理出産は認められていない。代理出産を望む夫婦年間数十組がアメリカやイギリスに渡るらしいが、たとえその結果子供を得たとしても日本では養子扱いとなる。
望まない出産、血が繋がっていても、愛情を抱けない、と言った不幸な親子関係がたくさん存在する中、「不妊治療で生まれる子=100%望まれて生まれる子」であるのに、現法下で認められている不妊治療にはまだまだ限界がある。夫婦の形、家族の形が多様化しているこの時代、夫婦別姓問題、同性婚問題、戸籍の問題などとともに不妊治療の問題も転換期を迎えていると感じた。
とはいえ、そもそも家族を作るものは、血より共に重ねる時間、理解、愛情だと思う自分には、過去と向き合い受け入れたつむぎが奈緒さんとともにようやく家族のスタートラインに立ったラストには希望を感じることができた。